生い茂る木々、さらさらと流れる清水。
苔むす岩や、胸いっぱいに空気を吸えば、清涼な命の息吹を感じれる街。
エオルゼア都市国家郡の中でも特に治安もよく、穏やかな街なのは治安を任されている鬼哭隊のおかげでもある。
そして、鬼哭隊の隊長スウェシーナを少々悩ませる事態が・・・
「そして・・」栗色の髪を短めに揃えた妙齢の女性は、一通の書簡を見ながら。「コレってなんなの?」
「はっ・・それがその。」部下の一人が困り顔で応える。「レターモーグリが、差し出し人不明、宛先不明の書簡を受け取ったので、なんとかしてほしいクポー、と。」
同じく、困った顔の隊員(不思議と仮面をつけていてもわかってしまう)。
「それは先刻聞いた。そして、語尾にクポーなどと付けたところで内容が変わっとらんだろうが!」
「すみません。しかしながら・・その・・書簡に書いてある字がどうにも判別が難しく・・」
「いつの間に我々は治安維持から、便利屋さんになったんだか・・。こういう仕事は冒険者ギルドに回す方が効率てきだろう?」
「は・・それが・・、ギルドマスターが隊長を名指しで「持っていけ」と言われまして。隊員はしどろもどろに応える。
「困ったものだな。しかし・・何故・・?」「は、なんでも、かの魔女殿宛ではないか?と。」
ぶふっ
飲みかけだった香茶を吹き出しかけ、むせこむスウェシーナ。
「また・・アイツ絡みか・・」
目の前の書簡には、太とぶととしながらも、何かがのたくった様な、古代アラグ文明もかくや?と言わんばかりの文字?らしきものが書かれている。
もちろん、中身の方も見分したのだが、若干、線が細くなっただけで、上から下までが繋がった線でしかない、というかソレにしか見えない。
「で・・アイツにこれが読めると?」「・・・さあ・・・?」「そして、何故直接アイツのとこに持っていかない?」「いえ、魔女殿の所在は我らには掴むことが困難でして・・」
(言われてみれば、確かにそうかもしれない。が、それは自分だって似た様なものだ。)「まあ、いい。」
隊員が一礼して退室していく。
「レティ、今度は一体なんなのよ・・・。」一息付き、茶をすする。
そして壁には・・「郊外にて、人斬りが出没。警戒を厳重に」の張り紙。
「こっちだって、忙しいんだから・・。」
「なあ、ミッター。」森の木々に隠されている小屋。よほど注意深くしていないと見つけることも難しい。
「ん?黒・・姉ちゃん?」茶色の髪を最近、色気が出てきたのか少し気にし始めている青年。
「あの、果たし状、ちゃんと出したのか?」
「・・・ああ・・・あれね。うん。三日も前に。モーグリだったらその日のうちに届くでしょ。」
「ふむ・・・。なら、おかしいじゃないか?」
「なにが?」
「だって、三日も前に届いたんなら、返事があってもいいじゃないか?」
「そりゃ・・そうかもしれないけど。あの人だって何か仕事があって、見ている余裕というか、返事を書く時間を取れないんじゃ?」
「そのうち、村正もって殴り込みに行ってやる・・・」目が据わっている、黒雪。
「ははは・・・」冗談とは思えず、乾いた笑いを浮かべるミッターク。(レティさん・・早くリアクションして・・)
数日後・・・
「ねえ、レティ。何してたのよー。パールにも出ないで。」
スウェシーナは憤懣やるかたない表情で、長年来の親友と膝を突き合わせて、カフェでケーキセットをついばんでいる。
「ちょっとヤボ用。気になる?」黒髪の年齢不詳の美女。「で?なんの用?」
「アンタのヤボ用なんて聞いたら、厄介事が増えるだけ。こっちはやっと時間作ったんだから。」と、例の書簡を渡す。
「これ、あたしに?」手に取って見る・・・「うわ、なんだこりゃ。確かに東方風・・・っぽいけど、達筆過ぎて、何書いてあるかわからないわね・・。」
「でしょ?それに・・・右上から字を読むって最初気がつかなくてね。」
「そりゃそうだ。あたしだって、その程度の知識しかね・・ただ・・」
「ただ?」
「こんな手紙寄越すっていや、あいつくらいしか居ないんじゃないの?」
「あいつ?」首をかしげるスウェシーナ。
「ああ、スゥはあんまり面識ないしなー。東方の剣士だよ。普通にパールで言えばいいのに、何をまどろっこしい手紙、しかも読めないんじゃ意味ないだろ。」
コメカミを押さえる魔女。
「あぁ、あの娘ね。そういえばそうね。たまに顔出すんでしょ?」
「ああ。最近はボウズの方が色気づいて、何かと世話焼きしてるんで邪魔しちゃ悪いな、と思って控えめにしてるんだけど。」
「それで、恋愛相談とか?」
「パールで・・・あ、そうか。このパール使うとあのボウズにも伝わるか。そんで手紙とは・・しかも、読めないし。どんな暗号だよってクラスだな。」
「それ、彼女が出したんじゃなくて、その子が出しに行ったんじゃ?あの娘、外出は控えめなんでしょ?」
「ああ。死んだコトになってるからね・・・ああ、合点がいった。あのボウズにも見られたくなかったんじゃない?」
「なるほど・・それなら。しかし、人騒がせね・・。」ああ、全くだ。隊長はこのくらい今の「人斬り」の件もなんとかならないかなー、と・・
「スゥ。」「え?」「しょうがない。あたしからも一筆、たしなめておくからモーグリに渡しといて。」
「ちょ!貴女が行きなさいよ!」
「ヤボ用だって言ったじゃない。ソレに、そっちとも関わってるかもよ?」
「へ?」「今さっき、まだ厄介な件を片付けてないのに、ってカオしてた。」
「敵わないわね。」「人斬り、じゃないのか?郊外の。」「!?・・なんで?」「あたしは、元密偵ですよ?それもこの国の。たまにはお仕事の手伝いくらいしないとね。」
「ありがと・・」くそう・・お見通しで呼び出したのか・・。
次の日。
「なあ。ミッター。これ、なんて書いてあるの?」
受け取ったミッターは、綺麗な便箋に流麗なエオルゼアコモン(共通語)を筆記体で宛名と、差し出しを見て
「魔女殿から。開けていい?」
「当然!こんだけ待たせたんだ。場所は?」
「いや・・その・・なんていうか。相談があるなら、いつでも乗るから東方の暗号で書かずにコモンで書け、と。それと、しばらくはグリダニアにいるから、カフェでもどこでもいい、パールで呼べって。」
ざっくばらんな内容だが、筆記体で書かれたらおそらく黒雪には読めないだろう・・あの「果たし状」はこの内容だとやはり理解してもらえていなかったみたいだ。
「どうする?」恐る恐る・・・
「カフェに殴り込みに・・・」「やめて!やめて!!」
ミッタークは、このご機嫌を鎮めるために翌日に、ご馳走を振舞うと約束させられた・・・。