1038トリニティ。 秘書の日常。

某日、海の都。リムサ・ロミンサにて。

朝日を十分に取り入れるようデザインされた部屋。
窓にはガラスではなく、木があつらわれており、潮風が暖かな風を運んできてくれる。
(もちろん、冬には鎧戸を閉めれば寒風は防げる。)
部屋には簡素ながら、文机と椅子。 ストーブもあるためお湯を沸かしたり、ちょっとした料理ならできるように。
少し大きめのクローゼットと、食事用の小さくて丸いテーブル。
どれも、リムサ風で、配色も揃えられているので全体的にまとまっている。
さらに、小さいながらも寝室もあって・・・
その寝台には、今まさに起き上がって、伸びをするミコッテの女性。

彼女は、ふぁぁあぁ・・・ と大きくあくびをして、軽く柔軟体操。

水まわりに行き、顔を洗うともう一度伸び。

頬を軽く叩いて、気合をいれるとリビングに行き、制服に身を包む。

「よし。」

社員寮のドアをくぐり、施錠すると彼女は職場「アリティア産業」へと足を向ける。

途中、露天で立ち食いのできるフィッシュサンドを頬張りながら。

「お早うございます!」
玄関で守衛のルガディンに挨拶をすると、持ち場である「秘書室」へ。
まだ朝も早いとはいえ、グリダニア、ウルダハの支社から書類が届いているはずだ。
もちろん、この本社でも。
そこで、まずは書類の仕分けから始まる。
社長の裁可が必要なもの、領収書、請求書、報告書、陳情書、etc...
ここでは、裁可が必要なものを優先的に集めて、優先度の高いものが一番上になるように仕分け、秘書に権利のあるものは自分たちでこなしていく。

ある程度は、仕分けが済んでいるとはいえ、こちらでするほど繊細ではないため、こういう仕事から始まる。

筆頭秘書ともなれば、さらに社長のスケジュールを細かく組み、他社への来訪予約も取ったりと、することは山盛りである。

そして、業務が始まる。

秘書室には二人
ダークグレーの髪の筆頭秘書、濃い桃色の髪の次席。二人共、ミコッテである。
社長もミコッテだが、特に意図はない。

「ユキネ、これを社長に。早急に判断を仰いで。」
「はい。」
手渡された書類には、赤いインクで「至急!」とサインがされている。
手渡しながら、筆頭は次の書類に目を通し、可不可の判断が社長の認可が必要か仕分けている。

ユキネは、社長室のドアをノックし、「はいります。」と告げ、ドアを開ける。
この際、ノックは儀礼的なものでいい、と言われていたので返事は聞かない。

かちゃり。

「うわちゃっ!」
社長の声。
「失礼いたします。」
「ユキネちゃん・・・、ノック、した?」
「はい。」
「そう・・・」
慌ててボードゲームを隠す社長。
それには、目を瞑り「至急の案件です。」書類を。

「ああ、うん。」
ざっくりと、目を通す。

「う~ん、至急ね。・・・至急・・か。」
「いかがしましたか?」
「相手が相手でね。ウッカリと認可できないのよ。」
「ですが・・・」
「うん、少し時間を。お茶淹れてきて。」
「はい。」

ユキネは社長室から給湯室へ。

その間に、マルス社長は秘書室に。
「ねえ!せんちゃん!」
「社長?どうかしまして?」
「さっきの書類!!!」
「ああ、最優先かと思い先に届けさせました。後ほど残りの書類を・・」
「そうじゃなくて! クォって!」
「はい、かの商社、ではなく個人的に会って話がしたい、とのことですが?そして今日のディナーです。ついでにいえば、双方一人づつ。」
「見ればわかるっ!」ほとんど涙目で。
「プロポーズですかね。」
「やめてっ!」
「とりあえず、大至急の案件です。本人の署名がなければダメですので、今すぐにしてくださいやがれ。」
「・・・回避は?」
「商売する気あるんですか?」
「・・・・・・・・」

社長室に戻ると、ティーポットと茶菓子を準備したユキネが待っていた。

「あ。社長。お茶、お持ちしました。」ティーカップにお茶を注ぎ、お茶菓子を添えてデスクに。

「ありがとう。」とは言いながらも、眉間にシワが・・・・
そして、おもむろにお茶菓子・・・甘く味付けした、小さな揚げパン。
それを、お茶受けどころか、メインディッシュと言わんばかりに。
ぱくぱく。

「あの・・?」
「うん。甘いモノって、気分が和むよね・・」
「・・・ですね。」

社長は、おもむろにティーカップに手を付けると、一息に流し込もうと・・・・
「あぶぅっっ!!?」
・・・・・・・
沈黙。
(笑ってはいけない。ココは、絶対に。)
「すぐにナプキンを・・」手渡す。
「んぐ、すまない・・・」
「何か・・・その芳しくないことでも?」
「いや・・・まあ、そう。かな。」
「ですか。」デスクに散ったお茶と、お菓子のカケラを掃除しながら。
「君に言っても。まあ、まだ分からないだろうけど。だから、敢えて言うとするか。」
「はい?」
「商売敵から、今夜のディナーのお誘いを受けたんだ。一対一で、ね。」
「デート、ですか・・・いえ、すみません!」
視線が怖くなったので、つい謝罪を・・

「私は、個人的にはあの男が大嫌いだ。向こうもそう思っているだろう。が、あえて、だ。」一息をつくと。
「思惑、ね。幾つか思い当たる。が、推測だけではいかんともしがたい。この書類、サインを記すから、君が届けてくれ。」
「え!?私が、ですか?」
「ただの使いっ走り、というわけにもいくまい?セネリオはまだ仕事があるからな。そういうわけでよろしく頼む。」さらさら、っと筆記体でサインをすると、書類を手渡される。
「は、はい!」
慌てて出て行く次席秘書。

「社長?」
秘書室から、筆頭が。
「ああ。そもそもだ。なぜ、今、なんだ?アイツ、イシュガルドに行ったんじゃなかったのか?」
「その件なのですが。 細かい情報が曖昧です。まず、漆黒の尻尾付き、金色の瞳の「アウラ」の青年が出て行った、というのが元の情報です。」
「ああ、聞いている。しかも、銃を装備している、だったな?」
「はい。ですが、フェイクという可能性もありましたので、少し探っていたのですが・・」
「密偵まがいもするのかい?うちの秘書は。」苦笑い。
「いえ、冒険者各位にそれとなく情報を。というよりも。エレン氏がそのパーティに入り込んでいますので。」
マルスは「・・・・・・・アイツの天賦の才には・・・いつも驚かされる。」こめかみを押さえ・・・
この際。
かの「黒猫」こと、クォ・シュバルツとサシで会談も悪くはない。
「とりあえず、クォとの会食にはOKを出した。場所はビスマルク、と言いたかったのだろうが。意外な提案があって。コレには私も面白いと思った。」
「そうですね。かの「海戦」ですか。魔女殿のお膝元。サンドロ殿もさぞやビックリするでしょう。」
「魔女殿が立会、と言う事もないだろうが。フランクな感じで行けるだろうな。」
「ですね。後は。」
「ああ。何用か?だ。今更、共闘だの言い出すタマでもない。それにイシュガルドに替え玉を送っているのなら、向こうがリードだと言いたいのかもしれんが。」
「そこは、こちらにもボムが・・・エレン氏がいます。」
「ハッキリ言うな。間違いを指摘できないところが頭痛の種だが。」
「まずは、2局面です。イシュガルドとの国交を回復し、彼の国への支援。そして、3国の取りまとめ、ですね。未だ、ウルダハではキナ臭い話で一杯です。」
「だな。エリスがボヤいてるのもわかる。」
まずは、問題の整理から、か。


「あのお。」

この館に来るのは・・初めてではない。
以前に、ヘッドハンティングされて、こちらではなく、アリティアに就職したのだ。
プレッシャーで胃が痛い。

「どうぞ。」と、通され。

(是非とも、この書類だけ受け取って?)の願い虚しく・・・

「やあ。君が来ると思っていた。どうだい?仕事の方は。」
「(はぁ。)・・はい!力の限り、させていただいています。」
「そうか。せっかくのお越しだ。 おい、お茶の用意を。」
「あ、いえ、お構い無く。書簡をお届けに来ただけで・・」
「いい茶葉が入ったんだ。是非、感想を聞きたい。」
「あ、その。」
「うん、率直に。」
(そういう意味では・・) 来賓用の席にて。


「それでは、社長。ディナーの予約は?」
「あちらさんでするだろう。こっちは行くだけだ。」
「ですかね。くれぐれも、失態のなきように。」
「せんちゃん・・」
「社長はかの御仁に、いかにも感情的に過ぎます。その辺をわきまえて、穏便に。」
「わかったよぅ・・できるだけ、情報を引き出せるようにしてくるから。」
「当然です。」頷いて。
「では、執務に。」 ドサっ!と。書類の束。
「はにゃあ!」


(いいのだろうか?)
美味しいお茶(掛け値なし)に、東方のお菓子。

抱き込みでは無いんだろうけど。
とりあえず、他愛無い歓談をしながら。

本社に帰る次席秘書。


戻ってみると。
忙殺されている、いつもの社長と、こまめに意見をしている筆頭。

わあ・・まさか・・・ライバル社で、ゆっくりお茶してました、とは・・言えないよ?


そして、昼食の時間。

「何か動きは?」
筆頭。
「いえ・・、承諾していただいて感謝する、と。」ユキネの声に。
「そう。」社長は少し訝しんで・・
「相手が何を考えているのかは、掴みかねますがエレン氏からの報告があります。」筆頭秘書。
「ああ、まあ大体の想像はつくが・・・」
「概ね、そうですね。「黒い人」は、かなりの腕、それと相席したメンバーは、かなり興味が惹かれる。だそうです。」
「だろうな・・かの、拳聖だろ?」
「はい。もう一人、異国?の剣士も、と。」
「異国?」
「漆黒の鎧を纏った剣士、だそうです。」
「ふむ・・・まあ、興味深いな。 さて。夕食の件だが。」
「ガンバレ。」
「・・・・その・・・」
「・・・・せんちゃん。即答?」
「ガンバレ。」
「・・・・。」


午後も下回り。

「では行ってくる。後は頼む。」
「任せてください。」
「行ってらっしゃいませ。」


「さて。ユキネ。仕事も一段落だ。」
セネリオは少しばかり表情を緩ませ・・
「今日の晩御飯は私が出そう。付き合ってくれ。」
「え!?いいんです?」
「ああ、任せてくれ。」

二人の秘書は、溺れた海豚亭に。
「おや、珍しい組み合わせだ。」
「バデロン殿、美味しいモノを頼むよ。」
「ああ、任せてくれ。」



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今日の日記

某日

今朝はいい天気。
仕事にも、そろそろ慣れてきた。

今日は、神経をすり減らすコトが・・・

クォ邸・・って、もう・・・
針のムシロってやつ?勘弁してよお・・・

筆頭との夕食。
料理は美味しかった。けど。
グチるでもなく、淡々と食事。 
正直、味がわからなかったよ・・・

でも! 

私に、ちゃんと期待して、仕事を任せてもらっているのが分かったので、満足。

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社員寮の文机で日記を書きながら、ユキネは明日の執務の事を思い。
寝室に。


次席秘書の一日はこれにて終わる。

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