141ZERO書き物。2

森林の街、グリダニア。
冒険者にとっては「幻術士」は必須の人材だといわれる。
そして、そのギルドがある街。
やはりウルダハの呪術士ギルドと並び、幻術士ギルドの名前は大きい。
碩老樹瞑想窟。ギルドの本部とよぶべきか。

緑多いグリダニアの、最北に位置する神秘的な場所。
その理由の一つに「おろち石」といわれる輝石がある。
人が何人も手を繋いでいかないと回りを囲えないくらいの大樹の幹。
だが、その樹には枝葉が無い。
「おろち石」が鎮座しているからだ。
遠目からもわかるくらいの大きな石は、グリダニアの守護神ノフィカが、宙より遣わした神秘の石であるらしい。
その大きな石が、朽ちかけた大樹の半ばに鎮座している。
そして、その大樹の根の部分。
そこが瞑想窟の入り口。

グレーの真っ直ぐな髪を持つ少女は。

「なにこれ・・?」と。

道行く人に聞けばわかるかも。と思ったが、皆知っていた。

が、あまりの圧巻に見上げるだけ。なるほど・・。

手前の祭壇?みたいなところでウロウロしていると、ローブを着た女性に声をかけられた。

「お嬢ちゃん?どうかしたの?迷子?」とヒューランの女性。
フードのせいでいまいち表情はわからない。が、心配しているのがわかる。年は・・。母ほどだろうか。
目に涙がたまる。

「あの。」少女は泣くのをこらえて。
「サ・ヴィントって方をご存知ですか?」アラミゴ訛りの言葉、そしてその出てきた名前。
ローブの女性は・・・。
「それって?」この子は難民か。それにあの子。これは・・。

「ここに行きなさい、って。」少女は表情を読めず、そのままを口に出す。

「そう。着いてらっしゃい。紹介する人がいるの。」ローブの女性は促すように歩き出す。大樹の下に


中は幻想的とでも言うのだろうか。水が流れ、蒼く淡い光に包まれている。空気も心なしかひんやりとして、すこし肌寒い。

少女は袖のないチュニックしかない(カバンは落としてしまった。)身体を抱くようにしてついていく。

そして。

ローブの女性が一人のミコッテを呼ぶ。「ヴェテックト!」
その言葉に振り向くミコッテ。長い尻尾の毛が目を引く女性だ。

「なにか?アルヒェ師。」言葉は少し硬いが、柔和な顔。
少し怪訝そうな感じだが。いきなりの珍客に表情が変わる。

瞑想のために訪れた幻術士達が、数人こっちを見る。
「あの・・。」グレイの髪の少女はとても不安そうに。
「どうかしましたか?師。」という声に。
「サ・ヴィント、っていう方を・・。その。」

その少女の声に、ミコッテは言葉を詰まらせる。
「その名はどこで?」とミコッテ。

「では、後はあなたに任せるわ。」と去り行く女幻術士。

「えと、その。助けてくれた人。」少女はミコッテの顔をちゃんと見れない。
どんな表情なのかも。もしかして怒っているのだろうか?それとも。

「ヴィント。そうか。お前が。」優しい声がかかる。
「私はシ・ヴェテックト。このギルドで導師の地位を得ている。
グリダニアの発音は慣れていないな?アラミゴか。まあ、気にするな。そのうち慣れるだろう。」
少女の頭を優しくなでる。

「あの・・・。その・・。サ・ヴィントさんは?」と初めてミコッテの導師の顔を見る。

「あいつは・・。気にするな。」
(ねえさん・・・、おねがい・・。この子を。)
パールから聞こえた声はそこまでだった。もう、会えることはないのかもしれない。

自由奔放な子だった。腕前だけは一人前なのに導師に推薦されない理由がまさにソレだったのだが。
「あの?」と少女。
「ああ、私の妹だ。年は少し離れているが。両親を亡くしてからは、私が面倒をみた。なんとも自由なヤツでな。」
ミコッテの導師は、顔を横に向けていたが目元に何か光るものを見てしまった。

振り向いた時には目元には何もない。気のせいだったのだろうか?
改めて見る導師の眼は。

左目が緑、右目が黄色。
金銀妖瞳(ヘテロクロミア)
初めてみたかも・・。と少女。
「おい。」と導師。
「は、はい!」
「お前は、どうしたいのだ?」
「え、と、その・・どうしたらいいのでしょう?」
「では、とりあえず、私の弟子になれ。」
「え?」
「これから幻術の基礎を教えていく。まずは精霊の言葉を聞くことから、その初期だ。
が、今は疲れているだろう。私の部屋で休むといい。食事も用意する。」
少女はボソボソと何かを口にしている。
蒼い光が廻り始め。
一つの呪が紡がれ、完成する。
「な!」
ミコッテの導師は信じられない顔で少女を見る。

「ねぇ?これってどう?」とイタズラを成功させた笑みを浮かべて。「やってみなよ!って森が言ってくれたの。」
少女は満足そうに言う。

「(プロテスだと・・。)信じられない・・。」こんな少女が。妹も才能があったが、これほどとは・・。
「ふふー。」と満面の笑みの少女。まだ10かそこらだろうに・・。
「そういえば、名前を聞いてなかったな。」と導師。
「レティシアです。レティシア・ノース」真っ直ぐな目で言ってくる。先ほどのイタズラっぽい表情は無い。
「そうか。わかった。レティシア。あなたは類まれなる素質があるようだ。もう少し上の修練をするとしましょう。あの子も喜ぶでしょう・・。」
無表情に告げる導師。
「あなたを託した、サ・ヴィントです。」
無表情だが、目元には確かに涙が浮いている。
「制止を振り切って飛び出してしまった。」目を瞑る。
「ごめんなさい。」頭を垂れる少女。
「謝ることはない。あの子が決めてやったのだから。」導師の顔はもう元にもどっている。
「はい・・。」
「その想いがあるのなら。しっかり修練に励んでください。」
そっと、いつもの強い口調ではなく。
優しく弟子に語りかける。

「はいっ!」元気に答える少女。そして、その肩を優しく抱きしめる導師。

銀髪は姉妹そろってだが、性格やその他は大分違うらしい。
活発な雰囲気を持っていた、あの妹さんとは違い、常に理詰めで教えてくれる、
お師さんは、ある意味新鮮というか。母も教え方は悪くないと思ったけど・・。とにかく新鮮だ。

炙るような日差しを過ぎる頃、少女は11歳になっていた。

仄かに燈る明かりの下。
「なんだか、聞いた話しだが。」とは、今のグリダニアの政治家。地位で言えば上から数えたほうが早いだろう。
「幻術士に逸材がいるそうじゃないか?」
「そうみたいですね。」とは、彼の右腕。

今のグリダニアは、預言者が統治しているのだが、時々深い眠りにはいる。
そして、3人の御子を産んだ預言者は、体力的にもそろそろ尽きる、かもしれない。

3人の御子は、それぞれ成長はしているが、同じく「眠り」のときがある。
そのための「議会」だ。

「ということは、だ。」
「はい。」
「判断を仰げないのであれば、承認をいただくこともできない、よな?」
「そうですね・・。」
「聞けば、アラミゴの難民だそうだ。」
「ええ・・。」
「しかも孤児。難民を匿うなど、幻術士どもは・・。ボロを出したくもあるまい。誰かが辛い思いをすれば済むのであれば、問題なかろう。」
「はぁ・・。」
要はその逸材を密偵にするなり、特攻材料にするなり、いかようにでも教育する。そういうことだ。
「はぁ。」
「なんだ、お前。替わりにクルザスからアラミゴまで偵察に行ってくれるのか。それはとても助かる。明日にでも予定を組んでおこう。」
「ま、待って下さい!!」必死だ。
「す、すぐに手配を。」
「ウルダハには行って来いよ?剣術でも格闘でもいい。教師を連れて来い。

瞑想窟を出て、師の部屋に行く。
ミコッテの導師はすでに夕餉の支度を終え、弟子を待っていた。

部屋に入る。この1年近くを過ごした部屋だ。
が。

「シ・ヴェテックト導師!」レティシアは声を上げる。普段なら叱られるであろう大声に。

「どうした?レティ。」とミコッテの幻術士は静かに応える。

「今日で、師からの教えは終わりだと聞きました。本当なんですか?」と潤んだ眼で問いかける。

「そうだな・・。本心から言えば、残念だ。代わりにウルダハから教師も招聘・・、いや、来たと言う。難しい言葉は私のクセだが。」
「そんなこと、わかっていますっ!」
「ただ・・。格闘の技術を指南するらしい。今までとは違う修練になるだろう。」
と苦い表情。

「なんでですか?どうして?」と少女は泣きながら師にすがりつく。

「すまない。本当にすまない。最後まで見てやりたかったが。私にも都合があってな・・・。」
部屋には作りたてだった料理の香りも薄らいで・・・。
「まったく。姉妹がそろいもそろって・・。」
「?」見上げて見た師の顔は涙でよく見えなかったが、確かに同じく泣いていた。

「名前の通りか。」とひと言。

「私の名前の由来は曇り空、妹は風。」

「アラミゴでは違う発音だったかな?」

「こうやってなにもできない私とは違い、颯爽と吹いた妹は、お前を私にひき合せてくれた。
曇り空とは。本当に。やりきれないな。両親には文句の一つも言わないとな。」

「・・・。」声もない少女。
「気にするな。だが、精進しろ。くだらないコトに使われながらでも。自分を持て。
お前に降りかかる災難は全て糧にしろ。」

「はい。」
師として、最後の言葉だろう。心に留める。
「それとな。レティ。」
「はい。」
「いや、今は食事を楽しもう。これでも頑張って作ったんだ。」

食事の後、少女をベッドで寝かせると。
「厄介ゴトの、後始末か。」
少女の枕元にメモを残す。自身の使っていた隠れ家みたいな小屋。
少しの情報しか書いていないが、この少女なら見つけてくれるだろう。
あまり証拠を残すとこの少女にも・・。

深夜。とある一室にて。

一人の男性。このグリダニアの政治に関わる一人。
顔は見たことはある。
机に向かって神妙どころか胸を張る幻術士。

「難民を黙って匿っていたのはキミかね?ええと。」
「シ・ヴェテックトです。」
「責任を追及したいところだが、キミの妹も関わっていたらしいじゃないか?」
「はい。その通りです。」大丈夫、まだ私は冷静だ。
「これは幻術士ギルドにとっての不祥事、ということでいいな?」
暗に、発言権の高いギルドに圧力をかけよう、と、そういうことだ。
「いえ。我らが姉妹の勝手な行動。ギルドには虚偽にて件の少女を弟子入りさせました。」
真っ向から言い放つ。
「沙汰は我ら姉妹で、と言いたいのですが。妹はすでにノフィカ様の御許に召されましたゆえ。
私ひとりでこの度の沙汰をお受けいたします。」

「なら。」
一呼吸おいて、
「シ・ヴェテックト。お前は明日夜明けをもって、ここグリダニアからの永久追放を申しつける。異論は無いな?」
顔が少しニヤけているのが見て取れた。
「はい。わかりました。」と真顔で。
「あなたは、おそらく一生 人の気持ちなどわからないでしょう。」
金銀妖瞳をニヤリとさせ。
反論も聞かずに退席するミコッテ。

「この!」
男の怒声は扉の向うからでも聞こえてきた。
すがすがしい。この気持ち。
「ああ、なんとすがすがしいことか。」
大きく伸びをした。

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