1015トリニティ。 序幕。

紫にも見える、薄靄の土地。
モードゥナ。
彼の地には、幻龍ミドガルズオルムが、帝国の巨大飛空戦艦と相打ちになり、その屍から漂う妖気が霧となりこの地に陽光を阻んでいるのだ、とまことしやかに囁かれている。

「うっとおしい天気やなあ。」
宿の窓から空を見上げる黒髪の女性。
髪は短く、遠目には男性にも見えるかもしれない。
しなやかな体?は、女性らしさを控えめにしている。
かといって、筋肉質でもないのでまるでクァールのような、少し肉食獣めいた表情もその一因だろう。
肌着の上に簡素なシャツ一枚の彼女は、隣にいる女性を改めて見つめて・・
「リンちゃん?」
と声をかける。

「ああ。うん、いつもこんな風景?だね。」
長い黒髪を後ろに束ね、ややおっとりとした感じの女性。
彼女は、ワンピースに、ショールという一般的な服装で、見た目は街中にいる一般人にも見える。
が。

彼女の持ち物は、物騒極まる大剣と、厳しいプレートアーマー。

そして。
彼女いわく、自分は「暗黒騎士」だという。

短髪の女性、エレディタは聞いたこともないジョブ(職業的冒険者区分)だな、と思っていたのだが、この後思いもよらない事でそのジョブを知る。



この日はなんだか・・「イヤな空気やな。」と・・・。


エレディタは、普段着を着ると「メシ、行こか。」と相棒に。
「ええ。お腹すいちゃったね。」と応える。

そして、食堂に降りると周りの冒険者や、街の住人の会話に耳を澄ませる。
(なんや?やっぱり、なんやオカシイで・・)
(そうね・・ざわついてる?)
小声で会話を。

周りでもなんだか、ひそひそ話があるようだ。
街人達もなんだかそわそわ、というか、いつもよりオドオドとした。
(あれか?蛮神シヴァの討伐が完全やあらへんかったからか?)
(巫女は逃してしまいましたし・・・もしかして復活しそうとか?)
(どうやろ・・・ちょいまった!)
「ウルダハ!?」つい、声が大きく・・・。
(エリ!?)
(いや、すまん。今、ウルダハで政治的な事件があった、って聞こえたんや。)
(それがどうして、こんなところに?)
(いや・・・コレはヤバイかもな。)
(え?)
(暁、とか、ブレイブとかって聞こえてる。これは・・・うちらにはマイナスかもしれへん・・)
(・・・、そのブレイブって?)
(暁の血盟から分派した、3国連合のモデル・・・まあ、お試し部隊や。前におったクルザスにあるイシュガルドいう国がこの3国連合に入らへんかったから、とりあえず「実態」としてやってみよう、らしいな。)
(なんか、キナくさいわね・・・)
(ああ、ええ勘や。メシはさっさと済まして、荷物の回収と居場所は変えたほうがええな。)
(うん、わかった。)

運ばれてきたシチューとパンを食べながら、それとはなしの世間話を始める。

そういえば、どこそこの野菜が美味しい
あっちの露天で珍しい果物があった。等など・・・

お互い話題に出しながら、適当に相槌だけうちつつ、実は周りの会話にこそ集中をしている。
(これは・・・マズイかも・・)
(ですね・・エリ。そろそろ引き際かも知れません。)
(なんや?)
(青いコートの軍人らしき男が店内を見渡しています。おそらく、暁に関わりのある冒険者を探しているのかと。)
(ほうか、まあ、うちらは幸い、町娘と変わらへん。)
(ええ・・・ですが、本当に暁が陰謀を図ったと思います?)
(さあな?・・ただ・・言えるんは、うちらも被疑者にされかねへんってコトや。)
(確かに。暁の関係者として街に来たんでしたし・・)
(ああ・・)

そこに。

「我々は、クリスタル・ブレイブ。反乱者グループ「暁の血盟」に名を連ねる冒険者からの事情聴取を行う。一般人は、今のうちにこの場から出てもらう。」

男の宣言に。


(もうけやな。)(ええ。)
が。
「ただし、身体検査・・・まあ、武器の所持や、明らかに一般人とは違う体つきの者は事情を聞くことにする。 よし。」と、配下を店内に入れていく。

(あちゃあ。コレはマズイわ。)(エリ、これはもう力押しでいいとおもう。)
(いうなあ、ええで。)(じゃあ、2階に走って装備を。)
(ああ。うちは軽装やけど、リンちゃんは?)(鎧は袋詰めにしてあるから、窓から投げておいて、後で回収。あたしは・・アスカロンがあれば、なんとでもなる。)(ほうか。)
視線で確認。

まだ、連中は入り口付近でチェックを始めたところだ。
もちろん、冒険者然としたグループは猛抗議をしている。それはそうだろう。
ただ、それがいい時間稼ぎにもなっているのに感謝だ。

こっそりと2階に・・向かいながら・・
そこに。
「おい!お前ら!」声がかかる。

「あちゃ。しっかり見てんなあ。・・うちらは関係あらへんわっ!巻き込まんといてんか!」
エレディタは自分でもムリな言い訳をしながら、階段に駆け寄る。
「エリ!向こうも足はやい!階段で追いつかれる!」
「困ったやっちゃなあ、リンちゃん。全速力で階段に!」
「うん!」

階段の半ばまで登り切ったエレディタは、振り返る。
相棒はまだ数段を登ったところ。町娘姿が災いしたか、スカートがやはり重荷というか。
「リンちゃん!頭、伏せて!」
「え!?」

もう少しで追いつくであろう、青いコートの男めがけて。

エレディタは、階段の半ばから身を躍りだして、男の顔面目がけて飛び蹴りを・・・

ぶびゃらっ!
と、ハデな悲鳴と共に転がっていくブレイブメンバー。
うってかわって、飛び蹴りをかました本人は落下の威力を蹴りの力に変えて、綺麗な着地を決める女性。
普段からパンツルックならでは、か。
呆れ半分、賞賛半分のアイリーンは、とにかく階段を駆け上がる。
「いつもこんなことを?」つい。
「昔は、な!」階段に駆け戻ってくる。


急いで部屋に戻ると、施錠、荷物の整理。と慌ただしく。
「ねえ?」
「なんや?」
「さっきの・・・もう少し大人しくしてたら、穏便に済んだかも?」
「そうやなあ・・・その代わり、後手に回るで。」
「それもそっか。」
彼女は、町娘の衣類は捨て置くと決めたようで、布鎧(防寒にも必須か)を着ながら、鎖鎧をざっくりと着始める。
こちらは、留め具が少ないから重量以外は問題無いだろう。
問題はプレートだが、革袋に綺麗に収納されているので持ち運びは大変とはいえ、現状では一番の状態。
そして、大きな革の鞘。
中には漆黒の長剣が収まっているはずだ。
「こっちは準備できたよ。」アイリーンの声に。
「ああ。うちもや。」応える相棒。

彼女はといえば。
保存食やその他、必須の道具を革袋に放り込んだものを常に用意していて。
後は、革をメインにしたプロテクターみたいな鎧を付けている。

「よし。」二人は頷く。

まずは・・・・

「せーの!」
プレートアーマーの入った革袋を窓から投げ落とす。
「いひひ!威勢がいいやね!」
「回収出来なかったら、損害がひどいわ・・。」

一度、窓の外を確認。
先ほどの物音が周りの喧騒にかき消されている。
ついでに言えば、さっきから部屋のドアが叩きまくられている。まあ、当然だが。

「んじゃ、うちから落ちるから。リンちゃん、一発時間稼ぎよろしく。」
「うん。任せて。」

ひょい、と窓から身を躍らせる相棒を見てから。
気合を込めて、背中の佩刀を抜き放つ。
漆黒の刃、が。
徐々に蒼味を帯びていく。
上段に構えた姿勢から、右肘を肩の方に引きつけながら、刀身を水平に持っていく。
部屋の中央から、扉まで2メートル・・踏み込めば3,4歩を。
一気に詰める。
「ハァッ!!」
扉をぶち抜く刀身。


ドガっ!
と轟音と衝撃がドアをぶち破り、蒼い刀身。それも、見たこともないような大きさ。
さらに、波打つようなデザインはそれが刀身とは一瞬・・いや、しばらくは理解ができない。
青いジャケットのブレイブ隊員は、ドアを抜くために準備したオノを廊下に放り出し、腰を抜かした。
「な。。。なんだ?コレ・・・?」「・・剣?ですか?」

間抜けた会話がかわされた後に「剣」は引きぬかれ、しばしの静寂。


どんっ!と音はしなかったが、重戦士が窓から落ちてきて・・綺麗に落下の衝撃を前転受け身でこなすのを見ると、「戦いなれてるなあ。」なんて感想を。

「じゃ、行こか。」
前もって回収しておいた革袋を相棒に。
「ええ。でもエリ。どこに?」
「せやなあ・・ともかく、この街はしばらく来れへんし・・クルザスにでも行こ。」
「そういうなら・・あたしは・・土地勘がないので。お任せします。」
「ほい。せやなあ。どこがいいか・・・。」
「ブレイブの連中は、3国と繋がっているのでしょう?」
「ああ、ホンネは知らんけどな。建前やとそうなっとるし。」
「では、イシュガルドに行ってみれば?」
「あー、それはうちも思ったんやけど・・鎖国しとるしなあ。」
「では・・あの、お名前は忘れましたが、貴族の方がクルザスの街にいませんでした?」
「あー。あの筋肉バカ。」
「それは、・・ヒドイ評価ですね・・」
「あんなんが好みなんか?」
「へっ!?なんでそうなるんです?」
「暑苦しいだけやろ?」
「そうかもですが・・今のところ、彼くらいしか頼れないのでは?」
「まあ、せやな。鎖国しとるとはいえ、パイプはアレやしな。ほんで、鎖国ゆうことは3国から逃げるにはうってつけ、ってか。」
「ですね。では、急ぎましょう。」

二人はこっそりと話を付けておいたチョコボ厩舎から2頭を借り受け、ドラゴンヘッドに向けて駆けていく・・・・



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「嫌な雨。」
季節は梅雨。
オレンジの傘を差しながら、公園前のバス停で。

湿気にからまり度が増していく髪を指ですかしながら・・・

「あ。先輩!!!!すみません!!!!!」
ピンクの小振りな傘を振り回すように走ってくる小振りな人影。

荒い息をついて、小柄な女性は遅刻の謝罪を始めて・・・
「いや、あやめちゃん?それはいいから、ずぶ濡れになっちゃうよ?」
黒髪、ポニーテールの女性は声をかける。
「いえ!先輩!!この償いわっ!」
「いいからいいから。凛子ちゃんが待ってるからさ。」
「うわ!ギン子・・・コワイよ、コワすぎるよ!」
「はいはい。だから急ごう。」
「はい・・・。」
「お仕事だったんでしょ?仕方ないよ。」
「先輩~」
涙目の後輩は、警察官だ。しかも刑事課。いわゆる「刑事」さん。
「あ、バス来たよ。じゃあ行こう。」
「はい!」


その後、あやめ嬢が同級生にボロクソに言われたのは・・。
言うまでもないのかもしれない。

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