「うぇ・・。」
朝、目覚めた時に少し気分がよろしくない。
屋根裏にある寝台からのそり、と起き出し、厠に向かう。
その前に、深呼吸の一つもしようか。なんて。
この深い森の中にある「家」は空気もキレイ、というか、濃い。
それは、故郷の森を思い出させるが・・
「んーー・・・・」
素肌を一糸纏わぬ姿で晒しているが、誰も見る者はいない。それに、もともと、こちらでは当然と言われるような下着を身に付ける習慣も無いわけで、
眠るときは夜着くらいは着ないでもないが、あんまり着ない。
大きく伸びをした後、用を足し、今朝の食事を何にするか考え・・
思い出すと、少し体調が悪いのだろうか？もう一度厠に行って、口元を押さえる。
「んー？昨夜の食事が悪かった？」
献立を思い出すが・・
白米に、釣った川魚を焼いたもの、近くで採れたキノコを炙り、味付けしたもの・・・
この中でヤバいのは、キノコか。
なんせ、食べれば美味しいのに、マヒ毒を含んでいるものや、下手すればそのまま永眠するものまである。
「魔女」からレクチャーは受けていたが、キノコ達もよくわからない理由で「美味しい、無毒」な格好をマネている。
一つくらいは引っ掛けられたのかもしれない。
だが、一口で「アッチ」に行ってしまうキノコもあるのだから、その点では吐き気がする程度なら、ラッキーかもしれない。
そんな時。
（姉さん？今大丈夫？）
パール（手首に紐で結んでアクセサリにしてある）から伝心。双子の妹、白雪からだ。
（なに？）
（んと・・その。赤ちゃん、できたっぽい。）
（わあ！ちょっ！、その、旦那には言った？）
（まだ・・・・その、なんていうか。どう言えば？いいのかなって）
（私に聞くか。・・・・そうね・・「子供できた。」でいいんじゃないの？）
（そっかー・・・姉さん、ミッターとはどうなの？）
（そっちも聞くか。・・付かず離れずで、付き合ってるわ。今はアイツ、仕事とかでさ。ひと月ほどグリダニアから離れてるみたい。あ！パールで毎日伝心はしてるわよ？）
（・・・・深くは突っ込まないけど、順調じゃない。）
（う・・まあ、ありがと、と言っておこう。）
（で、姉さん。そっちは子供できたりは？）
（は！？どういう？）
（いや、付き合い出して結構経ってるし、こんな相談したのも・・）
（あー・・・まあ、それなりには・・だけど。それよりも。なんで赤ちゃんできたのわかったの？）
（・・・まあ、その。月のものが来なくなって。しばらくは、おかしいのかな？って。でも、家の人に相談したら「おめでたですね！」って言われちゃって。
最初は何のことかわからなくて。彼に言おうと思ったんだけど、お仕事忙しそうだし。少し待ってからの方がいいかなって。でも姉さんには先に言いたくって。）
（そっか。ありがとね。・・・・待てよ？）
（うん？）
（今さ、少し妙なコト・・いや、妙じゃないか。月のものが来ない？って言ったよね？）
（うん。あと、何かヘンなのよね。好きだった野イチゴの香りが妙にクサくって。痛んでない？って聞いたら、今朝採りたてとか言われて。
自分の味覚の好き嫌いが変わった感じ、かな？）
（・・・・・・）覚えがある。黒雪はもしかすれば・・・？
（姉さん？どうかした？）
（ハク。その・・なんだ。）言いよどむ。一度深呼吸。森の空気を吸い込む。優しい香り、適度に湿度を含むその空気で肺が満たされると、自然と落ち着く。
それに比例して、胸の中が落ち着かないのが落ち着いてくる。
（ハク。）おそらく。おそらくだ。たぶん、いや、きっとそうなんだろう。
（どうしたの？姉さんらしくないけど？）
（ああ・・キサラギと会って以来、かもしれないよ。この驚きは・・・）
（なにもったいぶってるの？）
（いや。キサラギは元気か？）
（え？まあ。普通に過ごしてるわ。冒険者の方々とも打ち解けたみたいだし。ユウギリの方も、レブナンツトールで頑張ってるみたいだしね。）
（そうか。）
（なんなの？姉さん、ちょっとヘンよ？）
（・・・ああ。少し、食あたりをしたみたい。ポーションでも飲んで昼寝でもする。）
（まだ、朝だけど。昼寝って・・様子見にいこうか？）
（いや、大丈夫。お腹の子に障ったりすれば、顔向けできなくなる。）
ひと呼吸。
（じゃあ、体に気をつけてな。）
（姉さんも。）
伝心を切る。
「まさか、ね・・」
先ほどの話を思い返すと、もしかすれば・・・・
パールをもう一度。
黒雪は、敢えて棚に置いたリングに。
（ミッター。そのね・・・）