768プレセブンス。ヒューランの少女。

気がつけば。
なんだか、独りだった。
親は・・・。
居ない・・・。いや・・。いた。はず。でなければ自分は居ないのだから。
でも居ないのだから・・仕方がない。

物心が付いて、親の言うことが少しわかってきた。そんなある日。
いつもの親のケンカが始まる。
体格のいい父?が母?を・・・
見たくはない。そして、二人はどこかに行ってしまった。自分を残して。
どうしていいのかわからず、とりあえず。
食べるものが必要だと思った。

リムサ・ロミンサ。
海風に吹かれる町並み。高さのある建物や、港には大きな船(というらしい)があり、自分の居場所がわからない。
クセのある黒髪が潮風になぶられるが、気にならない。少女は、自分が独りになった事だけは、わかった。でも。それが、どういうことか把握できない。

一日、二日と日が経つにつれ、空腹が限界に・・
人通りが多い界隈、商店?という場所には果物や、なんだか分からないがいい匂いがしてくる。
自然、足がそちらに向き、思わず、手にとった物を口に運んだ。
「この!」と、主が怖い大声で喚き、親のケンカを思い出し、少女は果実を放り出ししゃがみこんだ。
「おい、ガキ!どこのどいつだ!?」大声の主。
「ごめんなさい・・ごめんなさい・・・。」この言葉を言えば、親はたまには許してくれた。
「あ?このガキ・・。チルドレン(浮浪児)か・・。だが、どうにも許せんなあ。」
「え・・?」
「謝ればいい、なんてクセになる。しっかりと教育してやらんとな。」と男の店主が少女の襟首を掴むと。
「おっさん?ええかげんいせえ。」と威勢のいい声。
「なんだ、てめ・・あ。」
「あ?あんだよ?おっさん。あたいのツラに文句あんのか?」
「い、いや・・。」
「ガキ捕まえてええ気になってんなや。吠えたきゃ、あたいのツラにツバくらい吐けや?ああん?」
「そ・・いや。すまん。ああ、すみません。レッジェさん・・。」
「わかりゃあ、ええねん。な?嬢ちゃんもそう思うやろ?」
体格のいい女性。
青く染めた髪に、背中の斧。年齢はよくわからないが、野性的な表情がすごく印象的な。
そして、優しい笑み。
「大丈夫や。安心しいや。嬢ちゃん。」
「・・・はい・・。」
「そっか、名前は言えるか?」
「え・・・エレ・・・」
「ごめんな、お姉ちゃん耳悪いんや。もういっかい。かまへんか?」
少女と同じ目線になって、優しい笑顔。
「エレ・・ジーナ・・。」
うつむきながら・・。(嘘を言ってしまった・・。エレディタ・・なんて。名乗れない・・)
「ほう!可愛い名前やんか。あたいはレッジェや。呼びにくかったら、好きに呼んだらええ。よろしくな、エレジーナ。」
「はい?」
「腹減ってるやろ?任せとき。ご飯食べに行こや。」
「え?」
「大丈夫や、あたいはちょっとはお金あるんやで?問題あらへん。」
かがんでいた女丈夫は立ち上がると少女の倍はあるかという背の高さ。
ブルーの髪は肩ぐらいか。乱雑な感じもするが、かえって彼女の雰囲気に沿った髪型とも言える。

次第に二人は打ち解け合い、「エリ!」「レー姉!」と呼び合う。

境遇も段々と話をするように。
「ほうか・・そら、災難ちゅーか。まあ、あたいも似たようなもんか!」と大笑い。
「もう!レー姉!こっちかて、大変やったんや!」
2年もすれば、家族同然に・・12の?年頃になった少女は、立派に口答えと、
ケンカ?みたいなじゃれあいで、ちょっとした体術みたいなものを覚えつつ(そう教育したレッジェ)素直?な娘に。

ある日。
「エリ?」
「ん?」
安宿だが、二人の居心地のいい場所。
「ちょっと、あたいさ。仕事が入ったんよ。」
「じゃあ、帰ってきたらご馳走やん!」
「ったりまえや。」胸を張る彼女。
「で、何時くらいにかえってくるん?」
「それがなあ、まだわからへん。せやさかい、この宿やと金かかるやん?」
「せやなあ。」
「知り合い、ちゅうか、前に世話したヤツがおるねん。素直なヤツやさけ、安心してエリを任せられるわ。そっちで待っといてんか。」
「はぁ?なんで?」
「ええから。名前はなグラナートちゅうねん。オレンジ色の髪のガキや。あ、エリと近い、か。」
「それて、うちもガキかい。ていうか、男!?」
「まあ、ええやん。連絡はしてあるからな。バンビーノ(子供)同士、仲ようやりや。」
「お別れみたいな言い方、やめてんか。」
「そらすまん!ちゃんと帰ってくるさかい。堪忍な。」
「もう、レー姉。冗談でもやめてんか。」
「ああ、せやな。」


「ああ。レッジェ姐さんの・・エリ、だっけ?」
「気安く呼ばんといて。エレジーナ。だ!」

少年少女達のギャング・・といえば聞こえはいいが・・。
身を寄せるには、丁度いいのかもしれない。


そして、レッジェは帰ってこなかった。
ただ、一隻の私略船が沈んだ、と。どこにでもある話は、風に消えて・・・・・


(ああ、せやな。)
最後の言葉がこれなのか・・。
港に。
「姉さん。」黒髪を潮風になびかせ・・
うち・・。本当の名前を教えてあげられへんかった・・。
「エレディタ(遺産)や。レッジェ姉さん。姉さんの優しさ、受け継いでもええやんな?」

手向けの言葉を終え、踵を返すとリーダーの少年がいた。

「・・・。」黙って少女の肩を叩く。「・・・うん。」

<<前の話 目次 次の話>>

マユリさんの元ページ