うーん。
思い出される時は、なんとなく・・切ない、のか。
「ま、それはね。記憶が戻るのと引換え、ってんじゃないんだけどさ。」
「うん・・・。」
寝台で夫の話に聞き入る女性は、その言葉に少し・・。
「あれは、寒期が差し迫ってきて・・・」
「これでよし。」
この地方にたどり着いて、もう二月ほどか。
小屋の横にある倉庫?に刈り入れた羊毛を運び入れ。
金髪の青年、ルーペスは一汗を拭う。
「あの・・・これ・・・。」真っ白い少女が。
昼下がり、まだ明るいとはいえ曇り空が鈍色に広がる。
「ありがとう。」といい、羊乳で作った飲み物(やや酸っぱい)をくれる。
この少女は生まれつき、陽の光に弱く、この時間に外に出ることはほとんど無いという。
「大丈夫?まだ明るいけど。」と気を利かせるが、「はい。・・・曇りですから。」
「そうか、ムリはしないでくれよ。フルート。マンサナに怒られる。」と笑う。
「そんな・・・。」と少し物憂げに・・
「じゃあ、次の荷物を持ってくるから。家に入っておきなよ。」
「・・はい。」
もう一度袋詰めした羊毛を取りに行く。
ここでの生活にも少し慣れてきた。北方?故か、肌寒い日中も、働いていれば意外と気にならない。夜は寒いが。
ただ・・少しだけ気になるところがなくも無い。
フルート、という少女。彼女は「離れた場所に家が」という話だが、この小屋から羊達のいる草原の道のりでそれっぽい建物は見かけられなかった。
体力の無い少女が、まさかの健脚というのでもない限り、ちょっと気になる。
夜だと魔物も出るかもしれないし、何より寒い。そんな環境で大丈夫なのだろうか?
それと、気になるといえば・・。
住処にさせてもらっている小屋だが、決して裏手には回らないでくれ。と。
理由は個人的に見せたくない、だそうだが・・。そう言われてしまえば、やっかいになってる以上、深くは突っ込めない。誰しもそういうものがあるだろう。そう納得している。
「よお。待ってたぜ。」と荷袋を二つ、指差して。
確かにさっきは残り一つだったのに・・もうひと袋追加したのか・・。
さすがに世界一だとか言ってるだけのことはある。走り回る?羊を追い掛け、毛を刈り取るにはそれなりに時間が必要だ。
4頭ぶんの毛が入る袋をこの時間で満杯にするには、かなりの労力が必要だ。一度試しにやってみたが、一頭やる間にマンサナは2,3頭を刈っている。
仕方がないので、袋を運ぶという作業をしているわけだが・・。
「ああ、それと。」フルートから預かった食事を渡す。
「おう、ありがとな。」と、パンとチーズ、それと羊乳を受け取り、休憩を始める彼は、最初に見たときより少し老けたように見える。
髭面は確かに初対面からだが・・白いものが少し混じってきた?か。
「大丈夫かい?」
声を掛けるが、気にした風でもなく。「ああ、大丈夫さ。」と答え、羊乳を飲み下す。
「なあ。マンサナ。あんた、年いくつになる?」
「あ?急にどうした?」
「いや、おれは・・・いくつだったかな?思い出せないんだ。」
「そういや、そうだったな。まあ、俺より年上ってこともないだろう?」
「そうだな・・・ああ。」
「その時は、なんだかはぐらかされたけど。特に気にはしなかった、かな。」
「・・・そう。」
「で・・」思い出話を続ける。
あれから幾日もしないうちに雪が降り出して。
「うわ、寒いと思ったら・・。これが雪か。」
「あ、そういや初めてだったか?」
「たぶん・・・見たことがあるかもしれないけれど。」
「まあ、降りだしたらしばらくは休みだな。」
「そうなのか?」
「ああ。真っ白になるから自分がどこに居るんだかわかんなくなっちまう。」
「羊たちは?」
「あいつらは、腹が減ったらここら辺までやってくるさ。そしたら刈り入れた草をやる。そういう仕組みさ。」
「なるほど。だから連中も慣れたものか。」
「ああ。だが・・今回は毛の刈り入れが遅くなっちまった。それにこの寒さだ。凍死する羊もでるかもしれねえな。」
「そうか・・。」
「気にするな。天気ばっかりは俺たちにはどうしようもない。」
「・・ああ。」
「まあ、連中もバカじゃない。身を寄せ合ってなんとかするだろ。」
「そういうもんか。」
「だな。そう教えてもらったよ。」マンサナは暖炉にあたりながら、ぼそりと。
「ふうん。」(誰にだろう?)
そうして、緩やかに。そう、ゆるやかに時は刻まれていく。
「飯はどうなんだ?」「ああ、羊肉を干したのが。それと小麦はあるからパンもできる。ミルクもあるしな。」「そのための羊、か。」「ああ。餌付けする価値はあるだろ?」「だな。」
ここしばらくは小屋に住み込んでいるフルートが食事の準備をしてくれるので、準備と片付けくらいしかすることがない。「困ったね・・」「どうした?」「暇だ。体がなまる。」「それなら・・。」
屋根に積もった雪を降ろすから手伝えと。
屋根にはマンサナ、そして落ちてくる雪を小屋から遠ざけるように運ぶ仕事。
「しっかし・・真っ白だなあ。」「だろ?」
そして、本当なら寒期が終わっているだろう時期にも、雪は融けず・・たまに降り続ける。
そのころのマンサナは明らかに衰弱している、いや・・・老化か?
部屋から出てきた男は、皺が深く、声もしゃがれて・・。
「おい?大丈夫なのか?」心配どころか。ここ数日部屋に篭っていたのだが。
「ああ。至って元気だ。」と答えるが・・。
そこにフルートが。
「もうダメね。」と。マンサナの部屋から出てきた。
「え?」おもわず・・。いや。この少女は・・フルートじゃない。
「まあ、仕方がないわね。1年くらいなら保つと思ったけど・・代わりもいることだし。」深紅の瞳でおれを見つめる。
あまりの事に動けない自分がいる。少女はフルートではない・・・見た目、声、全てが彼女のはずだが・・。
あの娘はこんな喋り方をしただろうか?そして、マンサナは恍惚とした目で彼女を見つめ、その間に老化は進んでいく。
毛は抜け落ち、眼窩はくぼみ、白目が黄色く変色し、段々と干からびていく。意味がわからない。
その時、真ん中のドアが開き、真っ白な少女が出てくる。
「姉さま!やめて!」
「フルート!」つい叫んでしまう。
「なんだ?ニンゲンに名前をもらっていい気になったか?12番。」
「いいえ!心に触れたんです!ウィット姉さま!」
「つまらん。ウィットだと?我は10番だ。11番もじきに来る。まあ、いい。このニンゲンと契るのはお前のハズだったが、11番にやるか。我はもういい。十分吸ったからな。」
「な?」声が・・
「ルーペスさん!我ら、いえ。私たちはフラウ(雪乙女)。かの災厄にて現出した精霊。氷の精霊達が集まってできた仮りそめの命。人の精を吸い、偽りの記憶で操ってきました。」
「いらんことを。だが、それまでだ。12番。お前は要らぬ。我が精となれ。」
「ッフルート!」手を伸ばす。
その時に彼女の出てきたドアの向こうが見えた。真っ白な雪一面の部屋。天井はなく、そのまま外に・・。
「ルーペスさん。いえ。ウルラさん。逃げてください。」
「な!?おれの名前を?」
「はい、お眠りの間、記憶を少しだけ。契を交わしに寝ている時に少しだけ・・申し訳なく思いました。
しかし記憶を操るために・・仕方なく。ですが、マユという女性との間に離し難い絆を見てしまいました。ですので、契を交わすことなくその場を去りました。
代りに人の心に触れることができました。感謝しています。」
「・・・。」
「くだらん。12番。大人しく我に飲まれろ。」
同じ容姿の二人が向き合う。
「早く!姉さまは私が止めます!」
「そんなこと!」壁に立てかけてあった剣を掴む。
「ふん。ニンゲン。そんなにこの12番が惜しいのなら、さっさと契を結べばよかろうに。愚かだな。」蔑むウィット?10番。
「ニンゲン様には、情ってものがあるんだぜ!精霊さんよ!」フルートの後ろから飛び出すように。
「だめです!逃げて!」フルートは両手を広げて襲い来る姉を止めようと。
吹雪が吹き荒れる・・・
「ぐ。」さすがにこたえる・・・。凍てつく風に耐えながら。
ウルラは、構えた剣と左腕で顔を覆い、前に進む。
「姉さま!お願い!私はいいから、この方を帰してあげてください!」
広げた両手で吹雪を押しとどめながら、姉を包むように進み、抱きしめる。
「愚か者が揃って我に歯向かうか。12番。望み通り、取り込んでやろう。だが、お前はやはり愚かだ。
お前の精も吸えば、このニンゲンに逃げる場などありはしない。さらに強い力で屈服させるのみ。」
抱きしめられながら、不敵な笑みを。
「そうかしら?」こちらも不敵な笑みのフルート。
「ふん。」同じく抱きしめ返す。そして、徐々に同化していく・・・・
「フルート!」ウルラが叫ぶが、もう半ばが同化している。
「ウルラさん・・・少しだけ・・記憶が戻るキーを残しました・・・」
「な!?」
「マユ、と一言・・・それで・・・失われた記憶が・・・戻る・・と・・おもいます・。」
・・・硬直してしまう・・・
「それと・・・私の事を・・・心配し・・てくれて・・ありがとう。」
「フルート!」
「茶番はこのへんだな。」いっそう強く抱きしめ、妹をほとんど同化させていく。
「お前・・・!」
(聞こえますか・・・・ウルラさん・・・胸を。一突きしてください。私が亀裂を入れておきます。それで姉は・・。)
かすかな思念、か・・
「わかった。フルート。」
「ふん?何がわかったというのだ?フルート?12番ならもうすでに我のものだ。そんなに愛しいなら、11番を待つでもない。我が契を交わしてやろう。12番も喜ぶであろ?」
「お前に、情の何たるかなど、わかるハズがないな!」
「ふふふ・・・さあ、来やれ?存分に愛でてやろう。」薄着の服をはだけ、胸を晒しながら両手を広げて。
「フルート!今、開放してやる!」剣を構え、一直線に走る。
その体に霜が付き始め、剣は氷よりも冷たく、握る手が柄に張り付き、痛みを、そして痛みすら感じなくなる。
白い息と共に気勢を上げる!「おおおおおっっ!!!!」
「ふん。」一層吹雪が増す・・・
そして。
一瞬、時が止まった気がした。
はだけられた胸元に、確かにフルートの意思を感じた。
胸に剣を突き立てる。
カキン・・・。
硬質な音と共に、剣の切っ先が欠け落ちる。
が、勢いは止めない。
剣が弾かれ、手から抜け落ちる。手の皮と共に落ちた剣が乾いた音と共に床に。
そして、そのまま血濡れた手で抱きしめる。
「フルート!」
(はい。)
抱きしめられた雪乙女の胸から。
ピキ。
ピキパキ。
「な?」驚愕に顔を歪め。
「これが、お前にはわかんないモノさ。」
「ばかな?」
「フルートにちゃんと教えてもらえよ。」
(姉さま、私たちは罪深い事を、知りました)
「そんなことはニンゲンの決めた事!我らは、生み出された時よりこう在るべきなのだ!」
(そうですね・・でも、人の温もりを知った私は・・。この温もりの中で。)
「お前、自らの精をそのために使い果たすか!?滅びるために!認めんぞ!」
亀裂は全身に広がり・・顔にも・・
「ウルラさん、お別れです。どうか、ご無事に・・。」
少女の表情は確かにフルートと呼ばれた少女の・・・・・・
「ああ。さようなら。心優しい雪の乙女。フルート。」
抱きしめ・・・パリン、とその体が砕け散る。
周りには・・氷の精霊達が行き場を失くし、ふらふらとドアの向こうの雪景色に帰っていく。
「終わった、か。」感慨と共に。居間の向こうで横たわる男、マンサナ(本名かどうか・・)も弔ってやらねば。
そして。
足元にキラリと光る氷の水晶。
拾い上げる。
「フルート?」
パリン・・・・砕け、散っていく。
「・・・。」
そして、血のにじむ手のひらには。
氷水晶の欠片。
「そっか、そこにいるんだな。」優しく包み込む。その欠片は氷なのに・・・ほんのりと温かく・・・
「じゃあ、本当にお別れだよ。」そっと欠片をドアの向こうの雪の中に・・・・
(また、会えるといいな。)つぶやき・・
意を決し。
「マユ。」と呟く。
記憶の奔流が・・・思考を埋めていく。
「ああ。会いたいな。」旅支度をするために部屋に戻り、回復術式で癒しをすませる。
男の埋葬を済ませると、小屋を振り返る。
「なんだか、長い時間だったな。」もうどのくらい時間が過ぎたのだろう・・・
まだ1年過ぎた、かどうだか?な。家路につこう。
移動術式で帰るか・・・
だが、使えなくなっていて・・・
各地ではエーテライトの異常が報告されていたのは後で知った事である。
「というワケだよ。」長い話にようやっと終わりを告げる。
「・・・・・。」
「寝ちゃったか。」
妻の頭を優しくなでて、自身も眠りにつく・・・。
----------コメント----------
少し加筆・・・
この後、記憶を頼りにフラフラと、なんとか家に帰り着きます。
ウルラの「消えた1年」いかがでしょーか?
Mayuri Rossana (Hyperion) 2013年12月22日 14:20
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ワードに貼り付けたら5077字だった、上限って5k字だよね?w
20文字程度書き足したのかな?文字数差分的に。
Marth Lowell (Durandal) 2013年12月22日 14:27
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>マルスCEO、そこは・・
旧ならでは?なトコですが「追加文 5k文字」なるものがありまして。
そちらを活用しました。
どうなるんだかわからなかったけど、剣聖の最後もコレで収めましたし。というオチなんですw
それはともかく、内容のコメが聞きたいなー(・ω・)
Mayuri Rossana (Hyperion) 2013年12月23日 01:08
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>マユリさん
なるほど追記して文字数を増していたんですねw
リクエストのウルラの空白の1年を書いてくれてありがとうございます^^
なんというか、意外な結末ですねw
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現在、レイの転生(種族変え)を考えているのでその事をゲーム内で
会えたら話しますねw
Marth Lowell (Durandal) 2013年12月23日 08:23
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>マルスCEO、あいさw
そーですね、大まかにはきめてたんですけどw
ラストシーンから書き出すような感じで、2話目が一番苦労しましたw
(の割には1時間半で描きましたけどw)ラストは字数を考えると詰め込み過ぎないようにしましたがw
レイの件、了解ですwまたニャンコが増えるのかしらw
Mayuri Rossana (Hyperion) 2013年12月23日 09:39
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>マユリさん
ニャンコじゃないですw
エレ♂になるかもw
Marth Lowell (Durandal) 2013年12月23日 10:07
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>マルスCEO、(゜д゜)!!!
エレ、しかも♂仕様!!!www
さて、いきなりの性転換に種族替えとかw
あ、それならネルケ(いたんだ!)をオスッテにすればwww
Mayuri Rossana (Hyperion) 2013年12月23日 15:55
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悲話、、、とは感じなかったな?。
第七霊祭の後には、何が起きても不思議じゃないしね。
ウルラが無事に帰ってくる事を知っているせいか
引き込まれるように、安心してラストまで一気に読んでしまいましたw
フラウが登場した時はのけぞったけどww
ロストストーリー、ファンタジー色が強くて凄く面白かったです!
フラウがいるなら、あんなのやこんなのがいても、おかしくないねw
次回作を楽しみにしています( ´ ▽ ` )b
Yupa Boleaz (Ragnarok) 2013年12月24日 22:18
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>ユパ様、ありがとうございますw
そうですね、雪女伝説なんかを少し引っ掛けてみました。
まあ、ラストは決めてあったとはいえ、幾つか分岐もw
ファンタジーっぽくなったのは、銃の件でのリアリティの逆ですね。
色々あって、いいなってw
で、フラウがいうなら・・・ですかw
個人的には・・・・今は不可能ですが、ハウジングに、ブラウニーとか欲しいですねwそこかしこにお掃除ブラウニーwあと、真っ黒くろすけw
猫バスやら、ととrは、ぐーb・・
次回作は、少しエロいのをw
某(なにがし)よりリクエストを頂戴してますw
Mayuri Rossana (Hyperion) 2013年12月25日 01:12