「お帰り、バカ野郎・・・・・か。」
そうだな・・。
還ってきた、んだよな。
金髪の青年は、寝台で横に眠る妻を見る。
ブルーグレイの髪を持つ妻は、背を向けたまま穏やかな寝息を立てているが、自分が居なかった時間・・・1年程、か。彼女は幾度涙で枕を濡らしたのだろう。
やむ得ない、いや。言い訳はすまい。確かにその時間は彼女にとっての苦痛であり、自分にとっても辛い思い出、いや・・記憶の欠片として恐らくはずっと心に在り続ける棘だろう。
「マユ・・・。」優しく妻の名を呼ぶ。
「なあに?」突然振り返り、にっこりと笑顔を浮かべる。
「起きてた?」不意を突かれたが・・・そんな気もしていた。
「うん。その・・。」妻はかける声ももどかしく・・
「ああ、そうだな。明日でもよかったんだけど。おれが何故こんなに時間をかけてしまったのか。マユに話す義務があるよな。」
「・・・聞いてもいい?」
「もちろん。ただ・・。」
「なに?」
「あんまり、その。なんだ。愉快な話じゃない。どちらかといえば・・悲しい話だろうな。」
「ん。いいよ。その悲しさを、あたしにも分けて。少しでも安らげるように。」
「ああ。わかった。・・・愛してる、マユ。」
「ん。」
荒野、というのはいささか安っぽい表現かもしれない。
地面のいたるところ、周りにはいくつもの大穴が穿たれ、その爆発に巻き込まれたであろう、人達の体、いや、その一部が飛散している。
あまりの光景に吐き気を覚え、腹からくる逆流を抑えることができず、撒き散らすが、食べたものなんか出てこない。
ただただ、己の体液だけが抑えた手の隙間から溢れ落ち、手の火傷を刺激する。
とりあえず、自分がまず意識できたのは、その二つ。いや、後頭部に残る鈍痛。
加えて三つ。
地面を引っ掻くように掴んでいた左手で頭を触る。
ズキリ、とした痛みで少し意識が覚醒するのがわかる。
右手は?・・口を覆っていたが・・金属製の篭手のようなもの、いや、そのまんま?篭手?だ。表面は焦げた跡があり、吐いた物で汚れたそのせいか、火傷を負っているのか痛い。
左手を頭から離し、目の前に。こちらも篭手をつけているが、吐瀉物ではなく赤い・・血?がべたりと。「う・・。」どうなってる?
なんだ?何故、自分がこんな場所にいる?ずきん。にぶい痛み。周りの状況も悲惨だが・・では自分は?
鎖鎧に身を包み、腰には剣がある。「戦場?」今更ながらではあるが。
だとすれば、冗談ではない。こんな状況で生き残っている・・・逃げなければ。
まったく・・・なんだってんだ・・・?独白は薄紫の霧の中に消えていく。
そして、思い至る。
どうして?こんな場所に?
待てよ。
おれ、どうしたんだっけ?思い出そうとしても・・・記憶の断片を掴もうとするが靄の中に・・たしか・・あれ?おれ・・・名前・・・・なんだっけ?
混乱したまま、とりあえず逃げろ。これだけはわかった。本能というのかもしれない。
ふと、その理由を見つける。立ち上がるために上を見たから。
そこには漆黒のなんだかわからない、そう。この惨状の元凶が。見えてしまった。
声にならない声を上げ、闇雲に走る。その背後で轟音が聞こえた。
あ、あっぶねー・・。
あのままだと・・直撃ではないだろうが、手足の2,3本は吹っ飛ぶだろう。
前に転がりながら、こんな金属の鎧を着込んだ男一人が木の葉のように吹き飛ばされたのだ。それも、中心地からはかなり外れていても。冗談じゃない。
痛む体を叱咤しながら、走り続ける。
すると目の前に兵士がいた。敵だか味方だか分からないが、とりあえず声をかけようとするが、相手はこんな事態だというのに抜刀した。敵?
「おい!アンタも逃げろよ!」
だが、無言で斬りかかってくる兵士。
「ちょ!」
盾を。左手が無意識に動く。「おい!こんな場所に居たら、命がいくつあっても足らねえぞ!?」
必死の訴えにもかかわらず、兵士は声もなく剣を。
このくそったれ!
盾で相手の顔を張り飛ばす。体重と動きの乗った一撃は兵士を打ち倒す。
「なんだってんだ・・。」
もう一度考えの整理を。
こんな場所に何故?いや、この装備は。兵士、なのだろう。
そして・・。「おれ・・名前なんだっけ?」不安に煽られる。
だが、すべきことはわかる。「でもまあ・・生き延びないと。」不安を忘れるように。
走る。
その間にも、少しでも記憶を・・・だが・・ズキン。
ズキン。 思い出そうとすると、頭が痛い。割るほどに。
ただ。なにかの影が。
人影? 色がズキン。少し・・いや、ズキン。この色も影? グレズキン。イだ。 いや、少し青い?ズキン。
それに、自分ズキン。ではない。なぜなら、影ズキン。はおそらく女性だ。
ズキン。ズキン。ズキン・・・・
痛みに囚われながら、走ったその先に今までとは少し違う風景。
ざああああ・・・・・・・
風が草を凪ぐ音。
ここは・・・
草原が。
いや、ここも先ほどの戦場の延長だ。その証拠に何か。巨大な何かに穿たれた大穴と火が散らばっている。山?をも崩され、かつての地形ではないのだろう。
だが、それに巻き込まれていない草原は、少しの安堵を青年にもたらし。
同時に不安ももたらす。
「おれは・・・だれだ?」そして、あの女性?
この景色のなか、自分の姿が少し滑稽にも思える。ゆるやかな風のなかに、なびく草原。そして、傷だらけの兵士。
こんな鎧なぞ脱ぎ捨ててしまいたいが、視界に映る大穴と火が未だ危険が去っていないと思わせる。
だが・・・少しばかりの休息は取れそうだ。
近くの岩肌に背を預け、ゆっくりと座り込む。
ついでに持ち物を。ポーチにはいくつかの薬品?ビンが。そして、ギル硬貨が・・数えるのは億劫だが、無いよりはいい。
暇つぶしのために数えるのは後回し。そして身に覚えのない宝珠(パール)そんなところか。そして、背を預けたおかげで背嚢(リュック)があるのがわかった。
中には保存食だろう、固めのパン、干し肉。そしてポーチの横には水筒もあった(空だったが。)
水、ほしいな。
もう一度、周りを見渡すと、池?泉?がある。
「まずはあれ、だな。」
だが、しかし。
「おいおい・・ったく。」たまんねえな・・ホント。
水辺は魔物達で・・・あきらめて違う場所を探すか・・。
そこに。
「おい。兄ちゃん。」と声がかかり・・・
剣を鞘走らせる。
体が勝手に動く。
(ああ、おれはやっぱり兵士なんだな・・。)
無意識に動いた体が、否定を許さない。
声をかけた男は「おい、ちょっと待ってくれ!俺はこの近くで農場をしているんだ!その物騒な物を下ろしてくれ!」
男は両手を上げて、降参の意思表示をしている。
「あ・・すまんな。つい。」
黒ひげの男は、警戒を解いた青年に安堵の吐息をしてから、自分の家に来ないか?と誘ってきた。
「兄ちゃん、見たところ先日からの戦乱に居たんだな?よかったらウチに来ないか?」
「は?」
「腹が減ってないか?あんな池に行こうとしてたんだ。あそこはこの辺じゃあ、魔物の水場として有名なんだぜ?」
「そうか・・・。で?」さすがに無償ということはないだろう。探りを少し。
「いや、ウチでも刈り入れ時なんだが、人手が足らねえ。飯と寝床を用意する。どうだ?兵士なんてやってたんだ、体力はあるだろ?」
・・・・悪くはない。実際、腹も空いたし、まず寝たい。怪我だってある。
「ああ、いいよ。」安請負いすぎたか?でも「だが。金目の物なんか持ってないぜ?装備もズタボロだしな。売り物にはならないぜ?」
「言っただろ?人手が欲しいってな。それに、傷の手当てが先だろ?頭から血が出てるぜ。」
「わかった。じゃあ、交渉成立だ。」
「いいぜ。俺はマンサナってんだ。この辺で一番を名乗るつもりでね。」
「ああ。おれは・・」ふと、視界の隅に岩が見えた。「ルーペス、だ。」
「じゃあ、ルーペス。よろしくな。」手を出す。
「ああ。」握り返す。
時間を今に。意識を寝台に戻す。
「マユ?」
「なあに?」
「いや、退屈かと。」
「大丈夫。面白い話じゃないけど・・。大変だったのね。」
「そうか、そうだな。・・・もう少し続くよ。」
「うん。ターシャが大人しいから、まだ平気。」
「そうか・・・明日はおれも抱かせてもらおう。」
「泣きじゃくるでしょうね。ふふっ」
「あやしてみせるさ。」
「期待してるわ。じゃ、続きを・・。」
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なつかしヤなつかしヤ。あの時のお話が聞けるとはヽ(^0^)ノ
しっかし、ふと唐突に。「登場当時は性格きつかったんだったっけ?」なんて思い浮かびました。なんかありましたよね―。
Ephemera Mitoa (Durandal) 2013年12月20日 20:04
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>えふぃたんw懐かしのwww
マルスCEOのリクでもあったんでw
ウルラ君は、登場当初。ヒネた感じから・・
記憶をクリーン?になったせいか、地が出ていますw
自分を見せたがらない、でも・・な所を見つけてしまったマユがゾッコンになってしまいましたがw
後一話ですが、少々・・物悲しいエンドです。
そのつもりで(・ω・)