ふん。
一刀の下に相手を斬り伏せ、止めは少年に任せたものの、やはりまだまだ・・・・
至高の名刀「雨の村雲」それに、鏡心流皆伝者として少し自分が甘かったのかもしれない。
下衆の首を切り飛ばし、反省も必要だな、なんて。
なぜだろう。今日の自分は少しおかしいかも知れない。
鏡心黒雪は、どこか・・そう。どこかぼうっとして。
「白雪、今日のメシは何してるんだろうな・・。」と、ぼそっと。
双子の妹の事を想う。
彼女は姉とは違い、心優しすぎる。
こういった汚れた仕事には全く似合わない。
自分が何故こんな仕事に手を染め、続けているのか。
そして、名すら知らなかった少年を家族同然に育て、かつこんな仕事に染めてしまったのだろう。
着流しが夜風に揺れる。
よくわからない。
実はそんな事、こんな世界ではよくあるのかもしれない、かもしれないし、ないのかも。
「私もなんだかんだでヤキが回ってきたかな?」つい。
後ろから子犬のように付き従っている少年も、もはや自分の身長を追い越して立派な青年になろうとしている。
「潮時、ってやつかね。」
仕事を回してくる銀髪ね青年、キーファーとかいったヤツのセリフ、なんだったか・・・
「巻き込まれるのは仕方ない」だったか。
そう。
仕方ないのかもしれない。
夜風が冷たい。
「家」の帰り道、頬に暖かい感触。
「そうだな。」
伝う雫は夜風に任せ、歩を進める・・・
「黒・・・ねえちゃん?泣いてる?」
少年が赤黒い染みを作る袋を持って目の前に。
「違うな。風が目に滲みた。」
「姉ちゃん・・・。」
「家」に戻ると妹が心配そうに玄関で待っていて。
「姉さん・・・。」
二人を出迎える。
「ただいま。予定より遅くなったのは、このガキが仕留め損なったから。本当、仕事を増やしてくれる。」
「・・・ミッター?大丈夫?」
白髪の美女からの声に
「ああ。たぶん。」袋の重みに少し顔がこわばっている。
「白、今日の飯は?」ことさらにぶっきらぼうに。
「ええと、お魚いいのが安くで入ったから、煮付けにしたわ。それと姉さんの好きなお漬物が今日上がったわよ。」
「そりゃイイ話だ、早速飯にしよう。おい、ガキ。その首どっかわかりやすいトコにおいて水浴びでもしてこい。あのヤサ男が取りに来る。」
返り血で赤黒い少年に「ああ、ついでに服も自分で洗えよ。」
さっさと「家」に入っていく。
三人で食事も終え、一人寝室で。
剣を磨く。
「ソードマスター、ね・・。」
雨の村雲は曇りもなく・・・ただ、ランタンの灯だけで煌々と光る。
何か。
ほんのわずか。ただ単なる気の迷いだったのかもしれない。
数多ある選択肢の中の一つ。
父が没した後、妹を招き寄せ、あまつさえ仕事で殺した相手の息子を引き取り・・・
結局のところ、何をしたかったのか。
未だ答えが見いだせない。
「私は・・・。」
剣を鞘に収め、着物を脱ぐ。
こんこん。「姉さん・・・ちょっといい?」
妹の声に。
「ああ。」
「実は、その・・・・」歯切れの悪い物言いは妹のクセだ・・・・
そして・・・
「そう。いい話だ。」それしか言えなかった。