1041トリニティ。 困った殿方の取り扱い説明書(あとがき)。

空は開放的がいい。
何より、大地と空はその広大さを地平の果ての境界線で争ったりしない。等しく住み分けをするものだ。
仄暗い空、満天の星。
うすくたなびいている雲の向こうには、明日には新月になるであろう、薄い月。

黒髪の女性は偵察を買って出て、この辺りなら大丈夫だと判断。
ただ、問題というか。
足元にも空が広がっている。
高い山の頂から見下ろせば、このようなものだろうけど。
いかんせん、普通の土地の道端がコレだ。これも境界線かな?

パールを握りしめ、思念を飛ばす。
(カルヴァラン!コッチすごいよ!ネコ飛んでるし、島も飛んでる!)

(あ、ああ。リッラ。ご機嫌だな、こっちは商船の護衛だなんだと忙しいばかりだ。)
(そう?で、一応お貴族サマとやらに顔は繋げることができたけど・・)
(けど?)
(う~ん、あんまり好かれてないみたい。)
(そうか、まあいい。こっちもシャーレアンの情報も仕入れることができたからな。)
(へえ?)
(イディルシャイア、という都市が雲海の中に打ち捨てられたらしい。)
(ふ~ん。)
(そこまで、とは言わないが情報のすり合わせは必要かもな。)
(うん!すぐ帰る!)
(待て、何か仕事でも請け負ってるんじゃないのか?)
(あ。そうだった・・・)
(一段落したら帰っておいで。)
「うん♪」(うん♪)声が弾む。

「どうかされましたか?リン殿。」
後ろから声をかけられ、おもわずドキリとしてしまう。
「ア、なんでもナいよ。景色ガすごいネ、って。オノロワ君は?」
「私は、先行した貴女が何処に行ったか探しに来たのです。キャンプの設営も終わりましたし、食事にしましょう。」
「いいネ。」
(後ろの気配に気がつかないなんて・・う~ん、コレはカルヴァランが悪い。帰ったら、色々おねだりしなければ。)

二人はキャンプ地に。



星明かりのせいでそれほど暗くもないキャンプ・クラウドトップ。
その監視哨、ローズハウスに4人の冒険者が居た。
「ラニエットさん、その・・エマネランさん、大丈夫です?」長い黒髪の女性。漆黒の鎖鎧にサーコート、得物の大剣は今は壁に。
「ああ、リンさん。大丈夫だ。むしろ、ちょっとくらいキビシイ目にあえばいいんです。」ラニエット隊長は、サバサバとした体で受け流し、食後のお茶を出すよう給仕に頼む。
「ええとこのボンって、まあそのくらいしたらんと。せやないと・・・」拳聖を名乗る女性は連れ合いのピンクの髪のミコッテの青年を見る。
「アレも・・・イタイ目に遭ってるはずらしいんやけどなあ?」

ん?
三人の女性の視線に気づいて、ニッコリと笑顔を向けてくる。

「な?あのボンが懲りてくれるヤツやって、期待せんと。なあ?りんちゃん?」
「え?わたし?」ドードーが豆でも食らったような表情。

「さてと。だ、ご婦人方。とりあえずは今夜はお言葉に甘えて宿を借りるでいいかね?」
角を持つ種族、漆黒のアウラの青年。その眼は金色で表情が読めない。
「あ、うん。そうそう!今夜はお泊りさせてもらおうよ!」
妙に明るい声は先程のミコッテの青年。「誰か添い寝して・・」ゴツ。「イタ!」
テーブルの下では三者三様の攻撃があったよう。

香茶をいただき、仮眠所に。

「なあ、リンちゃん。あのボンはさておき。今後としてはどうしよう、とかってある?」
「ん?う~ん、私としては・・まだ、慣れてないから・・まずはこっちに慣れるので一杯だと思う。」
「ほうか、うちもこの、浮島ってのは初めてやさかい・・勝手はわからへんけどな。」
「うん、そのへんはアレだよ。流れ次第で・・」
「・・・まあ、せやな。明日イチで追いかけるか。無茶しとらんとええんやけど。」
「大丈夫じゃない?えーっと。リンって人もいるんでしょ?」
「かえって心配やけどな。(フネラーレ、かねえ?)」
「まあ、今日はもう寝よ。」
「せやな。おやすみ。」「おやすみ。」


「あ、意外と広い。」
「お前とはできるだけ距離がほしい。隅っこにいろ。」
「ひどいなあ・・・」(あ、お姉?黒い人と相部屋だよ。)
「静かに寝てろ。」(クォ様、もう少しお時間がかかります。そちらは大丈夫でしょうか?)

(エレン・・・よくやった、というか、ボロは・・ええい、聞くまい。そして拳聖と、風変わりな剣士だったな?)
(うん、美人さんだよ。)(わかった。もう寝ろ。)(え~?)(・・・・)

(こちらはセラータが代わりによくやってくれている。かの銃工房の方はどうだ?)
(はい。下見はしておきましたが・・・どうやら工房の「長」でモメている様子。所詮、貴族ですかな。)
(手厳しいな、アドルフォ。新しいモノは無かったのか?)
(いえ。タレット、というオートマトンを開発していました。一台は手元に。)
(そうか、よくやった。)
(ありがたきお言葉。)
(もうしばらく、そちらで状況を見ていてくれ。)
(はい。)


明けて翌日。

朝日に気がつくと。
大きくアクビ。
いつもはこんなに早起きしないのに。
フネラーレは、雲海に昇ってくる朝日を不思議そうに見つめる。
「起きてられましたか。」
エレゼンの従者、オノロワ。
「僕の監視?大丈夫だヨ。利害が一致スる限り、僕は君タチの味方ダよ?」
「・・・正直、貴女は何者です?冒険者を名乗る輩はいくらか見てきました。しかし、貴女は・・違う。」
「へ~ェ。勘?ッてやツ?」
「そうかもしれません。ですが・・違和感、を感じます。」
「そウ、じゃあどんな感ジ?」
「纏っている・・・雰囲気、というか・・・、何も無いんです。冒険者なら、名声を上げたい。一攫千金を。冒険そのものを。そういったものが感じられないので。」
「イイ線、いってル。僕は、そういウ意味じゃ冒険者じゃないネ。探索依頼ってヤツだよ。」
「確かに、そういった方々が増えている、のは知っていますが。貴女は少しちがう。」
「おっと、そこまデ。これ以上ノ詮索は、お互いに損するヨ。」
「・・・分かりました。それでは、朝食の準備をしてきます。」


「んーむ。よく寝た!清々しいな!この空気!」
寝着のまま、テントから這い出し・・・朝食のスープの香りに釣られて・・ともいう。
「エマネラン様!お着替えになってからにしてください!」スープの味付けの最終調整もそっちのけ。
「おい、お前たち!何をしている!」護衛の従騎士を叱り飛ばし、エマネランの背中を押しながら、やれやれ。だ。正体不明の女に、この気の利かない従騎士達。
「ボクがしっかりしていないと・・」
オノロワはこの歳で小じわができたらどうしたらいいんだろう?とか・・・

とりあえず、朝食も済み、エマネランが声をかける。
「よし。この先がヴール・シランシランだ。気を抜くなよ!」
(シアンシラン、です。エマネラン様。)
「おう!」それとは気付かなかった従騎士が声を上げ・・不安感は一層増してくる・・
オノロワはこのまま、何もなく平和に終わればいい、と心底おもっている。

けれど。

「ここが泉の階段か。なるほど!いいじゃないか!」
主は、ヘンにやる気を出したらしい。
「エマネラン様、どの様な魔物の類がいるやも知れません。  リン殿、少し見てきて頂いても?」
「いいヨ。」黒髪の女性は、ちゃぷちゃぷ、と泉を歩いて行く。
「おい、彼女は大丈夫なのか?」エマネランの声に少し苛立って・・いや・・
「はい、彼女はお金で雇っています。こちらの要望に応えられないようでは失格でしょう?」
「そ、そうか・・」
「はい。(あんな女の心配なんかしないでいいんです。)」
しばらくして・・
「もウ大丈夫だヨ。」の声に。

近づいていくと、何やらわからない魔物だろうか。ぷかぷか、と浮いている。
「ほう、さすがじゃないか!冒険者殿!」
「ペイ分の仕事はすル。」
「みたいですね。」傍らには茶色い毛皮のなんだかよくわからない・・死んでも眼だけはチカラがあるというか・・・奇妙な獣をシッシ、としながら。
(コレは・・ますます・・危険ですね・・ボクはともかく、従騎士達だけではこの女に対抗できないだろう。ならば、いっそ取り込むしかない。か。)
オノロワは決断を。
「先を行きましょう。この先は何時バヌバヌ族が出てきてもおかしくありません、とのことです。慎重に。」

一行は歩みを進めていく・・・

幾度かの泉で奇妙な光を見つけた一行。
「クリスタル、かナ?」
「みたいですね。」泉の中から取り上げると、クリスタルから次々と泉が湧き出してくる。
「ほう!いいじゃないか!」青年貴族は喜んで、次を探そう!と今にも走り出しそう。
(いいノ?)(仕方ありません、主には従うものです。)(大変だネ。)(いえ、仕える者の本懐です。)(あ、そウ。)
「どうだ、リン殿!俺と競争しないか?」いきなりの提案。
「いいケド?」
「よし。オノロワ、そこにいてどちらが早くクリスタルを多く持ってくるか見分してくれ。」
「・・・はい。(なんということを。)」
「よし、従騎士諸君、付いて来てくれ。」「はい!」
「どうゾ~。(数で押ス、・・違うナ。戦力が要ル。何故?このボンボン、威力偵察をやる気だナ。)」
4人のptが先を行く。
それを見送りながら。

・・・・・・また、無茶をなさる気では・・オノロワは気が気ではない。
そこに。
「大丈夫だヨ。僕が君の想い人を死なせヤしないサ。」
「え?」
「もっト、女の子らシくしたラ?」
「・・・知っていたのですか?何時から?」
「見れバわかるヨ。恋する乙女の目ッテ。」
「私・・ボクは、エマネラン様に仕える身。恋心などあってはなりません。二心無き忠義こそが、騎士道であり・・・むぐ!」
口を手で押さえられ・・
「あ、後サ。後続に冒険者一団が来るカら。僕は先行でバヌバヌとやラの所に行って来ル。後事は連中ニ任せればいいヨ。」
「あの・・・リン殿?」
「アー。うん。僕の名ハ・・・・」

リムサ・ロミンサの地方語で「葬儀」を意味する。
「どっちにとっての葬儀なんです・・・?」
無言で見送った後にポツリ。


さて、先行した騎士隊をうまく出し抜き(クリスタルも探していたため)
泉を抜けた。

そして見れば。高台の様な場所に幾つかの建物らしきモノが見える。
さらに、鳥を思わせる獣人。
(イクサルの真逆だネ。)
番兵らしき獣人に接する。
「やァ、親しキ友人。」
「なんだ、なんだ?枯れた小枝のようなみすぼらしき者。我らの友人を名乗るに値せん。」
「そう言うナよ?」
「怪しい、怪しい。雲海に稀に見る黒雲の様な災いのように怪しい。取り調べるから、ついて来い。」そして後ろ手に縄を打つ。
(ここまでは想定内。)フネラーレは、ほくそ笑む。
なるほどね。こういう文化カ。



「よし。では行きましょう!」開口一番、アイリーンが大剣を掲げる。
「せやな。ボンが無茶してへんかったらえなあ。」
「此処に似たようなのが居るだろう?考えるだけムダだ。」
「そうだよ!アリアさんみたいな短気だと、絶対現地でモメてるね。」
「・・・・あ?」
「え?」


所変わり・・・
「なあ、俺は何か間違えたか?」「いえ・・その・・」「いきなり、その・・」「剣で・・・その・・」「剣に誓っただけだぞ?」
「いえ、・・その。」「名乗りを上げて・・・その・・」「抜刀は・・・その・・・」「何だ?」
「宣戦布告です。」三人は声を同じくした。

・・・・・ポカンとしたエマネラン。

「そうなのか?」「はい。」「我らは、御身をお守りするため、ですが・・」「囚われの身となってしまっては。」
「冒険者はどうした?」
「彼女なら、すでに捕まっている、とのこと。」
「使えない奴め。」・・・どいつもこいつも!俺がラニエットに手柄を立てさせてやりたいのが、そんなに不足か。

「あラ?僕は使えなイって?」背後からの声。
「な!?」「はいはい、黙っテ~?」
「もウすぐ、冒険者一団が来るからネ。こっちハ、内側。もう一方は外側。つまり、挟み撃チ。」
「攻撃対象ではないぞ?」
「兵士揃えテ何ヲ今更。」
「護衛、だ。」
「そうかもネ。」
「わかった。まずは脱出しよう。」

(黒いノ。連携お願いするヨ?)(やむをえまい。)

集落の下方、入り口あたりで騒動が起こる。

「こちらに、我らが同胞が囚われている、とお聞きした!我が名はエレディタ。拳聖の座を名乗る者。どなたか、お話のできる方はおられぬか?」

「おやおや、おやおや、痩せ凍えた浮島の岩塊のような小人風情が、何ようか?」
「こちらは名乗ったぞ?名乗るのが礼儀では?」
「バカな、バカな。季節はずれの果実が実をつける程にバカな話。蛮族相手に名乗る事などありえん。」
「ええやんけ、ほんじゃまあ拳聖の実力とやら、目にみてみい!」
「あ!エリ!」
目の前の鳥人を殴り倒す拳聖。
すかさず周りを取り囲まれる。
「わたしが引きつけます。できるだけ、穏便に・・・」大剣を構える暗黒騎士。
「うん!」「無力化だな。それにな、援軍もあるだろう。」「へ?」残る3人。


「あ!冒険者殿!」エマネランは喜々として合流をする。傍らには黒髪の女性。
「で、どうやって逃げおおせる、かだけど?」暗黒騎士は、緊張を緩めない。

「逃さぬ!逃さぬ!!おお、最果ての浮島のように手に届かないわけでは無い!お前たち!」
周りのバヌバヌ族が踊り始める・・・勇壮な舞踏を。

「この、この、雲海の守護神に語りかけまする!ホヌバヌの名をもって!」

マズい。
フネラーレは、短剣を・・
しかし。

「来たりませ、来たりませ。泡立つ雲の神に捧げなければならなり!」
首に短剣を埋めるより早く。
「白き神!!!!」

雷雲が立ち込め始める・・・

「蛮神!」
誰ともなく・・
白い雲海に、意志を持った白い巨体が現れる。
「・・・おお、おお。我が願い、聞き届けられたり・・・」

「まずいネ。」
「フネラーレ、お前の仕業だろう?」
「人聞き悪いネ??」

とりあえず、後方には白き蛮神。前方にはバヌバヌ族。

そこに。

「おい!こっちだ!!」響く青年の声。

振り返ると、蛮神の踊る空に一隻の飛空艇。
「オイオイ、勘弁してくれよ?エンタープライズ、イシュガルド初就航がこの鉄火場か?」
「シド船長、痛み居る。早く、エマネラン卿!」
「あ、ああ。」
「さっさと乗ってくれ、お坊ちゃん。」シドの声に・・
「ああ・・あ、オルシュファン・・、」騎士を見る。
「急いでください。この場は冒険者殿が立ちまわってくれましょう。シド船長?」
「仕方ねえな、早くしてくだっせぇよ?冒険者さん?」
「俺も最後まで面倒を見ます!イイだろう?」
「好きにしな。」

かくして、偵察は首尾よく。いや、さらなる不穏な事態を巻き起こすことになる・・


「エマネラン様、よくぞご無事で・・」
早々に冒険者達から撤退を促され、伯爵邸で帰りを待ちわびて。
「まあな!」いつもどおり。



「りんちゃん、この後どうするん?」
「エリこそ。」
「せやなあ?コレ。か。」薄い緑色に光るクリスタル。いや、風素の塊、か。
「ああ、そういえば。」
「やろ?集めに行こうやん?」
「です!」


(新たな蛮神が確認できました。クォ様。)(そうか。使いみちは?)(そうですね・・・)

(終わったよ~帰るよ~~♪)(おいおい、まだ航海の最中なんだ・・)(ちぇ~~~~!もう知らない!)(ああ、待て待て・・・)


「全く。問題が増えたのは変わらないが。仕事が増えたのはいいことだ。」
ローズハウス隊長、ラニエットは今後の方針を書類にまとめていく。

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