931セブンス。少女たちの日常的な外伝?

ここはウルダハにある「アルダネス教会」付属、呪術師育成学院。

この「学院」は、呪術師ギルドの付属。
ウルダハの信仰、ナルザル神のうち、「死」を司るナル神の神殿とその教え「生けとし全ては、ナル神に帰る」が心の柱とし、その信心が主とされてきた。
ハズだ。
しかし、都市の発展と共に、その栄光と、挫折が、皮肉にもナル・ザル神に重なってきた。
つまり、勝者こそが全てであり、敗者はその挫折を胸に刻み込まれる。

勝敗

この一言で全てを表すことのできる都市で、一人の少女ができることはひとつしかない。
「勝者」で有り続けること。

両親の反対を振り切って、単身この「学院」に入学したのは「勝ち登るチカラ」が欲しかったからだ。
もしも、志半ばで死に逝こうとも、それは自分に「チカラ」が足りなかった。それだけだ。
エレゼンの少女、ヴァイオレット・シールは、12歳にして、その大きな門扉を叩き。

その実力を発揮した。

教室には、自分を含め12人しかいなかったが女子が半数、男子が半数。
ただ、その誰もが同い年、ないしは1年違いくらい。

入試課題で試された事を、独力とはいえ身につけた術式を編んで、構成するところを評価され、上級教室に編入を許された。
ということは。
この教室にいる全員が同じ、ないしはそれ以上ができるということになる。
「上に」
それが一番最初の動機だった彼女にしてみれば、彼ら、彼女らの実力を知ることと、その全てに自分の実力を(見栄であれ)示す必要がある。
「初めまして。ヴァイオレット・シールです。」その言葉を呪にして、初期ではあるが構成を展開して、黒板に雷光でもって名前を書き記す。
直前にその構成を見切った一人の少女が咄嗟に机の下に身を隠す。

弾ける雷光に自分の名前が記されると、ヴァイオレットは驚愕する教師を横切り「私、あの子の横の席がいいです。」一言。

それは、赤毛をくくった少女だった。席の下から立ち上がった少女は、隣の席の呆然とした男子を蹴り飛ばし「どうぞ。」と。

「ミオ、ミオ・メーアエンサよ。よろしくね。ヴァイオレット・シール。」
「こちらこそ。ミオ・メーアエンサ。」握手を。
自分よりもかなり背の低いヒューランの少女は、決して見下されることをよしとしない気迫がある。
見かけによらず握力のある握手に応えながら、油断なく周りを見る。
皆が先程の男子みたいに動けなくなっていた中で、サッサと教室の反対側扉に避難して、
あろう事か防御術式構成を今まさに編んでいるミコッテの姉妹?よく似ている・・がいた。
あの姉妹も要注意、かしら。
ヴァイオレットは、内心「さすがの上位教室ね。」
だが、逆に言えば。
自分の術式に即座に反応したこの少女、そのやり取りの直後、安全な場所に逃げ込み防御まで準備している姉妹くらいしか、この教室では警戒に値する生徒はいない。


半年の後。
奨学金制度なる、いわゆる後払い式の枠を超え、特待生として全額無償で、改めて表彰された。
実家にもその報告が届いていたらしい。同時刻に正直メンドクサイくらいにパールからの賞賛が届いていた。
「何をいまさっら。」と全てのパールに返事を返し、全てのパールを足元に落とし、叩き割った。
この半年、さんざっぱら「実家に帰っていい殿方との」「だいじょうぶ?お金、貸してあげようか?」「うちの養女になれば支援は・・」などなど。
言葉だけの自分の欲だけを満たそうという、そういう感情、いや、勘定か。ウンザリしていた。
そういうのを今、靴底で叩き割ってやって、やっと楔から解き放たれた気がする。

「じゃあ、やろうか。」ヒューランの少女は束ねた赤毛を揺らし、ソバカスの頬を笑みにする。

「もちろん。主席の座、いただくわ。」エレゼンの少女は真っ青な髪と瞳で受けて立つ。

ちょっとしたスペース、そこに少女二人。あとは、その実力見極める教師と、万が一に備えての治癒術士。

「始め!」教師の声に。
二人は直接、呪を唱えることは固く禁じられている。
あくまで、試験の一環であって、殺し合いではない。ただ、このクラスの術士になれば「吐息」ひとつで術式が発動しかねない。

課題は、術式の構成、展開、その破棄。それを模擬戦としていかに先手をとるか?だ。
有利に運ぶための戦術構成と、その回避手段、その速度が試される。

無言の戦闘がしばし繰り広げられ。
教師は息を呑む。
(この年齢でこれだけの・・)
おなじ術師でなければ、ただのにらみ合いにしか見えない、この戦闘は実戦クラスといってもいい。だが。
一瞬で構成を編み、拡散させてそれをダミーにして、裏で別の術式を構成し、裏から衝く、それすら防御されると予測して次の構成を編んでいる。
この二十三重、いや、それ以上の。
先の一手を読むのではなく、すでに相手の百、いや、それ以上の「手」を読んで、お互いの技術を披露する少女達に賞賛としか言えない教師陣。

結局、勝利を収めたのはエレゼンの少女。
「やるわね。」ミオは、汗にまみれた額を拭い。
「あなたこそ。」ヴァイオレットは倒れそうになりながら、なんとか意識を。

(これほどの術士を輩出できるとあれば、我が学院もハナが高いというもの。)同じく、幻術士を輩出している、かのグリダニアにも劣るまい。
教師が声を高らかに。
「ヴァイオレット・シールには、我が教室での主席を。ミオ・メーアエンサには、次席を名乗る事を許します。」ヒューランの老女はそれだけ言うと、ふう。
と一息。(わたしの時代はおわったのかしら?こんな彼女達をこれから先、どうすればいいのかしら?)

少し先の未来に、まさしくヴァイオレットが教員となり、悩むハメになる「主席」と「次席」が出てくるのは、
ちょっとした因果のめぐり合わせだろうか?あの自分をも上回る規格外の二人。

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