829セブンス。騎士の覚悟とは。

「う~ん。どうしよう?」
エレゼンの女騎士、ミーラン。二つほど困った感じに。
まず第一に、この「ハウケタ御用邸」なる館の女主人をなんとかしないと。
そして、そこに至るまでには「結界」がある。
その結界を破るためのキーとなる魔物を探索しているのだが・・・
邸宅一階で、館のカギを持っていた給仕長を倒し、地下にも行ったのだが。
結局一階ではそのカギを使うこともなく、そして地下ではセラーにカギなんて使うわけでもなく。
片っ端から魔物や、魔物化した給仕娘を倒すだけ。
手詰まりな気が・・・・

「もう一回、地下いこか。さっきはあのクサさに気が滅入って、全部探してへんやろ?」
術士のユーニ。口は悪いが、頭の冴えは鋭い。
「せやな。」相棒、エレディタ。普段はナックルで戦うモンクだが、幻術も使える。
「カギ、使う部屋みたいナのあった?」葬儀屋は心底ウンザリ顔。
「お前が言い出したんやんけ!」ユーニがキレた。
「まあまあ。ちょっと落ち着こう。」ミーランも疲労があるなか、こんなケンカなんかしてる場合じゃないと。
「いい?わたし達が降りたとこ、小部屋で、そこからセラーに行ったじゃない?でも暗くって見えなかったけど、奥にも通路があって。
てことはこの一階みたいに、ぐるって回れる構造じゃないかな?そんでもって、回れるなら、真ん中に何かあったり。どう?」
「・・・・ミー。それはありえるわ。」相棒の賛同。
「ふん、ほんならもういっぺん、いくしかないやろ。」不機嫌な声。
「だネ。」素っ気ない一言。
にらみ合いを続ける二人を抑えながら、ミーランは「ちゃんとしてくれなきゃ、わたしだって倒れるかもよ?」
「ミー!」「ったく・・。」「チ。」

あらためて地下に。

「え?」
意外と。実に意外な。
「あれ?えへ?」ミーランは目の前のドアに目が釘付け。
階段を下りてすぐにそのドアはあった。
「ミー・・・・」相棒が慰めるような目で。
「わかれや。」とユーニがいらつく。
「ま、セラーって事デ、通路に行っタんだしネ。」フネラーレも呆れたまま。
「ま、まあ。とりあえずは、他の魔物をやっつけたんだし。いいじゃない?」えへ。
カギを差込みひねる。
「あ、待てや!」ユーニの叫びも届く間もなく。
ガチャリ、と開いてしまった。

「え?」


「ミー!」「本当に天然やなあ!」「仕事、増えタ・・・。」

そして。部屋の中から聞こえてきたのはどことなく、くぐもった男性の声。そして、奇声。
「いらっしゃいませ、お嬢様方。当、ダルタンクール家の別宅ハウケタ邸の執事長をしております、ガルテンと申します。以後、お見知りおきを。」男は燕尾服に身を包み、丁寧な礼を。
しかし、その服は所々にカビが生え、下げた頭を上げれば、左半分以上が腐食され、半ば白骨化していた。
濁った右の眼球がゴロリ、と動きメンバーを確認し。
「ああ、メイド共が失礼を働いたようで。ご心配なく。彼女達の失態はわたくしが責任を持って取り戻します。」右手にはナタ。

ぱたぱた・・・・・羽音。

「キキ。おいらは道化さ。愉快に笑わせるのが仕事。だから。お前達が血を撒き散らして愉快に踊る様をご主人に見せてやろう。」羽の生えた子鬼が無邪気に。

「貴方達。元に居た場所に返してあげるわ。そこでゆっくりお休みなさい!」愛剣を抜く。
「まずは子鬼からやっ!」この声で呪を放つ。子鬼の表情が文字通り凍りつく。
「うちもや!」風が子鬼の羽を切り裂く。
「・・・・。」矢が子鬼の眉間を撃ち抜き。
「これでおしまいですっ!」ジュワユースが閃き、子鬼は動かなくなった。

「おお!なんということを!お嬢様にお叱りを受けてしまうじゃないですかぁっ!!このクソどもめっ!」ナタを振り回し襲いかかってくる執事長。

「貴方が言う台詞ではありませんっ!この地下に放置され、餌食にされた娘達の無念、しっかりと受け取って、悔いてもらいます!」
ミーランは疾風の如き剣捌きで、執事長を切り刻んでいく。
「ぐ。あ・・・」

「ミー・・・。」エレディタは・・・。普段は見せない相棒の怒涛の怒りを見た・・・
「やったらできるやんけ。」とは言いながら、少し遠慮気味なユーニ。
「しみったれタ事、まだあルけド?」と冷静なフネラーレ。

そうだ。まだ館の主人が残っている。
ミーランは剣を拭き、鞘に収める。
「・・・・行こう。」切ない顔の剣聖の頭を撫でながら、相棒は。


階段の上の結界、モヤモヤしたものは無くなり、だが小物がうろついて。
「まかセろ。」と。葬儀屋が片っ端から撃ち落としていく。
「さすが・・。」としか、皆が言えなかった。
「それじゃあ、ご対面?かな?」
緊張したミーラン。
「せや。一発、ぶっ飛ばしたろう!」エレディタ。
「ユーリの分もうちがやったるわ。」ユーニ。
「僕が・・・スタッブしてやる。」フネラーレ。
「う~ん、物騒だけど。ノフィカ様の御元に送ってあげるのがいい、かな。」決意も新たに。
ミーランはドアを開ける。

そこには。
寝台があり、優雅な寝室とも言える。
「ノックも無しに主の部屋に立ち入るとは。市井の民はやはり下賤よの。しかし、その下賤の血であっても我の為に捧げるのであれば、少しはマシ、かのう?」
貴婦人は寝台に座っており、その横には動かない少女。おそらくはもう・・・・
はだけた寝着もそのままに、浮かび上がる。
「我が名を知っての狼藉かや?」
「ええ、アマンディヌ・ダルタンクール男爵夫人。貴女の行い、狼藉どころでは済まされないっ!数多の少女を・・・」
「我は、かの者達に居場所をくれてやったのだ。我の横に侍り、その身を捧げるという栄誉をな。身に余る光栄ではないか?」
「貴女は間違っていますっ!確かに先の大戦で御顔に大怪我をされ、癒すこともままならない、とお伺いしました。
しかしっ!貴女は道を間違えたのです!魔物に身をやつしてまで、人を食らう事でその美貌を取り戻して、どうするつもりなんです?もう、人としての幸せは手に入らない。
何のための美貌なのですか?自分のため?そんなの、間違ってます!心が美しければ、顔の善し悪し、傷なんて、男性は気にしません!」
「ふふ・・・貴女、生娘、ね。だからそう言える。殿方は、顔が全て。身体が全て。
生かしておいてあげるから、ここで殿方と夜を過ごさせてあげる。我は、あんな獣など見たくもないけれどね。」
「やれるものならね!」
「ほほ、イキのいい娘は好きよ。シャワーにうってつけ。」
「な!」
「遊びましょう?お嬢さん。」

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