978外伝2 日常のモザイク 欠片。

なんだか。
今の日常が大好きだ。

普段通りの生活。
母は、あまりに破天荒すぎて・・・
いや。ソコではないだろう。

「マユ、じゃあ行ってくるよ。」
愛する夫が、寝ている子供達にキスをして、部屋から出ていく。
買い置きのパンで朝食を済ませた夫は、剣術ギルドで後裔のために指南役を任され、生活は安定して。

ただ。
少しだけ。
不満、と言えば贅沢なんだ。それは。

わかっている。

彼に出会う前。

この街で。

あたしは。

「冒険者」としての一歩を確かに刻んだ。
その成果として、今の生活がある。羨ましくも映るだろう生活。
でも。
振り返ると。

むちゃくちゃ。

そう。本当に。笑いが堪えられない。
そこに。
「ママ?」
娘が声をかけてくる。
「ターシャ?まだ寝てても大丈夫よ?」
「アクィラの寝相がムカつく。」
「しょうがないわね。まだ子供って、あんただって子供、よ?」
ミルクを温める準備を。
「ねえ?」娘が
「どうかした?パパはもう出たわよ。」
「そうじゃなくって。」薄いグレイの映える髪を手でかきあげて。
「アルダネスの特待生って、あんまり優遇されてない。」
「は?何言ってるんだか。」あたしは、ため息をつきたくなるのをこらえ、この自信満々な娘は「魔女」たる母にソックリだと思いながらも。

「どの辺が?」と聞く。
「魔女の娘、血統(ウィッチ・ブラッド)って。茶化してくるから、ムカついて、2,3人ブチのめしたら、教師達がやってきて、アタマ下げてくれって。
あたし、悪いことしてないよね?」

・・・・・・・・・・・

ああ。もう。 母さん・・・確かに「血」は譲れないのね・・・。
あたしは半ば、諦めて。
「不当な暴力に立ち向かう、それはいいことよ?でもね。感情でやっちゃうのはダメだよ?ターシャ。」
これだけはなんとか言えた・・・でも。
「ママ。この前、ボケ達を滅多打ちにしたじゃない?」
「ああ・・・、ああいう手合いには、コチラが上って教えてあげるっていうか・・」反省はしている。はず・・のよ・・・うん。
「あたしも、ママや、ばーばみたいになりたいから!」
「わかった。でも、約束して。その「チカラ」は、ただ「血統」だからじゃないわ。想いの集まり。だから、無闇に使うんじゃなく、大事な人のために。ね?」
自分に課した課題を、まだ幼い娘に言ってしまった・・・
あたし・・・。本当にバカだなー・・・ウルラに言えば、また叱られそう・・・。
「うん。ママ。」娘は、天真爛漫な笑顔で応え、自分も頷く。


(はい?あれ?マリー?どうしたの?)
(さっき、エフェメラさんから連絡があって。)
(あら、パールでのやり取りって珍しいわね。)
(そうなの。で、なにが?って聞いてみれば。)
(もう、勿体つけないでよ!)
(ごめん、義姉さん。エフェメラさんが今夜、オイシイお店を紹介してって。)
うわ(・・・なんとなく、だけど・・もしかして、社長さんとこ絡み?)
(たぶん・・・エリスさんも、というか。そちらがメインなよーな?)
(コッファーじゃダメなの?)
(流石にこのメンツでコッファーに行けば、まさしくコフィン(棺桶)になっちゃうって!)
苦笑いが伝わってくる。
(あー。どうしよっか。こちらだと、エフィちゃんと、エリスさんがターシャの生贄になるからなあ・・ドコがいいかな?)
(ですよねー・・・)
(ターシャをウルラに押し付ける、としても・・・かなり無理だなあ・・)
(でしょうね・・)
エフェメラの表情が目に浮かぶ。
(じゃあ、こうしよう。コレなら問題ない!)
(いいプラン、あります?)
(うん。親父の店に行こう!これなら大丈夫。エフィちゃんは行ったことあったかどうだか忘れちゃったけど、味は問題ない!)
(・・・義姉さん?確かお昼しかされてないんじゃ?)
(孫連れて行くんだ。文句い出すようなら、母さんの鉄拳制裁が下るわよ!)
うん。
(・・・それはそれで、スゴイ展開ですね。)
(今のうちに母さんに連絡しとくから。マリーもセレーノと一緒に。)
(あ、その?)
(うちの旦那は・・来れないだろうし。ファーネと一緒にかな?)
(ええと?)
(大丈夫、こちらで用意しとくから。連絡だけお願いね。)
(ありがとうです!)
(はいな。)

よし。
パールをしまい込み、昼食の準備をしながら、子供達を追い出す準備も進める。
「おら!お前たち!ちゃんと学校に行け!」
お弁当を渡しながら見送る。

(母さん?)
(マユ?どうしたの?)
(たまには?子供達の面倒みてよ。あたしもマリー達と親父の店に夕食を食べに行くから。)
(あー、りょーかい。サンドロにはちゃんと言っとくから。ウルラ君は?)
(仕事で追いつかないと思う。ファーネさんと一緒にどこかで食べてもらう。)
(いいんじゃない?歓迎するわよ。)
(ありがとう。)
パールをしまう。

「んじゃ・・」
ウルラのために昨日の夕御飯をベースに作り直したランチをぶら下げて。
うーん、あたしもちゃんと主婦になったんだよねー
笑顔がこぼれる。
通り道にエフィちゃんの露店もあるから、このプランも話さないと。
「えへ。」

今日は楽しい一日になりそうだ。

そう、数え切れない、この街を彩るモザイクの欠片のような。
でも、一度見つけてしまえば、記憶に残る。
そんな、鮮やかなひと欠片が。
きっと。

「うん!幸せ!」
この幸せは・・・神様がくれたのだろうか?そうだと嬉しい。でも。
「あたしだって、少しくらいは頑張ったから・・そのご褒美だよね。」

ブルーグレイの髪を風に揺らせながら、愛する人のもとに手料理を届けに。
この時間が幸せのヒトカケラで、積み上げれば、もっとすごいものに。そう信じて。

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