ふう・・ふ・・白い吐息が雪原にこぼれる。
「あれがカストリウム・セントリね。」
グレイの髪の魔女は白い吐息にため息を混ぜる。
この場所を特定するのに、大した時間と手間はかからなかった。
かつて、大商人のクラック(耳役)として、諜報活動していた時のコネでもって調べ上げたので、精度は問題無い。
だが・・・
あまりの巨大さに、もう笑うしかない。
ちょっとした塔並にある城壁は、鋼鉄でできているかのように金属質な鈍い光沢を放ち。
常に閉じている門扉を開けるためには、人が数人で押して開きそうにない。
ただ、一刻くらいに一度、門が開き、哨戒だろう数人の兵士と、なにやら黒い機獣めいた物が外に出ていき、しばらくすれば帰ってくる。
「どうする?」黒髪に赤いローブのエレゼンの術士。
「アル、コレはどうにも頂けないわね。今のところ、手の出しようがない。何かいいプランを考えるためにも、ここは一時町に戻って食事でもしましょう。」
珍しく弱気なようだ。
「あの!逃げるんですか!?」ミコッテの術士が声を荒げる。
「いいかい?メートヒェン(お嬢さん)?逃げるってのは、頂けない。ココは立て直す、って言うんだ。
それに、もう半日もこんな雪の中で動かず、ってのもいざって時にどうしようもない。そこなカボチャを見てみな。」
ミコッテが振り返ると、冬の祭りに出てくるような「雪ダルマ」よろしく、丸い雪の塊の上にカボチャが乗っている。確かあの下にはララフェルの体があるはずだが・・・
目だけが爛々と輝いている雪ダルマは、ユニークを通り越してホラーとも言える。
耳を澄ませてみると・・・「・・・・・じゃよ~」と聞こえてきたが、かえって恐怖に思える。
確かに、一旦態勢を整える必要がありそうだ。自身も凍える手に息を吹きかけながらの待機だったのだから。
「じゃあ、一度さっきの町に戻ろう。」
雪の中から剣王を引っこ抜き、そのまま町に。
適当な宿に着き、まずは食堂で温まる食事を。
「ぶほっ!!」いきなりテーブルにシチューが噴出される。
「ちょっとぉっ!」魔女がその噴出先を見る。
そこには・・・カボチャの被り物をしたララフェルが。
「ぐふっ!・・ゴホゴホ!」
「そりゃ、そんな被り物をしたままシチューをかき込んだらそうなるわな・・」
おそらくは予測していたのだろう、エレゼンの術士は持てるだけの皿を両手に退避させ。
真正面に座っていたミコッテの術士は顔にかかったシチューを布で拭っていた「・・・」
そんなこんなで食事が終わり(ミコッテの術士はかぼちゃ頭をメタメタに殴っていたが残る二人は生暖かく眺めて・・)
「で、そろそろ本題だ。」アルフレートは、剣王に馬乗りになっているミコッテに切り出す。
「どうぞ。」
「これは、思うにあの要塞に侵入するには、いくつかの手段があるようだ。例えば、あの哨戒部隊。あいつらを襲って、制服を頂戴し、なりすまして入る。」
「もしくは、裏口を探すか、ね。」魔女が追加する。
「他には?」
「正面突破はまず不可能な今、何かを考えないとな。」アルフレートは思索に耽る。
「そう・・・ミンフィリアは今、どうなってると思う?」
トリコロールの質問に
「すぐには殺さないはずよ。殺すなら、砂の家で殺してる。ということは、彼女には何らかの価値があった、そういう事でしょう。」魔女の答えに、陰鬱にミコッテは
「拷問されたり、とか・・」
「ない、とは言えないわね。でもその前に尋問や、脅し、懐柔や、いろんな「質問」の仕方がある。いきなり拷問なんて野蛮な行動に出るか?と聞かれれば、
確信はないけどまずはソフトタッチに進めるでしょうね。それに、もしかすれば待っているのかもしれない。」
「何を?」
「この事件の主犯格。おそらくは将軍とか。」
「どうしてわかるの?」
「そいつがいれば、その尋問はそれこそ砂の家で終わってた。それをわざわざ連れ込んだって事は、身柄の確保が優先だったんじゃない?
そいつに引き合わせるために。」
「・・・・・。」
「だから、今はまだ危害が及んでいない可能性がある。」
「でも!」
「言いたいことはわかる。でも、無闇に突っ込んで、あたし達まで捕まったり、殺されたりしたら、それこそもう終わり。
ここは慎重に進める必要があるわ。焦るのもわかるけど、まずは英気を養いながら、「機」を待ちましょう。とりあえず休んで、明日、朝一でもう一度張り込みに行くわよ。」
「・・・・うん。」
少々ズタボロになった剣王を連れて、エレゼンの術士が部屋へと歩いていく。
「あたし達も。」「はい・・・」
部屋にて。
「あの・・・魔女・・様。」寝台に腰掛け、トリコロール。恐る恐る、と。
「なに?」こちらはレザージャケットを脱いでくつろぐように腰掛ける。
「前回の件で・・・その・・・」
「あの女はいけ好かないけど。あなたも反省はしてるようだし。まあチャラでいいわ。」
「・・・・・。」
「それだけ?」
「いえ・・その。私を殺す事もできたのに・・・」
「あたしは、その殺す、だのなんだのが一等嫌いなの。おーけい?」
「・・はい。」
「あんだけ怖い思いをしたら、殺される側の恐怖も分かったでしょ?」
「・・・はい。」
「ならよし。明日も早いわ。早く寝なさい。」
「はい。魔女様。」
戦の準備は滞りもなく進んでいく・・・・
「ワシ、何かしたのかの~?」
「わからないならそれで構いません。ただ、明日は下着一丁というなナシでお願いします。」
「コレが一張羅なんじゃがの~。」