ラノシア北部から中部にかけて。
二人のミコッテの少女が駆けていた。
「おい!」
走りながら、いや、全力疾走。
普通に考えれば、この年代の少女ならちょっとばっかり体力に自信があれば、このぐらいのスピードは出ると思う。思うのは勝手だけど。
目の前を走る双子の姉、セネリオを見ながら思う。
自分は?と言えば、そのスピードについていけてるのは、ある意味当たり前だとは思う。
エリス・パンテーラは、なんというか。
自分の失態の尻拭いにこんなハメというか、姉を十分以上に怒らせている事に恐怖しながらも、背後から襲い来る魔物にも恐怖している。
元はといえば。
両親から「じゃ、頑張れ!」「大丈夫だからね。ふぁいとっ!」
なんぞと言われた時からのサバイバル(生き残り)だ。
双子の姉妹、セネリオとエリス。与えられた家名は、ティーグレと、パンテーラ。
ミコッテ、という種は、基本的に「家名」に重きを置いてないのかもしれない。幼少時、同級のヒューランの少女から「なんでちがうのー?」と聞かれたが、答えれなかった。
年齢と共に、その理由?と出自(ティーグレ>トラ)(パンテーラ>ヒョウ)という、架空の動物(クアール、という似た?元はそっちか)を知り。
その日を境に、お互いに爪を研ぎ続け。
ついにその日が来たのだ。
「あのクソオヤジ!」「あ、かーさんは基本、能天気だし・・」全速で駆けながら、軽口を
若干10歳にして、剣技を身に付け、同じく格闘技術を身につけた姉妹はとりあえず、手に負えない魔物から逃げ回る。
「えりす!」「なに!」「なんであんなの拾ってきた!」「目の前にいたから?」
いまだ14に満たない彼女たちは、息を切らせながら走り回っている。
「冒険者」なる職に飛びついたのは、この前。そう、たった3日ほど前だった。
それまでは、両親が得意だった技能を教えてもらい、私塾にも通っていたのだが、とうとうギルが尽きてしまった。なんとか二人してやりくりはしてきたのだが・・
と、いうわけで。
今回の、というか、初めてのお使いで、数百ギルの報酬と、食事付きという条件を受けたのだけれど・・。
「話がちがう!」「せねっちー!まって~」
どう考えても姉の装備の方がバカみたいに重たいのに、自分の方が遅れそうになる。
そもそも、まともな装備なんて買える財力が無い上に、子供の(と言っても数年前だが)の買ってもらった装備はいろんな意味で成長を始めた自分たちには到底ムリ。
なので、両親が使い古した装備でなんとかだが・・姉のは、鎖鎧。正直、着こなすことができるのか?というくらいに重い。しかもサイズが合ってない上に、男用だ。
自分のは、普段着より分厚い、防寒具のような厚みのある布鎧。どう考えても、こちらのほうが軽いし、実際軽い。
にも関わらず、姉の方が自分よりスタミナがあるらしい。
ぐば。
何だかイヤな音が背後から聞こえた。
「伏せろ!」姉の声。
倒れるも同然に、というか、前のめりに倒れた。
ヘッジモール、と呼ばれるちょっとしたサイズの魔物だ。とはいえ、それほど凶暴ではなく、手を出さなければ、それこそペットにできる(ワケないが)かもしれないくらい。
依頼内容は、この魔物の肉の採集。
正直、ゾッとしない(なんせ、肉なんて・・動物を捌く事もしたことがないわけじゃないが。あまりのグロさに耐え切れず、胃の中身を全部出してしまった)が・・
仕事なので仕方ない・・けど。
少し調子よく狩り(捌くのは依頼主に任せるとして)が進み、最後の一匹だったのだ・・・
がつっ
ヘンな音
盾で獣の突進をねじ伏せた姉が「エリス!タイミングを見て、後ろから殴れ!」
「はいはーいっと!」腹筋を駆使して跳ね上がる。
結局、なんとか目標数はクリア。
ずた袋に放り込んで(血抜きはした・・・見たくもなかったが)
リムサ・ロミンサの街に戻ると、すぐに依頼主に。
まだ若い、それも自分達と変わらないミコッテの少女が奥に居た。
「ごくろうだった。あ・・うわ。」ずた袋の中身を見た商人は約束の金額を払い、奥に居た少女に話しかけていた。
「まあ、下働きでも食えればいい。」姉はそういい、渡された食事の半分を妹に。
なんてことはないサンドだったが、不思議とうまかった、
それだけは覚えていた。
そして
その時見た少女が、今の彼女の雇い主である。
「エリス!現状報告しろ。」
「あい!」