「はぁん?」
薄暗い倉庫の中。
黒髪をゆるやかな空気の流れに任せ、さらりと目の前に垂れる髪だけをすくい上げ、対面にいる人物に目を凝らす。
グレーの髪のミコッテは、気負うでもなくニヤついている。
ココはアリティア産業株式会社の第一倉庫。潮の香りもするがかすかなもの。
なにせ、扱う品の大半が金属だったりするわけで、防サビ対策として潮風が極力入らないようになんらか講じてあるみたいだ。
リムサ・ロミンサでの交易で発展した商社は多々あるが、社長一代でここまで業績を伸ばしたこの会社は筆頭といえよう。
そして、その社長のユニークさも筆頭かもしれない。
「どうした?かかってこないのか?」
肩にかついだツルハシを右手一本で支え、ゆらゆらと見せ付けるように揺らす。
左手は人を食ったように手の平を上にし、おいでおいで、と挑発をしている。
黒雪は、正直な所。
自分から戦いを申し込んでおきながら、打つ手を。第一手を決めかねている。
理由は幾つかあるが、まず一番は普段のような「刀」ではなく、「木刀」である事。
彼女の得意な技は、「抜刀術」といわれる(もしくは居合い)刃を鞘から抜き放つ「鞘走り」という技術で、ただ振るうよりも刹那の時を縮める、まさに刹那の刃。
そして、「後の先」撃たせてから、先んじて相手を撃つ。
だが、木刀では鞘も何も無く、抜刀術まがいに帯から抜いてるようでは到底迎え撃つどころではない。つまり、出しっぱなしの武器でやりあう事になる。
そして、その二番目が、相手の得物が尋常ではない。同じく木刀というなら話しも分る。
実際、真剣での立会いなど練習ではそうそうあることでもないゆえ、木刀同士の戦ならなんとでもなる。
が、ツルハシとくれば・・そもそも、殺傷能力を抑えようという事から木刀(当たり所が悪ければもちろん即死すらあるが)になったはず・・・が、
あのツルハシがクリーンヒットすれば、ドコであれ戦闘継続は不可能に思える。ついでに言えば、頭と体だと致命傷は確実にも思える。
さて・・。
どうしたものか。・・・・・・・。・・・・・・・・・・・・。思考は、繰り返しを重ねるが、思ったような剣筋が思い浮かばない。
「なあ?社長さん。わたしは確かに決闘を申し込んだんだけどさ。その得物は本当にどういうつもり?バカにしてる?」
「あら?これでも使い慣れた、って意味じゃあ一番か二番かな?ビビッたの?」
その挑発に剣呑な視線と、
「ええやんけ。もののふとは、侮辱にはそれと等価の後悔を与えるってな。それができないのは、恥というんだよっ。」
と言いながら、着物がたなびく事もなく左に動く。足音を立てることも無く、地面をこするようにサササっと回り込みにかかる。
それを視線だけで追いかける社長。
正眼(中段)の構えのまま、予備動作抜きで突き技を放つ黒雪。
それを、バックステップでかわすものの、完全には避け切れない。が、手にしたツルハシの柄の部分で巧みに軸線をずらし、有効打にさせない。
突いた木刀を引き抜くと隙ができると判断し、そのまま勢いに任せ突進して、横を通り過ぎる。そしてそのまま大上段に構え、後ろから来るツルハシの先端を弾き返す。
振り向きざまに大上段から袈裟斬りにするも、これまたツルハシの大振りで弾かれる。
「やんじゃあねえか。」ふっと笑みをこぼす黒髪の剣士に「使い慣れてるでしょ?」とはにかむ社長。
全くトンでもない奴。あんなバランスの悪い武器?を振り回してバランスを崩すどころか、
重さを利用して振ってるあたり、確かに「使い慣れてる」に嘘はないようだ。使用方法に疑問が浮かぶが。
さてと。ここらでこちらもちゃんとしないと不誠実というもの。何も抜刀術だけが自身の流派の得手ではない。
ちゃんと木刀の技もあるし、奥義すらある。今までは基本の型だけを打ち込んでいたが。括目しろ、社長サン!
「壱之太刀 燕飛」向き合った位置から、上段に構え、型ができた瞬間振り抜く。そして、そのまま刃を返すように踏み込みながら振り上げる。
目にも留まらぬ二連撃。だが、この太刀をかろうじて避け切るマルス社長。「あっぶな~」などと吹いているが、正直冷や汗ものだったろう。
黒雪は無言のまま、さらに太刀筋を決めると、打ち込んでくる。
「これは・・まいるわ!」と言いながら、後ろに退きタイミングを計りつつツルハシを上段に構え直し・・一気に振り抜く!
そして、ツルハシはその手を離れて、黒髪の剣士めがけて一直線に飛んでいく。
「なっ!」これにはさしもの剣士も驚く。
ぐわああぁぁぁぁっんっっ!!!!
黒雪の背後にあった荷物にあたり、盛大な音と、火花が散る。
「しゃ、しゃちょー!!!!私の荷がー!」「なに、社のものだ。」「管理責任者は私ですっ!」「そう言いながら、この場を提供したのはせんちゃんだったな。」
「エリスやレイの倉庫にしたって、管理代理は私なんです!それこそ勝手にどんちゃん騒ぎやらかして、今みたいな事態になれば・・・・言わなくてもわかるでしょう!?」
「ああ、エリスなら知らんふりして、請求書の山を送り付けるだろうなあ。」
「ソッチはまだなんとかします!レイなんて、三日は泣きっぱなしで、あやすのに何日かかるかわかったもんじゃ・・・」「ほう、経験したのか。」
「ええ、エリスが彼女の大事にしていたマグカップを割った時には往生しました・・。」「うっ!いや、それは私とは無関係だろ?」「そうですが・・・って。あ?」
「どうした?」「いえ、社長がいらん事してる間に彼女、黒雪嬢の姿が・・・。」「あ。居ない、な。」「何しれっとしてるんですか?」「いや、まあ。逃げたわけでは在るまい。」
「なら、何時ドコから襲われるかわからない、と訳すればいいですか?」「そうとも言う、な。」「得物、どうします?」
「取りに行けば背後から、ないしはアンブッシュを狙って物陰にいるかもな?」「そうですか?サムライといえば正々堂々が旨、と聞いた事が。」
「ああ、正々堂々だまし討ち、とかはかなり有効とは聞いたことがある。」「そんな!」「いや・・現に姿が見えない。」「社長。できるだけ頭には打撃を受けないでください。」
「確かに。致命傷になりかねんしな。心配してくれて・・・」「いえ、頭カチ割られて中身が出たらグロイからです。掃除係が泣きながら苦情訴えたり、葬儀代もバカになりません。」
「なるだけそうはならないよう善処しよう・・・。」
(何やってんだ・・・)黒髪の女性は、かの二人が漫談をしてるうちに場所を変え、できるだけ戦いやすい場所を探していた。
おそらくはあのツルハシをまたしても投げるという暴挙はしないだろう。あれは一度見せればもう終わりの「手」だ。大道芸と言ってもいい。
もし、もう一度投げれば、今度こそ打払い胴に一撃すれば終わり、だ。という事は、得物を持ち替える、か。こうなると非常にやっかいである。
なんせ「教授」とかいわれる連中はほぼ全ての技能に精通している。だが、大体の推測はできる。ぱっと見、デカイ得物は無かった。ということは、小振りの・・・ ふ。
そもそも、抜刀術とは接近戦において不利な長刀で小回りの利く武器の先をとるを極意としている。
かかってこい。くす。
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社長は大戦時にツルハシで一人刺し殺してるからなw
自己防衛だけどw
Marth Lowell (Durandal) 2013年12月02日 18:18
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>マルスCEO、そこで「ニヤリ。」が・・・ガクブル(゜д゜)
そう、専守防衛なら何してm
Mayuri Rossana (Hyperion) 2013年12月02日 20:37