160書き物。酒場の外では。

リムサ・ロミンサの酒場は今日も盛況だ。

「あー、うー。」
先日からのチョコレート祭りは今日が最終日。
少々複雑な感じで・・。

ブルーグレイの髪を肩あたりでそろえた少女、マユは夕食をつついていた。

向うにあるカウンターで、主人であるバデロンがルガディンの酔っ払いに絡まれている。
「まぁ、がんばれ。」
こそっと毒を吐きながら、ワインでも飲もうかしら・・?とか考えていた時に。
ふっとカウンターを見たら、目が合った。

ヤヴァイ。

目をそらすが、確実に向うの目は笑っていた。

(あんの野郎、あたしに押し付ける気まんまんだ。)

気にしない振りをしつつ、ワインはお預けということでさっさと帰ることにするとする。
ウルダハは・・、もう、どこに帰れば安らげるの?
大体、あれはあたしが悪いんじゃない。ネルケの阿呆が、あの馬鹿が、間抜けが、もう!

いろいろと目を瞑って考えていると、だんだんハラが立って来た。
殴りにいこう!よし!そうしよう!だとすれば、ウルダハかな?もうグリダニアに帰ったか?


ダンっ!!


「へっ?」あたしは目の前に置かれたラムのボトルと、浅黒い肌の大男(ルガディン)に声もない。

確かにさっきカウンターに居たような・・?


「あ?あの?」と、とりあえず無関係なのをアピールしてみようと・・。

「バデロンの推薦だ。」とルガディン。

カウンターの向うでニッコリ笑うバンダナのマスターを ぎろり と睨みつけながら。

顔だけはニコニコしてみる努力はする。

ルガディンは酔ったせいか、眼と表情のギャップには気がつかない。

あたしは「ここのマスターの寝首をかく、ってことでいいですか?」と笑顔で真剣に問いかける。
もちろん視線はカウンターの中のバンダナの男だ。

「いやいや、君。たしか魔女の娘なんだってな!」
どこでそんなっ!?
あ。
あんのやろう!
視線に殺意が倍加する。ばーでーろーん!
ルガディンはラムで滑らかになった舌で言い続ける「お願いだ!ほんのちょっとでいい。手伝ってくれ。」

少し見た目に合わない弱気な姿勢に、あたしも少し態度を軟化させる。

「で、どうしたらいいの?」とついつい。
「いやな。このパンを食ってみてくれ。」
「はい?」完全に不意をつかれた。

見た目は・・・、どうと言うコトも無い・・というか、いつ焼いたかわからないが、けっこう重い。
パンは焼きたてが一番だが、大抵はふんわりとしている。
が。
逆にどっしりしていたり、カリカリになってるほうが冒険には向いている。
どっしり系は腹持ちがいいし。保存はカリカリのほうがいい。

ということで、夕食の後に「どっしり」のパンを食べて。
「あの、正直いいですか?」と目の前のルガディンに言う。

「おう。」と請け負う。
「コレ・・。その・・。好き嫌いが激しい気がしますね。」かなり控えめに言ってみたつもりだが。

「むう?」
いや、気づけよ。おっさん。
サーディン(イワシ)の塩漬け混ぜ込んだパンなんて、塩辛いだろー!
まあ、作ったのはこの人じゃないのかもだけど、ソコは突っ込め?

「あの、少し塩辛いかな?みたいな?」
最高のフォローをしたつもりだったが・・・。

「では、シェフに焼きたてのこのパンを持ってきてもらう。明日、また会おう。」
うっわ!

席を立つルガディン。

カウンターを見る。
すでに居ない。なんてやろうだ!

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