782セブンス。幕間 (それぞれの日常)

グリダニア。
森、黒衣に囲まれ、和やかで、しかしその裏というか。
必ずしも「平和」ではない。
それでも、その日常を守るべく昼夜を問わず働く者達がいる。
「鬼哭隊」
槍を扱い、その術を冒険者に伝授し、数多くの英雄とも呼ばれる冒険者を輩出させてもいる。
ギルドが母体ではあるものの、基本的には対外的ではなく自警や要人警護が主な任務とされる。
そして、一度は隊員を辞めたものの、複隊し、務めるミコッテの女性。シャン。
「うーん。」やっぱりかにゃあ。
夕食の片付けを済まし、明日朝一番で帰ってくる夫の事を想うと。
「効果あったのにゃ。」と、尻尾を振りながら。
お腹をさする。

きっかけは。
もう数年も前。
親友と呼べる少女のライバル?でもあった後輩(といっても、一つ上)の少年を。
恋の鞘当て、みたいなつもりでおせっかいを焼いたつもりが。
あろうことか、自分が本気になってしまい。
他種族、さらには上司の息子と結婚する事に。

わかってはいた。自分がミコッテで、相手はヒューランだ。親友は子宝に恵まれたが、この関係では子を成す事は叶わないのだと。それでも。

惚れてしまった事に気がついてからでは遅すぎる。

でも。

魔女から。
「しょーがないな。コレ。あげる。」と一本の小瓶を。
「なんですかにゃ?」 当時の記憶が。
「魔法の小瓶よ。」
「どう・・しろですかにゃあ?」
「ネルケに飲ませて。おまじないの言葉は「ミコッテにゃあ」、ね。」
「ふぇ?」

そして。
飲ませた(食後のお茶に混ぜて)後の事は、今でも忘れられない。
「な?なに?これ?」と。
茶色の髪の中から生えた耳をピコピコさせ。
夫は自分の体の変化に戸惑う、というか。あまりの事に混乱している・・・いつものことだけど。とは内心。
さらに、短いとはいえ尻尾が見えた。
「シャン?」と、驚愕の表情を、唇で黙らせた。

一晩でその魔法は消えてしまったが、その証は胎内にある。
もう二月・・月のものが来ない。親友いわく、おめでただよ、と。すでに二人の子を産んでいる彼女が言うのだから、そうなのだろう。

「うーん。女の子だったらいいにゃあ・・あ。男の子でも・・・」ニシシ、と笑みは絶えない。
この事実を知れば、彼はなんというのだろう?楽しみだ。
二人だけの家庭に、新たに一人加わる事を想像し、ニヤけながら寝台へと。
「明日、早く来ればいいにゃん。」
ゆるやかな睡眠を我が子と共に。




「ターシャ、プレゼント。」
と。
グレイの髪を後ろにまとめた女性が、孫娘に。
「母さん・・・。何か、ロクでもないものを・・。」
「失礼ね、マユ。あたしがかつてそんな事したことある?」と、娘をにらみ。
「わあ!ばーば!ありがとー!!」と、無邪気にはしゃぐ娘を見ながら、ブルーグレイの髪の女性、マユは心底懸念を示す。

大きな箱に(子供だと、ひと抱えくらい)に、ピンクのリボン。
年の少し下の息子だと、抱えるのがやっとだろう。
娘は、その箱を手に。
少し・・・いや。たぶん。イヤな予感がしたのだろう。
「ばーば?」と。あどけない表情ながら、この血統・・・なのか。裏読みをしてくる。

先日など、緑色ながら、甘く、刺激的なスパイスのカリーを先読みでもしたのか、その日に限って夕食をタカりに来ない母と、警戒心むき出しの娘。

「とりあえず、開けちゃいな。」と、すまし顔の「人災」

ごそ。

ピンクのリボンを解き放った少女は・・硬直している。

「今の音。ねえ?母さん?」マユは母を見る。
「あら?ターシャ?」と。傍から見れば、孫娘をいたわる祖母に見えるだろう。むしろ、娘相手の母に映るか、年の離れた姉妹か。

そこに、少女の弟が父の制止を振り切って、箱の蓋に手をかけ。

開けた。


「ギギィ!」と。
丁度、姉弟は向かい合わせで。
蓋は、自分に向けて開けた幼子。
「中身」が姉の目の前に飛び出し。

「きゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」
と。
世間を揺るがす「魔女」の家系らしく、悲鳴も立派なものだと。
レティシアは、イタズラが成功した少女のように屈託なく笑い。
娘のマユは、呆然と。
その夫、ウルラは「やっぱりな・・。」と目を手で覆い。
息子はといえば、失禁寸前で顔面蒼白。

「ね?母さん?」
「なあに?」
「ナニ?コレ?」
「んー?ほら。前にペット欲しいって。ターシャが言ってて。そんでね。」
「いらん事すんな。」サクセサーは、「ペット」をがっし、と鷲掴みに。
「コレの!ドコが、愛らしいペットなの!?」と。

「ぎぃ・・。」小さい「ペット」は、おとなしく。たしかに、これだけならば可愛いのかもしれない。
見た目は、・・・別だが。

翼。パタパタ、と。今は鷲掴みされているため、飛ぶ事はできない、というか、飛べるのか。
大きな眼。つぶらな、そしてどこか怪しげな紫の瞳。
可愛いのかもしれない、大きな口。
ただ・・・。
この「3点」が全て、一つの球体に収まっていなければ。

「これ!どっからどー見てもアーリマンの幼生でしょー!」とマユが。
袖を引っ張られ。「ママ。」と娘が見返してくる。
「可哀想だから、離してあげて。」
「ん・・。」仕方なく。
小さい翼をパタパタとさせながら、アーリマンは少女に向かい、そしてぎゅっと抱きしめられ「ぎ。」と。

「もう。こういうところばっかり母さんに似ちゃうんだから。」憤懣やるかたなし。が「ちゃんと面倒見るのよ?名前もつけてあげないとね。」優しく笑う。

「うん!ありがと!ばーば!ママ!」

数年後。
「ねえ、ターシャ。あなた、マイチョコボすら持っていないの?」
相棒の少女が告げる。
アルダネス教会の魔術士養成学校の主席と次席。二つ年下の主席に。
「なーに言ってるんだか。あたしにはね。」ホイッスルを取り出し、奇怪な音を奏でる。

バサリ。

翼をはためかせ、一体の魔物が。
「え?ちょ!きゃあ?えええ?きゃあああああああああああああ!!!!!!!!」

「紹介するわ。あたしの友達。」アーリマンに優しく手を差し伸べ。
「ぎぎ。」応える魔物・・いや、友達。
「そ・・そんな魔物・・・ちょっと!ターシャ!」
「失敬ね。魔物じゃないわ。あたしの友達。名前はね・・・・」


「で、その・・その子に名前は考えた?」
母の問いに。
「うん。アーザ。」
「そう。いい名前ね。」
「でしょ?」
親子の会話を愛おしく見つめる家族達。

「アーザ。ちょっと乗るわよ!」と。スカートを翻し軽快にまたがる。
魔物?にまたがる親友に「どうしてアラミゴ語なの?」疑問を・・

「家系よ。」

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