「もう・・・」
先日。
かの、「天魔の魔女」の夫が経営している店にて。
本当なら、愛用のカウルを着て行くはずだったのだが、腹心の秘書、セネリオに。
「先方に失礼があったらどうするおつもりですか?」
と。
確かに被り物で、というのは・・・
マルス社長は、軽装の彼女を見ながらさすがの騎士ですら、最低限の装備で赴くというのだから、自分も改めなくては、なんて。
とりあえずローブに袖を。そして少し頭がスースーするなあ、なんて思ってたら。
「コレでも。」と、コイフをつけられ。
そして。
引っ剥がされて。
「アレッサンドロ殿。どうも今回は。」セネリオ。
お辞儀の角度を声ではなく、蹴りで修正されて。
耳が、特に付け根が痛すぎる。
「・・・どうも。マルス・ローウェルといいます。こちらは秘書を任せているセネリオ。家名を与えるほどによくやってくれています。(ほんとうに。)」
耳も脚も痛い。
「出来の悪い社長ですが、今後もし何かありましたら、ご用命は我社、「アリティア産業」を是非。」
「あ。あ!」照れたような大男。
「何、ニヤけてんだよ。」そこに。
回し蹴りで首がヘンな角度になって・・・・
「いや、あの?」社長があんまりな展開に・・
「・・・・・天魔の魔女殿、お久しぶりで。どうぞ、今後もお見知りおきを。」アリティア産業、筆頭秘書が頭を下げる。
「え??」社長に。
「お前も下げろ!」ゴツ。
後頭部に一撃をもらい、必然的に頭を下げる社長。それもちゃんとした角度になるようにするあたりさすがの筆頭か。
「あ、いや。あたしそこまで・・・って、社長殴っていいの?」
グレイの髪を揺らしながら。
そもそも、二人の前で夫を悶絶では済まないレベルで蹴り倒しておきながら、だが。
天魔の魔女は陽気というか、呑気というか・・
「はい。問題はありません。無礼が過ぎますゆえに躾ているところですから。」
「・・・。」
「グチらせていただきます。過去の戦役では戦場で「風呂に入りたい」などとぬかしやがって、
飛空艇をチャーターしたり、コロセウムではいきなり黒猫氏に決闘を挑んだりと。配下としては教育をすべきかと。」
「あ・・そう。その・・がんばれ。」
「はい。ありがとうございます。レティシア・ノース・ヴィルトカッツェ様。」
再びお辞儀をするセネリオ。
「もう、レティでいいってば。」
「いえ。天魔の魔女様にそのようなご無礼は。それでは。」
「ああ、気をつけてな。って、いつまで寝転んでる?このポンコツ!」
倒れている大男を蹴りつける。さらに首の角度がおかしくなっているが、見なかった事に。
カクカクとした感じで社長も動き出し、筆頭秘書セネリオは移動術式を発動させる。
「それでは、失礼いたしました。」
二人が淡い光に包まれ・・・
「ああ。元気でな。」亭主を踏みつけながら、にこやかな魔女。
「せねっちー・・あれは。」
コイフをいきなりもぎ取られたせいで、今も耳が痛い。一応、軟膏薬も塗ってはいるが・・
「ご自身で取らなかったからです。それにそのためのコイフです。」
「カウルなら、さっと下ろせたのに・・・」
「個人の趣味を否定はいたしませんが、やはりご挨拶に行くには不向きだと判断いたしました。」
「ぶー・・・耳いたーい。」
「それを糧に反省してください。」
「ぶー・・・・・・」