あいたたた・・・・
痛む頭を抱え、寝台から起き上がろうとして。
「ん?」
素っ裸で寝ている自分を見下ろす。
「え!」鈍い頭痛が襲いかかる。
なにこれ?
「目、覚めたか?ミー?」相棒の声。
「エリ?わたし?」
「夕べ飲みに行ったやろ?そんときにぶっ倒れてな。運ぶの手伝ってもろたんや。」
「で?え?なんで裸なの?」
「そら、運んでもろたんや。お楽しみもアリちゃうんか?」
「ええええええええええっ!じゃ、じゃあ!?」
「嘘や。おもろいな、ミーは。」
「ええええ?じゃあなんで?」
「寝相の悪さに加えて、酒入ったら寝ながら服を脱ぐって芸当は、男の前ではすんなや?」
「えっ!?じゃあ、その、見られた!?」
「それは大丈夫や。安心し。寝台に寝かせたらすぐに出て行ったさかい。」
「ふぅ・・・あの・・・この事、あの人には言わないでね?」
「さあて?」
「もう!エリの意地悪っ!」寝台の上で痛む頭を振って、さらに倒れそうになる。
「まあ、水持って来たるさかい、今日はもう寝とき。」
キッチンへ向かう相棒を見送り、バサリ、と寝台に倒れこむ。
なんだか泥のような睡魔と、頭痛に意識が・・・・
「ほれ。」
水差しにグラス。そして階下で買ったであろう、小さめのパン。
グラスに水を注ぎながら「飲みすぎやで、ほんま。」と。グラスを渡される。
「ありがとう。」
受け取りながら、何杯飲んだっけ?・・・・たぶん、3杯くらいじゃなかったか?
「ミー、ええか?もうラムみたいなキツイ酒は3杯までにしときや。夕べ調子こいて、6杯も飲んどったで?」
「え?そ、そんな?」記憶が途中で飛んでいる。
そのへんに散らばっている彼女の衣服を拾い集めながらエレディタが呆れ返っている。
「ミー、おもろかったのは確かや。過去の武勇伝語りだしたりな。それも子供の頃の。せめて冒険者になってからの武勇伝にせえや。」笑い出す。
「うう・・」下着を身につけながら、自分でも知らない愉快な自分を思い描き、さらに武勇伝としてリストアップされるのか・・・と。
「まあ、寝とき。うちは、夕食を下に頼んでくるわ。」
もうそんな時刻なのか・・・・
「うん、ごめん。」
「次、素っ裸になってもうちは面倒見いひんからな?」
「う。うん・・。」
服を着終え、シーツにくるまりながら(あの人、どう思ってるんだろ・・?)
潮風の爽やかな埠頭。
そろそろ、陽も落ちかけている。
これからが勝負「まずめ時」だ。
船の往来が激しいリムサ・ロミンサだが、夕暮れともなると帰還してくる船が多い。
そして、釣りの勝負時は、陽の明けか、陽の暮か。船で水面の揺れる時間帯は魚も警戒してなかなか釣れにくい。まだ船が寄港してこない、この時間がまさに勝負時。
「おお!大きめのがかかったんじゃよ~!」
隣にいるカボチャ頭(かぶりもの)のなぜかパンツ一丁のララフェルが竿をしならせている。
「ほう?」今は真紅のローブではなく、ベージュ系の普段着に着替えたミコッテの青年。
彼は片手で竿を持ちつつ、その奮闘を見ている。
「ふんぬっ!じゃよ~」一気に釣り上げる、剣王。
バシャァっ!
釣りあがったのは。
「錆びたバケツ」
「なぬ~!」「あっはははははは!」
おっと、こっちもアタリがあったな・・・・もう少し・・・うん。引っ掛ける
ぐぐっと感触。
いい引きだ。
しばらく遊ばせる。
これで体力を使わせてから、弱りだしたら釣り上げる。
「よし。」今だ。
釣り上げる。
大きな、少し赤みを帯びた、自分の髪色みたいな魚が釣り上がる。
「お!ブリーム(鯛)じゃな~!しかも大物なのじゃよ~!」
カボチャ頭の剣王は、錆びたバケツをさらに上に乗せてこっちを見てくる。
「ああ、ありがとう、おうさま。」
「よいのう~」
「まあ、せっかくの大物ですし。イキのいい今のうちにビスマルクにでも持って行って料理してしまいましょう。」ミコッテの青年の提案に。
「ワシはまだ釣果がないんじゃよ~!もう少しねばるんじゃよ~!」
「そろそろ寄港する船が。」
「まだなんじゃよ~!ワシはねばるんじゃよ~!」
「それじゃ、お先に。またお会いしましょう。」
「うむ~、また、なんじゃよ~。」
糸を垂らしながら。
さてと。懐かしのビスマルクに。過去に料理人として勤務していたので、馴染みの店。
「シェフはいる?」「ええ。」「じゃあ、これを料理に。」「え、大物じゃないですか。」「ああ、少し使わせてもらってもいいかい?」「どうぞ、リガルド先輩!」
「リングサス親父。」ルガディンの料理長に。
「おお、リガルド。久しいな。」
「実は、大物が釣れましてね。」魚を見せる。まだびちびちと活きのいい。
「ほお。それで?」
「実は、振る舞いたい相手がいましてね。キッチン、使ってもいいですか?」
「なんだ、恋人か?」
「それは・・・まだなんとも。」頭をかく。
「いいだろう。お前、そのかわりこの時間忙しいからな。手伝えよ?」
「承知しています。」
パールを手に。(エレディタさん、夕食には是非ビスマルクまで。お代は結構ですよ。もちろん、ミーランさんもご一緒に。)(ああ・・ええで。今、酒場で夕食の注文するところやったわ。)
(今日、いいものが入りましたし。)(アンタ、ほんまになにやってるん?)(ただの召喚士ですよ。)(嘘こけ!まあええわ。ミーは二日酔いで倒れてるけど、叩き起しとく。)
(それなら優しい感じの味付けがいいですね。)(任せた、っていうか、あんたが調理するん?)(ええ。是非とも。)(わかった。ミーは必ず連れて行くわ。)(ありがとうございます。)
このやり取りを中途半端に聞いていたミーランは飛び起きる。頭は痛いが。まずは風呂だ。そして、お洒落な服のチョイス。それほどないが・・・
レストラン、ビスマルクにて。
「どうぞ。」と給仕服に身を包んだミコッテの青年、リガルド。
出された皿の数々に「きゃあ!」と嬌声をあげる二人。「ごゆっくり。」綺麗な所作で去っていく。
「やばい・・」「なにが?」「・・・・・」(まあ、ホレてもしょうがないわな。コレは。)
頬が火照った相棒を見つめ、エレディタは料理の味ではなく、頬が緩むのが自分でも分かる。
(うちもそろそろ・・・)