「人斬り」ね・・・
黒髪の女性は、コタツに陣取りながら、せっせとご馳走を振舞うべく動いてる青年をぼ~っと、眺めながら。
そうね。
私は人斬り・・・。だ。
かつて、この汚れ仕事を請け負ってきたし、その片棒をこの青年にも・・・背負わせて。実妹には、できうる限り遠ざけさせた。
そのツケを支払い、隠遁生活に入り・・・それでもまだ、この刃に対する「情」に近い感情は、捨てきれないのかもしれない。
それが「妖刀」と謂われる刀だからなのか、己の性なのか。
未だ、答えは見いだせない。
「人斬り、ねえ。スゥ?」グレイの髪を束ねた女性「天魔の魔女」ことレティシア。
「あによ?」と彼女は鬼哭隊の執務室のデスクにかじりついて、報告書とにらめっこを続けている。
「なんの報告書?」あっけらかんとした態度で近寄ると、一枚を手に取る。
「あー、触んな。過去の「件」との比較。順番狂ったらまたイチから整理しないとダメなんだから。」
「ふうん。で?」近づく顔に
「なによ?」としかめっ面。
「何かわかったの?」しれっとした態度で髪をすきながら、報告書を返す魔女
「そうね・・殺害手段としては、過去はともかく、現段階では同じ類の刃物による殺傷。それも一撃で急所を。突いたりするのではなく、切り伏せている所は全く同じと言っていい、かしら。」
「ほお。」
「だから、「人斬り」なの。唯一違う点としては、過去の履歴だと政治犯或いは、重犯罪者。ところが今回、被害者は無差別と言ってもいい。
冒険者や、商人、犯罪者。魔物なんかは数には入れていないけど、もしかすれば手頃なものは狩っているかもね。」
「なるほど。大した情報力じゃない。」
「レティ?どうせ貴女だったらこのくらいの事は調査済みでしょ?」
「そうだけどね。ただ・・」
「やっぱり・・・」少し不貞腐れた表情の隊長だが「ただ?」疑問符を。
「いや、まだ確証はない。推測だけの判断は避けたい、かな。」
「なによ、レティらしくもない・・」
「そういう時だってあるわよ。」魔女は苦笑いをしながら「お邪魔したわね。またカフェで。」と言いながら去っていく。
まったく・・・迷惑来訪者め・・ スウェシーナは、彼女が提示した疑問符について考えを巡らせる。
「ふ・・・」くすくす・・・ 宵闇に 月光に映える刃。そして。
滴る、漆黒にも似た液体。
「これ、よ。そう。これ。こうでなくては・・。」
黒髪の女性は、着物に付いた飛沫の朱色を眺め、悦に浸る・・・・
妖刀は、雫を吸い取るように煌き、妖しい輝きを増す・・・
「隊長!」
執務室にて、仮眠を取っていたスウェシーナは、息子の声に起こされる。
「どうした!?」軽い眠気を感じさせず、起き上がる。
「また、被害者が・・出ました。今夜の二番警ら隊が発見、被害者は冒険者。初心者だったらしく、帰り道を間違えたのか、少し道から離れた場所で。」
「ネルケ、非常線は?」
「はい、手配はシャンが。三番隊、四番隊と就かせていますが・・」
「いいだろう、街中にも手配しろ。外出は禁止だ。この騒動、早々に鎮めてかからないと。」
「はい!」足早に出ていく息子を見送りながら、子供ができたら一気に精悍になったなー、など。
「わたしも老けた?か?」苦笑い。 傍らにある「竜の髭」を手に。
「ん・・。あの影・・・まさかね・・。」グレイの髪の女性「悪名」高きレティシアは木々を駆け抜けながら、一番出会いたくない人物を想像し・・・
「ねえ。起きなよ・・黒。」玄関口にて。
「ん?もう食べれない・・・・」息を、ぜえはあとついて、倒れ掛かる女性。
「さっき、食後の運動とか言って、出て行ったばっかりじゃないか。帰ってくるなりなんだよ?それ。」
「いろいろあるの。」
「はいはい・・・でも、運動だからって、真剣振り回すのヤメとけって。それじゃなくても物騒な話があるんだから。」
「・・・うん。」
妖刀、村正を片付けに床の間に戻り、そのままコタツで眠りに落ちる黒雪。
くふふ・・・・ うふ・・・・・ まだ・・・ そう・・・まだおわらない・・・
「んで?」カーラインカフェにて。
「あー、レティ・・・警らの方は全く情報らしい情報は変化ナシ。」くたばった、とばかりにテーブルに突っ伏す隊長。
「こっちは、少しばかりの進展があるけどね?」したり顔の魔女。
「へぇ~・・・って!なんのよっ!」ガバッと起き上がり、掴みがかる勢いで。
「あの娘からの返信。」
「あー・・・んで?用件ってなんだったのよ・・・」再び突っ伏す前に、眼光だけは
「容疑者、ってコトでその目つき?」
「もちろん。それ以外に何か?」
「じゃあ、簡潔に。灰色かな。」
「なんだそれ?」
「この前の暗号みたいなの、果たし状なんだって。あたしにケンカ売りに来た、ってところかな。で、こっちが中々返事をしないでいたもんだから、イライラしてたって。」
「どういう?」
「さあ?ボウズ君からのお話だから、なんともだけど。で、夜な夜な、ってわけじゃないけど、たまに夜にあの妖刀を持って運動をしに行くとか。」
「それって、容疑確定じゃないの?」
「それがねえ・・。あたしも夜警してんだけどさ。確かにそれっぽいのを見かけて、追いかけたんだけど。上手に逃げられて。」
「らしくないわね?」
「言わないでよ。暗闇に黒装束、黒い髪とくれば、中々タイヘンなんだってば。」
「でも、それだけ近い姿なんだったら・・」
「それがねえ・・あの「家」に向かう方角でもなかったし。上手く撒かれたか、な?」
「魔女の名も、これで返上かしらねー?」
「フルボッコにすんぞ?」
「あっわ、冗談だってば。でも・・」
「うん。なんとなくわかってきた。でも、まだ鬼哭隊は動かさないで。」
「わかった。でも、いつでも出れるように待機部隊は用意しとく。」
「オーケー。」「でしょ?」「それじゃあ、魔女の本領とやらを見せてやろうじゃない。」「期待してるわ。」
くすり。
ほくそ笑む女性は、常闇の中に・・・・