807セブンス。幕間。「正義の在り処」続き。

「・・・・・・・・・・・」
無音。というか、無言。
ヴァイオレット・ラプターは、正直なところ舌を巻く、というか。
この報告書を見てどうしようもない、というか。
呆気にとられて。
商都ウルダハにあるアルダネス教会の運営する呪術士ギルド。
そして併設された「学院」で、二人の生徒のためだけの教室を任されることになり、5年ほどその生徒を見守り続けてきた教師。
この特別教室を提案したのは自分で、校長からもすんなりと許可をもらえた。
しかし・・・
提出された文章は・・・
首席を誇るかの魔女の血統から。
そして、次席の少女。

「はぁ?」と。
たった一枚ながら、唖然とするしかない。

卒業を目前にして、課題を出した。
一応、3つある中から選べ、とは言った。
ところが、即答で首席の少女は「これ。」と、野盗の類を制圧してこい、などという一番危険な課題を。
この街は常に危険に溢れている。
年頃の少女が夜間一人で出歩いていれば、次の日には行方不明になっていても誰も気にしない。
もちろん、大方の予想がつくので誰も出歩いたりはしないのだが。

それが・・・
この二人に限っては、一人だろうが、いや、二人だからこそだろうか・・。
チンピラの数人ぐらいは全く話にならない。
そういうわけで、本来なら自分が処理してもいいような依頼を敢えて課題にしたのだが。

残る二つの課題は、術式の論文と、街の外にいる魔物から鉱石をとってくる、というものだったのだが、
真っ先に一番危険なものを選んで、かつ最速といってもいいぐらいに解決させていて。

正直なところ、自分が黒魔道士として承認され、教師として招聘されてからは、こんなとんでもない二人は見たことがない。
「私も年かしら・・・。」エレゼンの女教師はため息を。
教鞭をとって、もう十数年。子供ができて冒険者を辞めたのだが、自分の子供にはこんな破天荒な事はできまい。

ふと目を机に。
これは帰ってきたうちの一人、魔女の娘が書いた論文。
帰ってきたその日のうちに書き上げた、と言っている。
内容は・・・・・
「13次元空間における術式の展開とその応用」だ。
本当に17歳の娘が書けるしろものではない。
が、50枚以上のその論文は、自分の理解を超えていた。
「・・もう、教える事なんて無理じゃないかな・・・私。」
「無音構成」実際に目で見るまでは、何を戯言を、と思っていたのだが。
空間に構成を展開させて呪を紡ぐ。これが普通の術式で、速度や緻密さをいかに練り込めるか?が本来の呪術式の学問だ。
が、
この娘ときたら、それを真っ向から覆すような論文と、実際にやってのけた。
自分の師である、あの黒衣ですらここまではできないのではないだろうか?
まあ、彼は反則に等しい力を持っているが・・・

「アナスタシア、か・・」正直なところ、もう卒業は確定だが・・
この娘がどこまで成長していくのか見てみたい気がする。
もう一人のウィステリアも、体術に関しては目を見張るものがある。
「さすがの破格、か。」
羊皮紙に捺印を。
卒業証書。

「私ももう少し若ければなあ・・・」あの二人と共に冒険に出かけられたのに。
いやいや、夫と子供がいる身では・・
でもまあ・・・

「退職届」にサインをし、何知らぬ顔で冒険者に戻るとしよう。
夫も息子も多分、反対はしないだろう。
「お前らしいな。」「母さん、かっこいい!」と。なんだか想像してしまう。
それに巴術も勉強したい。
理由としては、やはり学術の徒として、知りたいことは山ほどある。
「よし。」

ヴァイオレットは、二人に証書を渡すべく私室から出る。


「この度の成績を証明したことにより、二人は晴れてこの学院を卒業とする。おめでとう!」
「先生!」淡いグレイの髪の少女が
「!!!」薄いグリーンの髪の少女が
ふたり揃って抱きついてくる。
目には涙が。
「はは、まだお別れって事でもない。私もまだまだ学ぶ事がある。よければお前たちの仲間に入れてくれないか?」
「!?」「先生?」
「今日限りで私も一介の冒険者に戻るつもりだ。これからは先生じゃなくて、な。」
生徒二人は顔を見合し。
「「やったぁ!」」
「よろしく頼むよ。今度からはヴィオ、と呼んでくれ。」

3人は抱き合う・・・・・・

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