1045トリニティ。 彼女の一日

軣と鳴る風。
時折の静寂。

そして。

硝子の向こうには雪と氷に浸かった国家。

今日は特に用事が無かったので、家同然に使っていい、というお屋敷の中。

なんだか、部屋着は心もとない・・もし、もしも、また竜の眷属が襲ってきたら?

一人部屋、なんて贅沢を言う気は全く無かったので、相棒と相部屋なのだけど・・・

彼女はなんだか、一人で訓練に行ってしまった。

そうなると・・。なんだか、一人でお屋敷に篭っているとバツが悪い気がする。

「お昼には・・」独りごちて、詮ないコトだとも。

まずは、あの「蛮神」だ。
雲海で目撃情報があったというのに。

それを「暁の血盟」で、というけど・・・具体的なプランができてない。

確か・・・あの蛮族は「ビスマルク」と呼んでいたか。

暁のメンバーは、タタル嬢、フ・ラミン他、まとまった戦力がない。

困ったモノだ。

元クリスタルブレイブ総帥、アルフィノ殿は何か打開策があるのだろう、か?

黙考。

無い。たぶん。結論付けるには弱いけれど、駒が足りていない。圧倒的に。
ならば、駒集めから。
でも、手ひどく裏切られて。
いちにのさん、で仲間集めとは行かないだろう。

しばらく、様子見。か。

そろそろ、昼食時。
相棒は帰ってくるのか、来ないのか?

もう一度、硝子の向こう側を覗き見る。

彼女は、何を追い求めているんだろう?

そして、自分は?

なんだか頼りない部屋着を見下ろして、ため息ひとつ。
「はぁ・・」 
あ。
ため息ついたら、幸せの妖精が死んじゃうんだっけか。
やれやれ、と。
相棒からのお達しを思い出し・・
次のため息は口の中で殺しておいた。

部屋を見渡す。
二人部屋とはいえ、貴族の館だけあってそこらの宿とはちょっと違う。

相棒のカバンがざっくりと。
本当にざっくりと置かれ、大丈夫?と思うけれど。
流石にコレを触るのはマナー違反だ。
でも、装備は気になる、かも。

う~ん。
でも、眺めるだけ。
自分も放ったらかし、なコトが多いし・。・・・。

っと。
パールを取り出し。

「ご飯、どうする?」
「・・・今、着いた。」
ドアがノックされる。

二人で着替えて・・

食堂に。

ここには、他に傭兵の姉妹が。

「おう、早かったやん?」
ハイランダーの女黒魔道士、ユーニ。
「せやな!」
妹の戦士、ユーリ。

「ご飯食べさせてもらえんねんから、せめて遅れたらあかんやろ?」
「ですよね。・・・って、エリ。」

「ああ、済まない。なんだかその。」同じテーブルに着くアルフィノ。
「ええやんけ。」「せやせや。」「やな。」「そうです、英気を養いましょう。」
「ありがとう。」
銀髪の少年が頭を下げる。

「おお、お揃いですかな。それでは。」執事がベルを鳴らし、食事が運ばれてくる。

食事は進み・・・・・

「まずは、僕が調べた話をしよう。」アルフィノが切り出す。

食後のお茶を飲みながら、銘々が神妙な顔つきに。

「かの蛮神だが、バヌバヌ族が崇めているのは間違いがない。ただ、勢力が分かれているようだ。」
「ふうん?」ユーリが小首を傾げる。このままなら可愛げのある女の子で通るだろうに。

「それでだ。この雲海を自由に飛びまわらないと、この大本命には辿りつけない。」
「せやな。」これは、姉。

「うちら、風の・・風脈、っていうんか。それの使い方を習たで。」
「あ、そうです。それがあれば、チョコボとかでも空を飛べるって。」
「あー。アレか。クルザス西部の鳥は空飛ぶからびっくりやった!」
「お姉ちゃん、本気で・・イタっ!ちょ!」

「それでや。」
「あ、うん。実は、アバラシア雲海で行ける所は全部周ったんだけど、足りないの。」
「ほう?拳聖。どういうことや?」
「どうやっても登れへんトコがあってな。」
「ちゃうわ。なんで、「場所」がわかってるねん?て聞いとんや。」
「風脈のコンパスっていうのがあるねん。」
「そうそう、今の場所から、方角と大まかな距離が。」
「おい、暗黒の。」
「はい?」
「そういう話は、皆で共有するべきやろ?なんや?うちらは傭兵やさかい、お仲間やない、ってか?」
「え、いや・・」
「ユーニ。ええかげんにしいや。パールも受け取らんとって、情報の共有をアレコレいうなや。」
「へーへー、拳聖サマ。」
パールを交換する。
「お姉ちゃん・・」
「コレで情報は渡したで。そっちの方はどないやねん?」拳聖の厳しい睨みと。
「は?」とぼける黒魔道士。
「竜の眷属の迎撃、邀撃と、忙しいみたいやしな?」
「ああ。雑魚と遊ぶだけで情報とかにならんやろ。」
「まあ、ええわ。こっちで取れる風脈に限界が来たし、そっちで探してみる。ええやろ?」
「せやな。っと。こっちは寒いからな。呆けたカッコしとったら死ぬで?」
「雲海は雪や氷は無いけどね。それでも、突風が吹いたり、元高地だから?寒いのよ。ソコは言っておきます。」暗黒騎士の一言に。
「リンちゃん。」
「あ。」
「そら、悪かったなあ、暗黒の。ユーリ、行くで。」
「あ、待ってーな!」
姉妹が食堂から出て行く・・・この後もおそらく、前線に行くのだろう。

まあ、いいだろう・・・・
か?

「君たち・・仲がいいのか?大丈夫かい?」
エレゼンの少年。
「あー。アレや、アルフィノ。うちらは別にケンカしてるワケやあらへん。」
「うん!そうそう!アルフィノ君!」

「そうか・・しかし・・君付けは勘弁してくれないか・・・・・。」
「あ、ごめーん!つい!」
「りんちゃんは、ウッカリさんやさかいな。」

まったくだ。
まさか、こんな若い子が組織のリーダーだった、とは今になっても信じられない。


「うちらは、アレや。簡単な関係で成り立ってる、て言うんかいな。」
「エリ?」
「ほう?」
「損得勘定、ってヤツや。」
「・・・エリ、ミモフタモナイ。」
「今回はうちらの出した、コンパスの情報。これは向こうにしたら御の字や。」
「そうなの?」
「すぐに出て行ったやろ?」
「ああ。」
「んで、や。うちらは何ももろうてへん。」
「まあ、そうね。」
「コレは、今すぐに回収せえへん、後々の取り立てに使うネタにするさかいな。うちが言うまで、この話はせんように?ええか?」
「は、はい。(わあ・・・・)」
「その・・エレディタ嬢、そういった交渉は大丈夫なのかい?」
「ん?大丈夫だよ、アルフィノ。うちが育ったトコじゃ、このくらい冗談レベルだって。」
「「え!?」」二人の声がハモる。
「あいつらも傭兵なんてやってんねん。このくらいの流儀はわかっとるやろ。」
「そうなのか?」
「なの?」
「気にしすぎや。うちらが役に立つのは、十分理解しとるさけな。お互い、取れる所は取る。で、一番オイシイ所を狙っとる。それはコッチもやけどな。 ほれ、準備するで?」
相棒に話を振る。
「え!?」
「姉妹にはコンパスが価値のあるもんや、ってわかった、わかってたか。西部地方の風脈はあらかた抑えたハズや。」
「はい。」
「でやな、その報酬にはうちらの風脈のお手伝いをしてもらおうやん。」
「大丈夫なの?それ。」
「言ったやん。取れる所は取る。姉妹のパールの軌跡を追えば、コッチのコンパスとの誤差も少ないでしょ?」
「エリ・・・悪党?」
「ヒドイなあ、策士と言ってんか。」ニヤリ。
「君たちの関係はわかったよ。無茶をしないで欲しい、とは言わない。ただ、無事に帰ってきて欲しい。あの姉妹も。」
「シケた顔してんなあ、アルフィノ。問題ないって。」
「そうよ。こういう時は、こう言うの。「あー、あー、やってられない!」って。」
「・・?その意味は?」
「聞きたければ、黙って待っててね♪」
「やれやれ。ほんなら、行くで。」「うん。」
「そうか、やってられないな。」
「いい子にしてたらお土産を持って帰るわ。」
「君が一番僕を子供扱いしてるじゃないか!」
「へいへい。リンちゃん、アルフィノ。そのへんで。」

銀髪の少年元総帥は恨みがましい目で見つめているが、気にする二人でもなく。

「あんまりモメんといてや。ほんま。」
「ごめん・・そんなつもりじゃ・・。」
「うち以外に距離を取りたがってるのはわかるけどな。」
「・・・・。」
「まあ、ええわ。後でちゃんとお話しようやん?」
「・・・ええ。」



部屋に戻ると、衣装箱から装備を取り出していく。
二人ともに装備のチェックを終えて、寒冷地ということでガウンとサーコートを貸し出してもらう。
こうして装備を点けていくのが、なんだか楽しいのは・・


「りんちゃん、その薄っぺらいコートで大丈夫なん?」
「ええ。鎧の下の生地鎧がありますからね。風さえ防げれば。」
「なるほどなあ。」

そして、空飛ぶチョコボの元に。

「いらっしゃい。あ、フォルタン伯からお伺いしております。空を飛んだことはおありですか?」
「あるわけないやろ。」
「エリ!・・あ、ないです。」
「なら、西部に行くように調教されたチョコボなんで、とりあえず乗ってもらって何も指示をしないでください。」
「落ちひんやろな?」「エリ!」
「大丈夫ですよ。十人に一人くらいです、そんな間抜けは。」
「いるんや・・」「・・・。」
「大丈夫ですって!」


そして。


「コレ!」「うん!」
「ヤバイ!」「やばい!」

黒いチョコボの背にまたがり、寒風も何のその。

「リンちゃん、さ。」
「なに?」
「その剣、確か「アスカロン」って言ってなかった?」
「え?そうだよ。どうして?」
「や、なんて言うんかな。面白くない話になったらごめんやで。」
「何?」
「その剣の銘は、教皇庁の神器と同じらしい。」
「ええ?」
「まあまあ、もう少し。ちょっと前にな、その銘を謳った剣を持った「剣王」てのが居たんやわ。最近は姿をくらましてるのか、どうなんだか。」
「・・・で?」
「リンちゃん、あっちの・・ヴァア・・だっけ?から来たんやろ?」
「・・・うん。」
「その剣は?」
「そう、ヴァナ・ディールのものよ。地下監獄の怨霊から頂戴した魔剣。」
「ほうか、確かに両手剣やしな。剣王は片手剣やったし・・・教皇のトコはどうやろな?」
「わあ。ネーミングだけなら好きにしてよ。」
「そらそうや。」
「あ。着きそう。」「おう。」


細雪降る城塞に。

このまま帰る、なんて選択肢は無い。

なら。

忙しい一日はこのまま続くのだろう。

彼女の一日は、一日以上で終わらない。

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