903セブンス。大団円の裏に・・続き(の先に)

「ふう。」
グレイの髪を後ろで縛った、一見少女のような女性。

くいっ。
左手に持ったラム酒のボトルを口に付け、一口。
「ぷはっ。」
潮風の心地よい深夜の港街。リムサ・ロミンサ。
しょうがないわね・・

先程退席した「機工士」シド・ガーロンド。彼がややこしい事態に遭遇するかもしれない、そう読んだ彼女は、「夜風にあたってくる」と、酒場を出て。
「彼」のややこしい事態がどうにも当たっていた事に気づいた。

「・・・らしいわね。」月光に照らされ、金色に光る円筒形の金属。正確には、金ではなく、真鍮と呼ばれる「偽黄金」だ。
かつては「黄金を作り出す技術」として、錬金術が学問として飛躍したものだが、結局のところ、「卑金属」から「貴金属」を作り出すことは能わなかった。
ただ、その過程で色々な副産物を生成できることが分かり、一学問としては成功したとも言える。
その中の一つがこの「真鍮」と呼ばれる金属だ。加工が容易く、安価で熱に強い。強度も十分ある。見た目も金に似た色合いが装飾でも好まれる。が。
そんな金属故、別の視点で使われ方ができた。

「銃」そして、その武器を有効に使うための素材として。「弾丸」
魔力を有効な火力として扱うこの世界に、物理的な攻撃と破壊を求めた結果、できた兵器。
この兵器は魔力の運用を得手としないガレマール帝国で発展したという。
そして、その帝国から亡命した技師達のトップ、シド。彼の開発する技巧は誰よりも先進的で、かつ、破天荒と呼ぶにふさわしい物ばかり。
つい先程もその恩恵というか・・まあ、そういう物の体験をしたばかり。
天魔の魔女は・・「これは・・合図。よね。」転がった金色の筒を見る。その先端は・・
駆け出す。
そして、振り返ることなく声を。
「社長さん?付いて来てもロクな目に合わないわよ?」
黒髪のミコッテの女社長は「こっちのお得意さんが連れて行かれちゃった、だよね?」
「僕も居ルから大丈夫じゃないかナ?」
「フネラーレ。あんた、こんな話に噛んでも大丈夫?」
「そノために居たンだ。問題なイ。」
はぁ。「もの好きが多くって困るわね。」ラムのビンを放り投げる。
「ああ。」受け取るとミコッテの社長が口にして、さらに黒髪の女性に。
「もう一人、もの好キが来た。」ビンを受け取ると、口にして、さらにグレーの髪のミコッテに放り投げる。
「社長。勝手するにもホドっていうものがあります。私も参加させていただきます。」
「せんちゃん・・」
包帯で吊った左腕だが・・包帯を一気に引きちぎる。「この腕がどうなろうとも、社長の身は私が守ります。」ビンの中身を煽る。
「やれやれ。もの好きばっかりで。じゃあ、行くか。」魔女が髪を翻す。

「弾は・・こっちの方角・・か。やっぱりクォの屋敷じゃない・・これは・・」怪訝な魔女
「この方角は一般住宅街よ。ミスリード(誤誘導)じゃない?」社長の提言
「社長。こういう場合はその道のプロに任せるべきです。」
「僕の予想だト・・・あッタ。」弾が転がっている。「部下の家ニ連れ込んダ、ね。海賊流。」
「てことは、あの家、か。強襲ミッションなんて久しぶり。でもないか。」半日前にまさしく帝国の要塞に強襲を仕掛けておいて。
「なあ、魔女殿。こんな夜半に押しかけてまっとうな策があるのか?」社長の意見はもっともだが
「夜半だからこそ通じる策もあるって話。」ウインク一つ。
「この魔女に常識は通じなイ。」「私は盾として振舞うだけですし。」
「じゃあ、いくわよ。」

コンコン。ノック。いや。ドンドンドンドン!!!!ドアを叩く音。
「助けてっ!ねえ!お願いっ!」叫び声。
カチャリ、とドアが少し開かれ「どういたしました?こんな夜半に?」エレゼンの女性の声。
「追われているの!助けて!」グレーの髪のミコッテの女性。左腕がだらりと垂れ下がり、明らかに負傷していると思われる。薄手の服には裂け目が。
涙目の彼女は「海賊達に乱暴されそうになって!逃げてきたの!近くの民家はもう誰も起きていないみたいで!」
「そうでしたか。では、どうぞ。」中に案内するベリキート。自身も似たような経験があるため、無下にはできなかったようだ。が。
「悪いな。」ミコッテの女性は右手に剣を。
「失礼すぎますね?」腰からナックルを引き抜く。
「ごめん。あたしの奇策なんだわ。」足払いをして給仕娘をひっくり返す迷惑来訪者。
「な、ナイトノッカー!」「夜にノックする奴には気をつけることだな。」給仕娘に馬乗りになってアゴに一撃。
失神した給仕娘を紐で縛り、くいくいっと他のメンバーを呼びつける。
(えげつない手段だナ)(もう二度と敵にはしないと誓ったよ)(私がこんな・・・)


「おやおや。どうやら呼んでもいない来客があったようだ。シド殿。少しばかり商談はストップしようか。シックス!お出迎えして差し上げろ。」
「はい。かしこまりました!」シャキッ。銃を構えて廊下に出ていく。
「彼女をあんな風に教育したのもアンタかい?」シドは渋面で。
「彼女が望んだ事だよ。強制したりはしていない。自身で選んだ道だ。それを阻む方がおかしいだろう?」
「いいやっ!歪んだ道を正しく歩む事を教える事もアンタならできたはずだ。」
「人は常に何かを欲している。それが物欲、色欲、食欲、無類に存在する欲望。それを叶える事が「悪事」だと?彼女は復讐を欲していた。
その手助けをしただけだよ。」
「それ自体が狂っている!」
「彼女はそれを飲み込んで俺に仕えた。それだけだ。俺はその対価に要求したのは彼女の才能だけだよ。
寝台のお供なんてのは、彼女が寄り添う何かを求めての事だ。俺はそれに応えただけだよ。」
「貴様とは、金輪際話し合う機会はないな。」激昂する機工士
「そうか。それは残念。まあ、無事に帰れたら、ね。」ソファでくつろぎながら、お茶をすする漆黒のミコッテの青年。

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