軣と鳴る風。
時折の静寂。
そして。
硝子の向こうには雪と氷に浸かった国家。
今日は特に用事が無かったので、家同然に使っていい、というお屋敷の中。
なんだか、部屋着は心もとない・・もし、もしも、また竜の眷属が襲ってきたら?
一人部屋、なんて贅沢を言う気は全く無かったので、相棒と相部屋なのだけど・・・
彼女はなんだか、一人で訓練に行ってしまった。
そうなると・・。なんだか、一人でお屋敷に篭っているとバツが悪い気がする。
「お昼には・・」独りごちて、詮ないコトだとも。
まずは、あの「蛮神」だ。
雲海で目撃情報があったというのに。
それを「暁の血盟」で、というけど・・・具体的なプランができてない。
確か・・・あの蛮族は「ビスマルク」と呼んでいたか。
暁のメンバーは、タタル嬢、フ・ラミン他、まとまった戦力がない。
困ったモノだ。
元クリスタルブレイブ総帥、アルフィノ殿は何か打開策があるのだろう、か?
黙考。
無い。たぶん。結論付けるには弱いけれど、駒が足りていない。圧倒的に。
ならば、駒集めから。
でも、手ひどく裏切られて。
いちにのさん、で仲間集めとは行かないだろう。
しばらく、様子見。か。
そろそろ、昼食時。
相棒は帰ってくるのか、来ないのか?
もう一度、硝子の向こう側を覗き見る。
彼女は、何を追い求めているんだろう?
そして、自分は?
なんだか頼りない部屋着を見下ろして、ため息ひとつ。
「はぁ・・」
あ。
ため息ついたら、幸せの妖精が死んじゃうんだっけか。
やれやれ、と。
相棒からのお達しを思い出し・・
次のため息は口の中で殺しておいた。
部屋を見渡す。
二人部屋とはいえ、貴族の館だけあってそこらの宿とはちょっと違う。
相棒のカバンがざっくりと。
本当にざっくりと置かれ、大丈夫?と思うけれど。
流石にコレを触るのはマナー違反だ。
でも、装備は気になる、かも。
う~ん。
でも、眺めるだけ。
自分も放ったらかし、なコトが多いし・。・・・。
っと。
パールを取り出し。
「ご飯、どうする?」
「・・・今、着いた。」
ドアがノックされる。
二人で着替えて・・
食堂に。
ここには、他に傭兵の姉妹が。
「おう、早かったやん?」
ハイランダーの女黒魔道士、ユーニ。
「せやな!」
妹の戦士、ユーリ。
「ご飯食べさせてもらえんねんから、せめて遅れたらあかんやろ?」
「ですよね。・・・って、エリ。」
「ああ、済まない。なんだかその。」同じテーブルに着くアルフィノ。
「ええやんけ。」「せやせや。」「やな。」「そうです、英気を養いましょう。」
「ありがとう。」
銀髪の少年が頭を下げる。
「おお、お揃いですかな。それでは。」執事がベルを鳴らし、食事が運ばれてくる。
食事は進み・・・・・
「まずは、僕が調べた話をしよう。」アルフィノが切り出す。
食後のお茶を飲みながら、銘々が神妙な顔つきに。
「かの蛮神だが、バヌバヌ族が崇めているのは間違いがない。ただ、勢力が分かれているようだ。」
「ふうん?」ユーリが小首を傾げる。このままなら可愛げのある女の子で通るだろうに。
「それでだ。この雲海を自由に飛びまわらないと、この大本命には辿りつけない。」
「せやな。」これは、姉。
「うちら、風の・・風脈、っていうんか。それの使い方を習たで。」
「あ、そうです。それがあれば、チョコボとかでも空を飛べるって。」
「あー。アレか。クルザス西部の鳥は空飛ぶからびっくりやった!」
「お姉ちゃん、本気で・・イタっ!ちょ!」
「それでや。」
「あ、うん。実は、アバラシア雲海で行ける所は全部周ったんだけど、足りないの。」
「ほう?拳聖。どういうことや?」
「どうやっても登れへんトコがあってな。」
「ちゃうわ。なんで、「場所」がわかってるねん?て聞いとんや。」
「風脈のコンパスっていうのがあるねん。」
「そうそう、今の場所から、方角と大まかな距離が。」
「おい、暗黒の。」
「はい?」
「そういう話は、皆で共有するべきやろ?なんや?うちらは傭兵やさかい、お仲間やない、ってか?」
「え、いや・・」
「ユーニ。ええかげんにしいや。パールも受け取らんとって、情報の共有をアレコレいうなや。」
「へーへー、拳聖サマ。」
パールを交換する。
「お姉ちゃん・・」
「コレで情報は渡したで。そっちの方はどないやねん?」拳聖の厳しい睨みと。
「は?」とぼける黒魔道士。
「竜の眷属の迎撃、邀撃と、忙しいみたいやしな?」
「ああ。雑魚と遊ぶだけで情報とかにならんやろ。」
「まあ、ええわ。こっちで取れる風脈に限界が来たし、そっちで探してみる。ええやろ?」
「せやな。っと。こっちは寒いからな。呆けたカッコしとったら死ぬで?」
「雲海は雪や氷は無いけどね。それでも、突風が吹いたり、元高地だから?寒いのよ。ソコは言っておきます。」暗黒騎士の一言に。
「リンちゃん。」
「あ。」
「そら、悪かったなあ、暗黒の。ユーリ、行くで。」
「あ、待ってーな!」
姉妹が食堂から出て行く・・・この後もおそらく、前線に行くのだろう。
まあ、いいだろう・・・・
か?
「君たち・・仲がいいのか?大丈夫かい?」
エレゼンの少年。
「あー。アレや、アルフィノ。うちらは別にケンカしてるワケやあらへん。」
「うん!そうそう!アルフィノ君!」
「そうか・・しかし・・君付けは勘弁してくれないか・・・・・。」
「あ、ごめーん!つい!」
「りんちゃんは、ウッカリさんやさかいな。」
まったくだ。
まさか、こんな若い子が組織のリーダーだった、とは今になっても信じられない。
「うちらは、アレや。簡単な関係で成り立ってる、て言うんかいな。」
「エリ?」
「ほう?」
「損得勘定、ってヤツや。」
「・・・エリ、ミモフタモナイ。」
「今回はうちらの出した、コンパスの情報。これは向こうにしたら御の字や。」
「そうなの?」
「すぐに出て行ったやろ?」
「ああ。」
「んで、や。うちらは何ももろうてへん。」
「まあ、そうね。」
「コレは、今すぐに回収せえへん、後々の取り立てに使うネタにするさかいな。うちが言うまで、この話はせんように?ええか?」
「は、はい。(わあ・・・・)」
「その・・エレディタ嬢、そういった交渉は大丈夫なのかい?」
「ん?大丈夫だよ、アルフィノ。うちが育ったトコじゃ、このくらい冗談レベルだって。」
「「え!?」」二人の声がハモる。
「あいつらも傭兵なんてやってんねん。このくらいの流儀はわかっとるやろ。」
「そうなのか?」
「なの?」
「気にしすぎや。うちらが役に立つのは、十分理解しとるさけな。お互い、取れる所は取る。で、一番オイシイ所を狙っとる。それはコッチもやけどな。 ほれ、準備するで?」
相棒に話を振る。
「え!?」
「姉妹にはコンパスが価値のあるもんや、ってわかった、わかってたか。西部地方の風脈はあらかた抑えたハズや。」
「はい。」
「でやな、その報酬にはうちらの風脈のお手伝いをしてもらおうやん。」
「大丈夫なの?それ。」
「言ったやん。取れる所は取る。姉妹のパールの軌跡を追えば、コッチのコンパスとの誤差も少ないでしょ?」
「エリ・・・悪党?」
「ヒドイなあ、策士と言ってんか。」ニヤリ。
「君たちの関係はわかったよ。無茶をしないで欲しい、とは言わない。ただ、無事に帰ってきて欲しい。あの姉妹も。」
「シケた顔してんなあ、アルフィノ。問題ないって。」
「そうよ。こういう時は、こう言うの。「あー、あー、やってられない!」って。」
「・・?その意味は?」
「聞きたければ、黙って待っててね♪」
「やれやれ。ほんなら、行くで。」「うん。」
「そうか、やってられないな。」
「いい子にしてたらお土産を持って帰るわ。」
「君が一番僕を子供扱いしてるじゃないか!」
「へいへい。リンちゃん、アルフィノ。そのへんで。」
銀髪の少年元総帥は恨みがましい目で見つめているが、気にする二人でもなく。
「あんまりモメんといてや。ほんま。」
「ごめん・・そんなつもりじゃ・・。」
「うち以外に距離を取りたがってるのはわかるけどな。」
「・・・・。」
「まあ、ええわ。後でちゃんとお話しようやん?」
「・・・ええ。」
部屋に戻ると、衣装箱から装備を取り出していく。
二人ともに装備のチェックを終えて、寒冷地ということでガウンとサーコートを貸し出してもらう。
こうして装備を点けていくのが、なんだか楽しいのは・・
「りんちゃん、その薄っぺらいコートで大丈夫なん?」
「ええ。鎧の下の生地鎧がありますからね。風さえ防げれば。」
「なるほどなあ。」
そして、空飛ぶチョコボの元に。
「いらっしゃい。あ、フォルタン伯からお伺いしております。空を飛んだことはおありですか?」
「あるわけないやろ。」
「エリ!・・あ、ないです。」
「なら、西部に行くように調教されたチョコボなんで、とりあえず乗ってもらって何も指示をしないでください。」
「落ちひんやろな?」「エリ!」
「大丈夫ですよ。十人に一人くらいです、そんな間抜けは。」
「いるんや・・」「・・・。」
「大丈夫ですって!」
そして。
「コレ!」「うん!」
「ヤバイ!」「やばい!」
黒いチョコボの背にまたがり、寒風も何のその。
「リンちゃん、さ。」
「なに?」
「その剣、確か「アスカロン」って言ってなかった?」
「え?そうだよ。どうして?」
「や、なんて言うんかな。面白くない話になったらごめんやで。」
「何?」
「その剣の銘は、教皇庁の神器と同じらしい。」
「ええ?」
「まあまあ、もう少し。ちょっと前にな、その銘を謳った剣を持った「剣王」てのが居たんやわ。最近は姿をくらましてるのか、どうなんだか。」
「・・・で?」
「リンちゃん、あっちの・・ヴァア・・だっけ?から来たんやろ?」
「・・・うん。」
「その剣は?」
「そう、ヴァナ・ディールのものよ。地下監獄の怨霊から頂戴した魔剣。」
「ほうか、確かに両手剣やしな。剣王は片手剣やったし・・・教皇のトコはどうやろな?」
「わあ。ネーミングだけなら好きにしてよ。」
「そらそうや。」
「あ。着きそう。」「おう。」
細雪降る城塞に。
このまま帰る、なんて選択肢は無い。
なら。
忙しい一日はこのまま続くのだろう。
彼女の一日は、一日以上で終わらない。