EX2外伝。「ロストストーリー」2

「う~ん、と・・」
寝台の中の青年は少し思い出すために頭を掻きながら。
「そうそう・・」と話を再開していく・・・


マンサナと名乗った男は陽気な声で「あんた、どこの出身だい?」歩きながら尋ねてくるが、そもそも自分が何をしていたのかすら・・いや、戦場?で戦っていたのだ。
だが、誰と?なのに、出身なんて・・思い出せる事は、起き上がればそこが戦場だったというくらい。咄嗟に名乗ったルーペスなんて、たまたま岩が見えたからだ。

・・・・・ん?

男は特に気にしなかったようだが・・・普通、名前を聞かれ「岩」と答えられれば、オカシイとか思わなかったのだろうか?岩=ルーペス・・・どこの発音だろう?咄嗟にでた、
ということは今しゃべっている言語とはまた違うはずだが・・、馴染みのある言葉であろう。思考をそこで止め、心配げに見ている男に答える。
「いや、それが。ザナラーン、の田舎だよ。」
これも咄嗟に出た。
ザナラーン、という地名がある、と。なんかそんな気がして。
そして、案の定、男は「そうか。」とだけ答え、歩き出した。
あの女性の影と何か結び付きがあるのかもしれない。この単語も記憶に染み付いたものだったのだろう。忘れないようにしなければ。

そして、男に付いて歩いていると、この草原もなにやら物騒な大穴が散見される。
大きくえぐり取られた穴からは、岩が突き出し、ただの草原だったはずだろう景色がかなり変わっていると思える。
チクリ、と少し胸が。記憶が。何かが・・・そうだ・・。
確か、この草原・・見たことがあった。何か、大事な事を言った。多分・・・
「どうした?気分が悪いのか?」とマンサナが足を止め。
「ああ、少し。戦場で見た大穴、この辺にもあるんだな。」
「そうだ。商売上がったりになりそうだぜ。しかも、その影響かどうだか知らんが、今年は寒い。」
「ほう?」
「もうすぐ寒期の季節だ。北風が吹き始めてる。ただ、その時期が早い。」
「そうか・・。」
「これは数年ぶりに雪が降るだろうな・・」
「雪?」
「ああ、白くて冷たい。水が固まってできる氷を細かく砕いて、ばら撒いたように降ってくる。」
「ふうん・・・。」
「よし、見えた。あれさ。」一見の小屋がみえてくる。


男はドアを開け、中に案内する。こじんまりとした居間と、奥にドアが3つ。
「とりあえず、俺の城だ。ようこそ、ルーペス。」
「ああ、ありがとう。」
日差しも陰り始めた頃だが、そろそろ寒気が感じられた。
「今、火をおこすから待っててくれ。」と暖炉に火を入れる。火のシャード(クリスタル片)を幾つか薪にあてがい、なにやらブツブツと・・
その間に居間を見渡し、テーブルと椅子が2つあることに気がつく。
「これは?」この男以外に誰か住んでいるのだろうか?男の年齢は聞いていないが、
おそらく40歳くらいだと思える。ということは細君でもいるのだろう、が、出迎えがない上に暖も用意していないなら外出中、か。

こんこん。

開きっぱなしの玄関(そういえば閉めていない・・)のドアをノックする音に振り返る。
「あの・・・・」
か細い声と同じく、華奢な女性。
目を引くのは、その整った顔立ちにかかる真っ白な髪。そして、赤い瞳。
「おお、フルート。今日は早いな。」マンサナは暖炉から玄関に向き直る。
「はい・・。」言いながら、玄関のドアに隠れるように「この・・お方は?」
「ああ、さっき行き倒れみたいになってた。ええと、ルーペスというんだったな?」
「あ、すまない。ルーペスだ。ちょっとね。」
「紹介しよう。姪のフルートだ。どうにも人見知りでな。それと、見た目通り少し体が弱くて、陽の光に弱いんだ。すぐに日焼けしちまうから、夕暮れからくらいしか外には出られないんだ。」
「そうですか。それは難儀な・・ああ、なら早く入られた方が。外は寒いでしょう?」
「・・・・ありがとうございます・・・・・」家に入ってくる。
少女をしばし見つめ、おっと「失礼。」場所を譲る。
この白さは・・アルビノ、だったか・・。先天的に色素が無いとかいう。誰から聞いたのか覚えていないが・・・。魔女?ん?そんなおとぎ話みたいな。と心の中で一笑に付す。
「では、とりあえず夕食の準備をしよう。フルート、悪いが彼は少し怪我をしていてな。看てやってくれ。」「はい・・。」「ルーペス、この子は薬師の勉強をしていてな。安心しろ。」
「ああ、すまない。助かるよ。」
椅子に腰掛け、怪我したところを見てもらい、「道具をとってきます。」と三つあるドアの真ん中に。
「彼女はどこか違うところに住んでいるのか?」と、質問に。
「ああ、少し離れたところに姉と住んでいる。たまに俺のところに来て薬草やなんだと世話をしてくれる。」
「そうか。」
「ああ、たまに泊りがけもあるが・・・・手をだすなよ?」
「なっ!待て。いきなりそんな真似、するわけないだろう?」
がちゃり。とドアが開き。「どうか・・されたの?」
「いや、なんで・・」「ああ。気にしないでくれ。」と場をつくろう。
怪我の手当てをされている間に、なんだかんだと夕食のいい香りが・・・

3人で卓を囲み(あの椅子はこの娘のだったか。自分は来客用?の椅子で)
彼女は熱いものもダメらしく、かなり冷ましてからスープとパンを食べている。
味付けはまあまあ、だがこの際文句は言えない。
「で、仕事っていうのは?」
「ああ、羊ってわかるか?そいつの毛を刈り取るんだ。なに、大人しいもんだ。ただ、量がすごくてな。
それと、寒期ように奴らの餌になる草の刈り入れだな。これも量がすごい。よろしく頼むぜ。」
「ああ。」
食事を終え、片付けをするとフルートと名乗る少女は真ん中のドアに。
「ああ、ルーペス。お前の部屋なんだが、右のドアを使ってくれ。物置になってるが、勘弁してくれよ。
明日にでも道具を整理して多少はマシな部屋にするから。何かあればまた言ってくれ。」
「ありがとう。とりあえず休ませてもらうよ。」
「おう、おやすみ。」
「あ、毛布か何かは?」
「お、そうだった。ちょっと待ってくれ。物置だけに置いてあるはずだ。ついでに明かりも用意しなくちゃな。」

二人で物置に入り(やはり狭い・・)寝れるだけの場所と灯りを。
「じゃあ、おやすみ。」「ああ。おやすみ。」

静かに横たわり、疲れのためかそのまま夢の世界へと・・・。


「本当、あの時は寒かったし・・よくザナラーンだの、アルビノなんて言葉が出てきたよ・・。」
「ふうん。魔女って、母さんの事でしょ?」
「だな。それに、アルビノの事は瞑想窟あたりで習ったかな。よく出てきたよ。」
「その子はどうしたの?」
「ま、それはね・・・」

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