790セブンス。嵐の渦中・・・その三。

「エリ!」

遺跡の壁際で様子を伺う女騎士の声。
正直、早くせえ、ってなものだ。
呪術士であり、幻術も素養がある(構成を編むこと自体、似たようなものだからだが)、ハイランダーの少女・・いや、そろそろ女性か。女のとしての技量はさておき、ヤブ睨みながら、小顔の美人ではある。
小声で「ユーリ。そろそろや。」と。
淡い色のコートの裾と、宝玉を埋め込んだロッドを弄んでいる。
はめ込まれた宝玉は、青紫色に輝いてハイランダーながら、色白の彼女の顔を照らしている。

「うん、お姉ちゃん。」
返してくる妹は、タレ目なところがどうにも幼く見え、一つ違いの姉とは雰囲気がまるで違う。
ハイランダーらしく長身の彼女は、傭兵の父親と同じく斧を使い、あまり細かいことを考えない。
頭脳労働と肉体労働で分担できているからいい、などと言われた日には相手の半身を氷漬けにするくらいの事は普通にしている姉、ユーニだが。

「こりゃ、荒れる、な。」と。

先の二人が飛び出していく。
あっちの二人もいいコンビだとは思う。が。
やはり、姉妹の自分達とは経歴が違う。
遅れずに飛び出し、まず目の前にいた蛮族に構成を叩き込む。

緻密に練られた構成が蛮族の全身に展開し。
「凍れ!」
ガキン。
と、音を立てて氷柱ができあがる。
バキン。
と、音を立てて氷柱が砕かれる。

姉妹はお互いの顔を見ずとも。
「「お前ら!死ねや!」」

声が重なる。

「お姉ちゃん!」妹ユーリが斧を振るいながら。
「なんや?」姉ユーニは今の返事の言葉を使って術式を展開する。
「案外、楽勝ちゃうか?」ブン。
「ほな、そう思っとれ。ばかたれ。」氷柱が3本出来上がる。
「え?」ガシャン。
「こんな・・策ともおもえへんようなモンで、策やと勘違いするなら、そう思っとけ言うとんのや。」さらに氷柱が増えていく。
「えー?」ガッシャーン!斧が氷柱を砕いていく。
「当たり前やろが。呼びつけておいて、「実はボクが犯人です」だ?どんな三文芝居やねん。絶対裏があるわ。ええからお前は目の前の氷を壊せ。」
「はーい。」

(この裏、絶対なんかある・・・。あの兄ちゃんすら怪しい。なんや?一体うちらを謀ってまで、なんて・・。)

ガシャン。
当面の氷柱はこれで終わりだ。
ザナラーンの日光の下、これほどの氷と・・血だまりは、そうそう無いだろう。

そろそろ陽が中天に差し掛かろうと。

今まで影が斜めに伸びていたのが、段々と短くなり・・・
失われる。

「なんやっ!?」
周りを見る。
妹。斧を両手に掲げ不思議そうに空を見つめている。
視線を変える。
二人のコンビの女性。
騎士の方は、この場の隊長だった男に視線を向け、戸惑っているようだ。
格闘士の方は・・杖に武器を持ち替え、きずかわしげに相棒を見ている。
ヘンだ。
オカシイ。
倒された不滅隊とかいう愉快な奴らも、何故だか空を見上げるだけで・・・いや、あの囮とかいう商人すら・・・

「∵イ¶∮?フ∂ДりЖ~=外βま・・・。」
赤い長衣の商人が声を・・・

(古代語!)
記憶の底から汲み上げたそれは。
人ならざる者しか発音ができないという。
では、あの商人とやらは?
いや・・・そこではない・・・
まさか?

「fhsdzっじゅjたsかlp8う」

商人の体が溶けるように潰れていき。
影の原因たる陽の光が・・・影に塗りつぶされていく。

(触媒にされたか!くそったれ!)
「おい!ユーニ!」
「ん?お姉ちゃん?」
「お前、今の見てへんのか?」
「へ?」
「もうええわ!おい!そこのアホ!」騎士と拳士に声をかける。
「へ?」「あん?」
やはり・・・
「お前らなあ、死にたあらへんかったらうちの言うこと聞けっ!」
ち・・・間に合わへんかったら、なんともならんで!

空を仰ぎ見る。
あったはずの太陽が黒く塗りつぶされている。
「先生!」今は居ない黒衣を思い出す。

(呼んだかね?)
「先生!」
(あいにく、だけど。そちらには今は行けないんだ。でもまあ、わかるよ。ユーニ。)
「・・・先生!」
(君はよくやっているよ。この念話はあと残り3秒で終わる。他の3人にも活を入れておこう。その後はユーニ。君次第だよ。では。)

「・・・・!おい!お前ら!今の、ちゃんと聞こえたんか!」
「・・・!」「・・あれ・・・。」「お姉ちゃん・・。」
「来るで!」

商人の殻から湧き出した赫い影が、青い炎を吹き出す・・・・

こんなんで・・うちらは・・・

意識が遠のいていく・・・・・

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