920セブンス。さてと・・6ッ歩(Let's make lots of money)「稼ごうじゃないか」

「なるほど。君はあの場所での開業を?」ヒゲの機工士、シド。
「まだ、詳しいことは申し上げれませんが。」黒髪のミコッテの女社長、マルス。

二人だけの対話。

場所は、キャンプ・ブラックブラッシュの近く。カッターズクライと呼ばれるダンジョンの手前。
簡易ながら、ティーセットと、小さなテーブル。そしてカーペット。

こんな物騒な地でのティーパーテイーなど、一般人ならいうはともかく、冒険者ですら遠慮するだろう。なにせ、いわくつきのダンジョンの入口なのだから。

ここに、リリラこと、ナナモ女王が付き合う、と言い出した結果、全員で反対し、わめき散らす女王を魔女と、お付の「元」近衛の爺がなんとかたしなめ・・
(実際に連れて行けば、怖がるだろうと連れて行ったはいいが、逆に好奇心で突き進もうとして、無理やり移動術式に巻き込んだのだ。)

「その件はやはり、女王陛下、かな?」シドは少し疑問符の視線。「それとも?」
「砂蠍衆、ですか?確かに発音はしにくいですね。私もリムサ出身ですし。」にこやかな社長。
「いやいや、さすが、な手腕に驚きだ。」肩をすくめる。
「お上手だこと。誠意を持って示せば、必ずや同意いただけると思っておりましたので。」
「マルス社長、いや、最高責任者である貴女の意向は十分、それ以上。理解できました。で。それとこれとは別のお話ではあります。」
「ありがたいお言葉を頂戴してしまって、なんですが。どういったお話で?」
「我々、ガーロンドアイアンワークス工房としましては、これまで以上の発展もしたい。それに、今回の大口のご依頼。誠に感謝していますよ。」
「何が言いたいのかな?シド殿?」
ヒゲの機工士は、やれやれ、お見通しか、とばかりに首を振り。
「今後の設計、それも機械だけじゃなく、部下達の人生も含めて、のね。」
ミコッテの社長は目を細め「その事、ね。」 確かに、最初は上手く行っても、この先に永続なんて考えられない。
それは施設の寿命もあれば、自分達の寿命もそうだ。
だが。
「気にするな!シド機工士!」
怪訝な顔で見つめ返すシド。
「我らは、出来ることをして、万民に喜びを、希望を与えるための施設を作るんだ。
我らが朽ち果てる、その時は、この時に希望を、喜びを得られた者が継いで、次の世代に。そうじゃないか?」
「・・・ははははっ!さすがは、その歳にして大企業のトップになっただけのことはある!いいビジネスパートナーだ!」ははっ!
「うむ。まあ、本題だが。私はコネや経営に関しては、言ってはなんだが手腕もある。貴方は知識と技術を十分以上に持ち合わせている。
どうかな?改めて手を組むということで。」
「ああ。いいよ。お前さんの気持ちは十分に汲み取れた。正式に契約と行こうか。」
「わかった、感謝する。では、ここに血判を。」羊皮紙には、マルス・ローウェルのサインの後に彼女の血判が。
「ちと待てよ・・・血判か・・ナイフが・・」その手元にペティナイフが刺さる。
「怖い怖い。脅されてるようだ。」笑いながら、プツっと、指に。
血判とサイン。
「これで、いいな。今後共、よろしくな。社長!」シドが笑う。
釣られて、マルスCEOも笑う。
「よく見たかい?書類。」
え?「ん?そういえば、織り込んであるな?」紙は上部が折りたたんであった。
「えー・・なになに・・・えっ!」
隠されていた部分に。
「マルス・ローウェルと、シド・ガーロンドの婚儀を承認する証とする。」の一文が。
「な!?」
「あはは!」ミコッテの社長が大笑い。
「ハメたな?」
「引っかかる方が悪い!」
「このやろ!」
「はいはい、冗談よ、冗談。」笑いながら、先ほどのナイフで隠されていた一文を切り取る。
「騙されすぎ。もっと気をつけてもらわないとね。」
「・・・・・・ああ。」
「じゃあ、これで契約は成立ね。いい?」
「してやられたな。まあ、逆に言えばアンタと組んでりゃ、この手の謀略は無いって話でもある。事前に蹴っ飛ばしてくれるだろうさ。だろ?」
「物分りのいい男は嫌いじゃないよ。」カップで乾杯。


グリダニアでの一コマ。

「むーん。エリスさんからいい返事来ませんね~。」
護衛サービス社長兼、隣接学校の校長、レイ・ローウェル。
CEOから、社長秘書の引き抜き、及び、その秘書が家名を取得、並びに新施設の代表取締役確定。
もしかすれば、自分よりよほどのスピード出世かもしれない、なんて。
少し対抗心も燃やしつつ、新社長として頑張らねば、な機会がどれほどの苦難を伴うか。
それは重々、承知しているので・・・「このやろ!」と「がんばれ!」が綯交ぜに・・・
いやいや。
当面は、エリス先輩の秘書に最適な人材を、という仕事を請け負って、とりあえずは冒険者上がりの年配の見識者、
ギルドで会計手伝いなどをしていた若い人材、むしろ、初心者丸出しの駆け出し冒険者(諦めた方々)なんかを、登録順に書類で送って見たのだけど。
どれにも「不可」とハンコを押されて返されては、どうにもこうにも・・・いや。
まだ一人。
これまた、あまりにも交流が無さすぎて、忘れてはいたのだけど・・。兄が居た。

思い返せば、というか。ロクな記憶ではなかったはずだ。父が、かのCEOの実弟と同レベルな感じで、「お前の妹だ。」と自分を紹介され・・母は硬直し、
向かいの女性は勝ち誇った顔で息子を。
「え?」「だれ?」
兄妹の邂逅とは、そういうものだった。

その日から私は、こんな社会構造すら変えて見せる!の一心で勉学に励んだ。
母はと言えば、その時のショックで病に臥せり、ほとんど寝室から出ることもない。
仕送りも年々減っていく中、ついに母はこの世から去ってしまった。
自分の「大企業に就職が決まった」その日に。

絶望と失意を、一身に纏い葬儀に。参列者は、自分以外にたった一人だった。
レイは、そこでかつての兄を見た。
真摯に花束を。そして、ぶたれたのであろう腫れた頬を。
(ああ。母の葬儀には出るなと言われたんだね・・お兄ちゃん・・)
「レイ・・ゴメンな。俺もよく知らなかったんだ。」
「そう・・・ありがとう。」としか言えなかった。

が、両親の生活が不安定だったのだろう、若くして独り立ちしたはいいが、兄は世間の辛さが分かっていなかったのかもしれない。
「人員募集」に飛びついて、この書類がこちらに来た、のか。

「じゃあ、そうね。エリス先輩に面倒見てもらうか!」イチオシでもう一度兄の書類を送る。
「これでよっし!」やっと。

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