126書き物。ZERO-4

身体を動かすというのは、心地いい。
それも、朝の(グリダニアの朝は薄暗いが)空気は最高だ。

「レティシア!もう一周だ!」と師匠が声をかける。
「はいっ!」

グリダニアの街は森に共生するかのような造りゆえ、道が複雑で入り組んでいる。
その中心部に当たる「水車四辻」からぐるっと北の劇場を過ぎ、幻術士ギルドの(懐かしい)いりぐちを越え、
エーテライトと呼ばれる魔法石を越え、ぐるっとまわり元の位置に来る。



「レティシア。お前、ほんとに足はやいな。」とは、砂漠の街(だったとおもう)ウルダハから来た格闘の師匠。
「はい、師匠!かけっこは負けたことがありません!」とは、真っ直ぐなグレイの髪を腰まで伸ばした少女。
年のころは13くらいか。そろそろ女性らしさが子供らしさを追い抜いてくるか。

「将来が楽しみだな。」
「はい?」
「いや、お前将来美人確定だなーとおもってだな。」
「はぁ?」
「俺のヨメになるか?」
「師匠、おいくつでしたっけ?」
「うん、今年で60になるな。」
「妖怪・・・。」
「うん、よく言われるな。」
どうやら銀髪は生来のものではなく、年齢のもののようだ。


そういえば、この師匠と個人的な会話をするのは初めてだったかもしれない。
普段は「あれをしろ。」「こうしろ。」としか言わないのだが。
一年も師事すれば、多少は言葉も増えるというコトか。
「ようし、今度は競争しようかな。」と師匠。
「え?」
「行くぞ!」


結果は師匠の勝ち。ありえない速さで走り去っていく。
「まだまだだな。」
「はい。」
「何故、負けたかわかるかな?」
「師匠が妖怪だからです。」
「はは、俺があやかしもののけの類であるなら、今頃お前は食われておるだろうな。」
「じゃあ、なんなんです?」
「まずコレよな。」と言って靴を見せる。「エルメスの靴」足を速くしてくれる魔法の靴。
「そしてな。お前の前から見えなくなったときに、エーテライトまでデジョンをしたのな。」反則もはなはだしい。

「最後は、まあ、余裕の到着、というわけな。」

「意味がわかりません。駆けっこ勝負じゃないですか?」腑に落ちない少女。
「その時点で、お前は負けたのだよな。」
「はぁ?」普通の師弟なら許されないだろう台詞だが。
「俺は競争しよう、と言ったんだがな?」
「はい、そうですね。」
「誰も、駆けっこで勝負しようなんぞ、言っとらんよな?」
「はい。」
「なので、お前は負けたのよな。意味が分かるかな?」
「教えてください。あたしでは・・。」

「まず、相手の舞台に立つのではなく、自分の舞台を頭に描くのな。」
「そして、どうすれば相手を自分の舞台に立たせられるか、もしくは引きずり出すかなのよな。」
「はい・・。」
「そこから先は、自分の舞台で面白おかしく踊ってもらうだけなのよな。わかるかな?」
「?」
「さっきの競争しかり、な。」
「!!!!」
「自分から相手の舞台に降りて、ユカイに踊ることほどマヌケな話はあるまいてな。」
「ありがとうございます。」眼からなにかが落ちた気がする。この場合羽根だっけ?ウロコだっけ?

「お前はスジがいいんだがな。」
「ありがとうございます。」
「こと、こういう先読みや、相手の読みが浅いな。」
「はい・・。」
「格闘は一つの計算式で成り立っておるな。もちろん、それ以前に体力や技術は必須だがな。」
「はい。」
「舞台を組み立てる力が無いと、その体力や技術はムダになるな。まずは、その組み立て方をそろそろ教えてやらんとな。」
「ありがとうございます。」
「それとな。この考えかたは格闘だけではないな。いろんなコトにいかせるようにな。」
「はいっ!」
「ところで、こういった教えは前の師からは聞いておらんのかな?」
「いえ、師匠が初めて師事した方です。前の師はいません。」
「そうか、悪かったな。」

老ララフェルは、そう言って講釈を垂れながら、型を教えていく。










「のう?俺はあの娘にどうすればよいのかな?」
銀髪の年経たララフェルは、グリダニアの幹部と話をしていた。
「ホラン・ホライズン殿。貴殿はこのまま気にせず、彼女の指導をしていただきたい。
「それはいいのだがな。」
「なにか、問題でも?」
「俺が教えた結果、あの子が不幸になるのであれば、俺も黙っていないのよな。」
「いえいえ!そんな!どうしてですか?」
「いや、あの子には前に師事したハズの誰かが居たのよな。それが当人が覚えておらんなどと、あるはずがないのよな。」
「彼女には、たしかに前任がいましたが、不祥事を起こしたために解任され、ホラン殿にお越しいただいたのです。」
「そうか。わかった。ただな。」
「ええ。」
「あんまり俺をなめるんじゃねえぞ?この若造が。   後、あの娘もな。なめるなよ?」




「あの老人は使えますかね?」
「呼んで来たのはお前だろう?責任を人に押し付ける方法を教えたつもりは無いが?」
「申し訳ありません。」
「なら、出来ることをしたらどうだ?」
「はい。」



「レティシア!」
夕暮れに佇む街の中、老ララフェルは鍛錬中の弟子を呼ぶ。
「はい!師匠!」
「考え方は分かったかな?」といつに無く真剣な表情。
「はい。なんとなくですが。」と師匠の頭をナデナデする。
「俺もな、なんとなくこの頭をなでられるのが好きになってきたんだがな。」
「はい♪」
「お前、いくつだったかな?」
「13です。この前にも聞いてませんでした?」
「そうか、この年になると忘れやすいな。まあ、ちょっと来いよな。」
「はい?」


----------コメント----------

お母さんのトリックスターっぷりはこの師匠が伝授したのですね(笑)
さて、どう続くのでしょう…!
Alto Springday (Sargatanas) 2012年01月14日 13:41

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悪知恵の源泉がw
Bob Dalus (Hyperion) 2012年01月15日 00:26

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>アルトさん、いらっしゃい♪
まさしくトリックスターなジっちゃんw現代(このお話での)には恐らく参戦できないでしょうから、いろいろとやってくれるでしょうw
Mayuri Rossana (Hyperion) 2012年01月15日 08:16

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>ぼびー、いらっさいw
あの破天荒な性格は生来のもので、悪知恵は確かにココからw
二つがミックスされてああなったとw
そのてん、マユは天然系の兄と似た感じ?どこか抜けてるw
修羅場の違いかな?w
Mayuri Rossana (Hyperion) 2012年01月15日 08:19

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