「あーア・・・。」
衣装変え、もとい化粧直し?なんでもいい。
茶色のミコッテ(こっちはものすごく控えめなグレイのロングドレスでしかも露出も少ない)
が。
翻って自分は恐ろしく露出が多く、胸の下着はナシで、腰の下着だって、ほとんどヒモしかない。
そして3度目の衣装を替える・・・・
部屋には既に漆黒のエレゼンの給仕が居て、「抵抗」という言葉の無意味さを散々教え込まれた。
確かに。
銀髪の青年仲介役キーファーには、ペイ(給料)アップのために色々、それこそ全裸すら披露した覚えがあるし、
異性に対しての羞恥、という意味では同年代の女性からすれば、売女と言われても仕方が無い、位には自覚も在る。
が。
このドレスってやつ。
コレばっかりは・・・着慣れていない、のがそうなのだろう。
すぐ横には嬉しそうにトランクから次のドレスを選び抱いている。
ショコラ。
茶色の髪、肌。そして碧眼。
このミコッテの少女は、さる豪商の娘だそうだが、何を思ったか家出をし、神勇隊のイレギュラー「家」の一員なのだ。
情報家の名前で入ったらしいが・・・確かに、その情報と記憶力は恐るべきものがある、といわざるを得ない。
ただ、「家」はいくつもあり、自分はその「ひとつ」に過ぎないが、彼女は「家」の全てを周っている。なのに、何故だか自分を気に入ってか、この「家」に居る事が多い。
「ね、フネラーレ、わっち的にはコレだよ!」とオレンジのドレス。
最初はオレンジ、次に深紅、またオレンジ?
ただ。
最初のドレスとは違い、露出が激しすぎる。
「いヤ・・・そレ、おかしクなイ?」
下着一枚、というか、ヒモに小さな布しかない状態で、背後から羽交い絞めにされていながらも、ささやかな抵抗はする。
「急がないとレセプションがねー。ベッキィ?」
「はい。お嬢様。」
「着せるの手伝ってね。」
「かしこまりました。お嬢様。」
結果、さもありなん・・・・・・
手の平に載せられたネームプレートは、白銀色。おそらくは銀じゃない。プラチナだ。
そして。
掘り込まれたその字に驚愕する。
「Lilla Costa」
(な、なんで僕の名前!)
「おや?字(スペル)を間違えましたかな?」
「フネラーレ(Funeale)で登録したンだけどネ。」
(リッラの名前を知っているのは親父の船ペスカトーレのメンバーと、添い遂げたい人カルヴァランしかいない。
かの船長すら名前は知らないはずだ。そしてカルヴァランは此処にはいない・・・。)
戦慄がよぎる。
まさか!
金色の、同じく金色の瞳が。自分とは違い、両目が金色の。漆黒のミコッテの紳士、いや、悪魔が見える。
(こいつ!)
プレートと、同じく高額であろう宝石を手に収め、驚いた風、いや、実際に驚いてはいる。
石の価値とかではなく。
自身がある意味敵にまわしているかの黒猫に。
思い返せば、「銃」なるもので命を落としかけた。今回も、結界があるとはいえ、倒れてしまった。結果、なんとかなったが、
あの時の事(銃撃され、魔女に癒された)と同じ展開」だった。もし、あの結界が無く、魔女が居なければ確実に落命していただろう。
ずきん。
心の傷が疼く。
(助けて、カルヴァラン!)
両手を包み込むようにして、そのまま崩れ落ちる。
「おい、誰かっ!」
誰かの声が。
(あの・・・黒猫だけは・・・・スタッブしてやる。)
意識が暗闇に飲まれていく。
ふうん。
意外ともろいな。
長い黒髪を上で結い上げ、夜会用ではなく、戦場のための着流しを纏った少女は。
大きくはだけた胸元を気にもせず。
夜会であるにも関わらず、愛刀を佩いていた。雨の村雲。
グラスにワイン、ではなく、陶器の入れ物に茶が。
すすりながら。
「黒猫、ね。雇ってもらえるかしら?」
視線を移すと、目が逢った。
「脈、ありかしら。」