ざざん・・・
ざぱあああ・・・。
潮騒の音は、昔から子守唄のようだった。
だが、子守唄なのに、聞こえて来る時はなぜか目が覚めた時だ。
「ふん。」
シーツを煩わしく撥ね退け、窓に目を向ける。
漆黒の髪と肌。そして、金色の瞳の青年。
寝台から、のそり、と躰を。
しなやかな体躯は、北方に住まうクアールのよう。
寝起きながら、しっかりとした眼光でドアの向こうを睨むように。
「シックス。」
と。
「はい。」ドアを遠慮がちに開け、老執事と共に。
焦げ茶色の肌、銀髪のミコッテの彼女は、同じくミコッテの青年と同じように時間など気にしないかのように。
「お前、少々おいたが過ぎたんじゃないか?」
寝起きのガウン姿の青年の眼光は鋭い。
それには、少し緊張したのか・・・「いえ!クォ!」と。少し・・うわずった声。
「俺は確かに、グリダニアでの斥候は任せると。使えるのならあのバカ、フュも使え、とは言った。ベリキートもその旨は理解していたが。」
「は、あ。その。」
「まずは、なんだ?その顔。」焦げ茶色の顔に、白い傷のマーキング。
「これは・・その。」
「おい。アドルフォ。」老執事を呼びつけ。
「はい。旦那様。」
「この女に水浴びくらいさせてやれ。その後でちゃんとした話を持ち帰ったか。聞かせてもらおう。」
「はい。」老執事は革鎧のままの彼女を連れ出していく。
「ちょ!クォ!待って!本当!」
「困った連中だ。」ナイトテーブルにあった飲みかけのワイングラスを手に、窓の外に放り投げる。
森の中の泉の上。
「ナイス。」と、数多の「冠」を持つ女性が。
絹のような黒髪をくしゃくしゃ、っと。
「ちょット!殺スよ?」と返され。
「いいじゃない!」と、自分の年齢とそれほど変わらないような、少女のような笑みを。
(く。。。)親くらいの年のくせに!
最後の一矢は、完璧だったといえる。
盗賊団の女頭領の弓使い、パワ・ムジュークの右肘に、かすめる程度のキズを。それも、細くて狙いがつけ難く、かつ「誰にも知られない」ように。
こんな技を披露できるのは、まさに彼女ならでは、だ。
たった、それだけの傷であっても、彼女は張り詰めた矢を放つ事ができず、青年の矢は見事にそのつがえた「右手」を射抜いたのだ。
それを讃えたわけなのだが・・・魔女の右手の下で、呻いている彼女は左の眼を向けている。
金色に染まる、いや。彼女の命を喰っている眼が睨む。
「デ?」
と。先ほど出てきた話を。
「シックス、ね。」
「チェック・シックス、狙撃するナら当たり前の秘訣だけド?」
「じゃあ、ちゃんと理解しとけ。シックスは「どこにでもいる。」と。」
「は?」
「クォ・・黒猫の手駒、よ。」
「それ、ほンと?」
「今・・霊災前と違って、いろんな技術が出てきてる。その中でも、ワリを食ったのが「銃」よ。」
「・・・。」
「で、アレは主人であるところのクォにご機嫌を取るために、けっこう無理もしてるみたいね。」
「さすガ・・もと黒ネコの部下。」
「違うわ。「耳」や「目」、クラックとして動いてたのは、アレの妹のため。彼女はすごく優しくていい子。」
「ショコラ・・カ。」
で、と話を戻し。
「どうにもシックスは暴走しがちね・・。今回、パワって盗賊に化けてまで貴女を襲うなんて。何か混乱を起こしたい、か・・」思案に耽る魔女。
「意味がワからなイ。」黒髪のスタッバーは怪訝な表情で。
「キーワード。「銃の売り込み」「ワリを食った結末」「混乱」とくれば。」
「ハ?」
「ワイルドカード。コレしかないわ。状況をひっくり返すカードを彼女は見つけた。でも、完全じゃない。何かが足らないから時間稼ぎしてる・・・。」
「意味わかンなイ。」
「まあ、いいわ。いろいろと報告もあるから。スゥの奢りで散財させましょ。」
「ア、さっき、連中呼んだノ・・」
ふふ。とにっこり笑うレティシア。
「で?」
綺麗な小部屋。一人で住まうには広すぎて困るくらい。
その部屋に天井から鎖2本で繋がれた全裸の女性。
「・・・・。」
「喋ることがないなら、もう寝ろ。」
部屋を後にする青年に。
「・・・シド・・・。」
と。
「あん?」
その言葉に振り返る。「もう何度目だ?その名前。」と軽蔑の眼を向ける。
「・・・・船・・・。」
「・・・。ふん。下ろしてやれ、アドルフォ。」
「は。」ガラガラと鎖が下ろされる。豪奢な部屋に似合わない女性。執事。そして主。
「シックス。次は無い。」
「・・・・・はい・・・。」部屋を出ていく主を見つめ。
彼女は・・・引き摺り下ろされ、床に落とされた拍子に転げ落ちたピアスを見る。
ダイスをかたどったそれは・・・「6」だった。
「・・・まだ・・・やれる。」
午後のウルダハ。
なんとはなしに夕食のメニューを考えながら、ブルーグレイの髪の女性は。
娘をあやしながら、珍しい一団に目が行く。
一番目を引くのは、やはり既知だからだろうか?オレンジの髪の少女。いや、もう女性?
エレゼンの彼女は、数年前とは違い立派な剣士としての風格みたいなものが。
「ミーラン。」と声をかけたものの、周りの、そして彼女の仲間の声に。届かなかったよう。
「ママ?」と少女が声をかけ。
「ううん。ターシャ。今晩は何にするかな?」なんて。
「しちゅー。」
「夕べ食べたでしょ?」
「むー。」
「仕方ないわね。」と。親友と、その夫もシチューは大好きらしい。ウルダハ風の。スパイスを利かせてて、ライスを添えた。
(マリーのとこも、三日三晩、カリーは大丈夫かしら?)なんて。足取りは軽く。
(そうだ、ミーランにも今度。)
マユとアスタリシアは商店街を歩いていく。