142ZERO書き物。3

部屋を出る。

その後、大きく伸びをして。

ミコッテの「元」導師は、晴れやかな顔をする。
自身をここまで出した事は無かった。いつも自由奔放な妹を叱り、型にはまることを押し付けてきたように思う。
だが。
やれば、自分も出来るではないか。妹の気持ちも今なら分かる。
悠然と廊下を歩きながら、まずは妹が果てたであろう地にて、トレントと対話をしよう。あの子が護ったものには。
その先に精霊の怒りを受けたとしても、後悔はすまい。

帰り道。

「シ・ヴェテックトだな?」と、男。
「だからどうした?」とミコッテの幻術士。
いきなり斬りかかる男。が。ミコッテは避けようともしない。何かを口ずさんでいる。
(冥土に挨拶でもしてやがるのか。)男は躊躇無くその細い首に剣を振り下ろす。
ガキン。
振り下ろした剣を砂利や小石などがまとまって、ミコッテの首を護る。
その時。

呪が完成する。真空の鎌をまとった突風が男を吹き飛ばし、切り刻む。
「相手を見てやるのだな。」さらに呪が重なる。連続技。先ほどよりもさらに激しい風、と言うより、真空の嵐が襲う。そして
「終わりだ。だれの差し金だとかは聞かん。まあ、聞けないだろうが。」
土の槍が襲い、もう一撃で貫く。
「その必要もあるまい。」
家路に急ぐミコッテ。万が一にも少女に・・。

家のカギはかかっている。だが先ほどの相手がアレであれば。あの子には手を出すまい。か。
ここは、このまま消えるとするか。あの子はなんとかするだろう。

「それでは、な。我が弟子。」家の扉を開けることなく、深夜の森を目指していく。


目覚めると。
ベッドの前に。旅支度と、修行用の二つの支度がしてある。
少女は意味がわからない。あれ?

「お師さんは?」部屋は広くない。居間と寝室その他。
陽は高い。普段なら叩き起こされる時間だ。

とりあえず、顔を洗い、部屋を出る。
すると。
「お前さんが俺の生徒なのかな?」と、背の低い少年?いや。ララフェル。
「はい?」と少女。
「ふむ。聞いてないようなのな。」とアゴに手を当てる。
「ええっと、その・・。シ・ヴェテックトお師さんは・・?」戸惑う少女。
「本当に聞いておらんのだな。今日から俺がお前の師匠だ。ホラン・ホライズンという。」
「あ、はい。すみません、レティシアといいます。よろしくお願いします。」
「よきかな。」とニッコリするララフェル。

銀髪のララフェルは、格闘を教える、とのことだったが。

することはといえば。
街の中を走り回ったり。基本の組み手。そして野外での戦闘。

「師匠。今日、疲れました・・・。」
「そうか。なら休みにしような。」「いいんですか?」「疲れたら得るものはないのな。」 はふ。

こんなやり取りで2年が過ぎる。



川原でカニを叩いてこい。シンプルな修練だが。近くにオオカミも出る。やぶ蚊の集団も居る。
要するに、そういったヤツらに見つからずに、かつ勝って来い。というもの。

そこに。

一人のローブの女性が見えた。
「あ。」
声をかけたきたのは、ローブの女性だった。
「ああ、レティシア。息災か?」
森の片隅。
赤いローブ、フードの女性。が。長い毛を持つ尾。

「あ。」とグレイの髪の少女は固まってしまう。

シ・ヴェテックトは、懐かしい顔を見る。2年は経つか。
つい声をかけてしまった。自身の用件もあるいは少女に関係あるかも?とおもったからだが。
随分逞しく。私ではこういう鍛え方は出来なかっただろう。
今の師と一度、話でもしてみたいものだ。だが、グリダニアでは叶わない。今の身では。
「シ・ヴェテックトお師さん!お久しぶりです!」
思いついた言葉がすぐに出てくる。
「あ、そうだ。お師さんの隠れ家、スグ見つかりましたよ!」
笑顔の少女。
濃い緑の中。
「ああ、そうだな。元気か?どうにも小難しい言い方をしてしまう。悪い癖だな。」
少し照れたような。嬉しいような。   申し訳ない、ような。

「そんなこと!」少女は気にしていないと主張する。
「おかげさまで、グリダニアの発音にも慣れました。」皮肉も私のせいだろうか?
グレイの髪を長く伸ばした少女はそこまで考えていたのかどうか・・・。
「お師さんは、どうしてここに?」と少女の問いに。
「いや、他でもない。」
少女は、もしかしたら自分を迎えに来たのかと思ったが。
「今日の修練は、いいのか?」とミコッテのかつての師。
少し期待を裏切られつつ、
「今の師匠、偏屈なんですけど、だからかな?適当なんです。時間も好きにつかえます。」
「そうか。」元の師は笑う。「妹も笑うだろう。偏屈か。確かに!アハハ!」
こんな笑顔は見たことがあっただろうか?少女は記憶を探るが、おそらく無い。
「お師さん?」と心配げに。
「いや。すまない。お前には悪いが私は偏屈で、妹は奔放だ。妹はお前の不幸を笑っているだろう。
「偏屈師匠ばっかり。」とな。だがな。今の私は、妹の気持ちが分かるようになってきた。
お前を助けてくれた妹を悪く言うのもなんだが。自由奔放でな。あれは。」

神妙に。夕闇に映える金銀妖瞳。
「私は、これから妹に会いに行く。」
「え?」
「そう気負うこともないのではあるが・・、少し覚悟が要る。」と真剣な表情。
妹の果てた地に。
「行くこと、自体はそれほどでもない。だが、取り込まれる。」
「へ?」意味がわからない。少女。
「お前は・・・。どうする?」とかつての師。
「私は3度目になるか。年に1度。会いに行く。」
「その・・?どういう?」と少女。
「声を聴くことは出来る。伝えることも出来る。だが。」
「はい。」
「感情が出すぎると、取り込まれてしまうだろう。だが、まだ母の弔いもできていないだろう?だが。」
「はい」グレイの髪の少女は不安と期待も。
「もしも私がしくじれば、そのまま逃げろ。そして、森の声には素直に従え。」
「はい・・・。」久しぶりの師の言葉に緊張しながら。


暗い森を抜け。陽が落ちる前にたどり着く。
「ここで・・。」そうだ・・そう・・。少女の頭に悪夢が甦る。
「ぐぁ。うっ。」吐瀉。
頭痛と吐き気と、めまいの中、自身の吐いた物の中に倒れる少女。
「大丈夫か!」とミコッテの幻術士は優しく頭をなでてやる。
「はぃ・・・。大丈夫。ありがとうございます。」とけなげな少女。
(もう、見ていられないな。)
「なあ。レティシア。」

「はぃ。」
「無理に嫌なことを思い出すと、精神にキズを負う。やはり、やめておこう。私はグリダニアには入れない身だ。近くまで送ろう。」
ミコッテの師は涙を流している。
「いえ。是非。母と会わせてください。ちゃんとお別れをしていません。」
少女も譲らない。

この頑固さは・・。親に似たのか、私に似たのか・・・。

少し休んで、精霊を呼び出す。

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