薄い紫の霞のような瘴気が漂う地、モードゥナ。
その地にて、帝国との決戦をしている3国同盟軍だが。
遊撃隊が壊滅する憂き目にあい、戦局は少々同盟軍には不利になりつつある。
だが、それを最初から分かった上での特殊部隊での敵陣崩壊作戦だったのだが。
「急いでにげるにゃ!」
隊長のミコッテ、エリスは耳をピコピコと動かし、撤退の指示を。
先ほど敵陣をいくつか落としたところで空中戦艦からの艦砲射撃を受け、すんでのところで回避、
2,3人の人的被害が出て、遺品などの回収だけ済ませ、さらに来るであろう射撃を回避すべく・・・・
「右にゃあああ!!!」
走りながらの指示に一人が遅れ・・・・。
轟音とともに吹き飛んでしまった。
「にゃあ・・・。」沈痛な表情な黒髪のミコッテ。カチューシャを外して黙祷しながら、それでも逃げるのはやめない。
「隊長!このまま左翼へ?」
「そうにゃあ。わたし的には・・もうこの戦場からは逃げ出したほうがいいかもにゃ・・。」
「それはマズいんでは?」
「うえ、上。」
「は?」
「アレ、落ちるにゃ。」
「え?」上を見る。もう手が届きそうなところに赤い小月がある。
「帝国の戦略がわかったにゃ。アレが落ちるまでの時間稼ぎ。
だから塹壕もあんなに細かく一杯あるし、自陣でもお構いナシに砲撃。
制空権もあるのに狭い道の行軍にも一切手出し無し、密偵や篭絡させた裏切り、
わざわざ陸戦。こうなったらもうただの時間稼ぎとしか思えないにゃ。じゃあ、なんの?それはアレにゃ。」と上を指す。
上空には・・・
そーいえば・・・。かつて姉と・・・。
「エリス!次いく。」
ナイトの称号を得た姉、セネリオ・ティーグレはラノシア地方ワインポートまでの贈り物をするためのリーブを受けており、その相方を務めているのだが。
双子とはいえ、姉は性格がまったく違い冷静沈着そのものである。
翻って自分はといえば・・・。
姉からは「そそっかしい」と酷評されるものだ。
逆に姉に「せねっち、冷たすぎ。」
「まあ、エリスの勘には助けられる事は多々あるからな。」と、心を読まれたかのような姉からの嬉しいひと言の後。
あ。
だめ!そっち!
「だめ!にゃあ!そっちは!!!!」
魔物が不意打ちを仕掛けてきた。
なんだかよく分からないカタチ。植物をグロテスクなカリカチュアしたような。
この不意打ちに足をすくわれた姉が、次の瞬間宙に放り出されるか、それとも食虫植物のように捕食されてしまうか。
チェインメイルの姉と違い、厚手の布のチュニックの自分なら素早く姉を解放できるだろう。触手?のようなつるに囚われ、今にもやばい、そんな時に。
「なにこれ。」
と剣を一閃、さらに。
襲い来る触手?つる?を次々と薙ぎ払い。
襲うだけのつるを文字通り切らせてしまった魔物は呆然(植物にもそういう感情があるなら。)として、真っ二つに断ち割れてしまった。
まさしく呆然となってしまった。
「行くぞ?エリス。」
ヒーターシールド(洗濯した衣服を伸ばすためのヒーターアイロンに似たカタチゆえ)
その五角形の盾を背中にしまいこむと、さっさと何事も無かったかのように歩き出す姉の背を追いかける。
自分の名はエリス・パンテーラ。ううむ。やはり名前の付け方が親としては絶妙としか言いようが無い。双子ゆえ、容姿に違いはそれほどないが・・。
姉は虎。孤高で最強の狩人。
自分は豹。じっと構え、狙いすます。
家名を持たないのはミコッテの習慣とはいえ。それでも家名を持つ場合がある。
例えば「ファルベ家」
かの家は豪商として名を成し、個人名には慣習どおり「ファルベ」とは言わないが、当主になればその家名を相続する事となる。
自分チには果たしてそんな日が来るのだろうか?父はミコッテとしては普通に誰だかわからない。
タダでさえマイノリティ(少数)なのだ。アチコチに姉妹がいてもおかしくない。それくらい。
「おい!」
姉からの叱責。
しまった、少し考え事が・・・。
もう一匹の魔物を屠りながら叱りつけて来る。それも敵を見もせずに切り伏せ、こちらを睨んでいる。
さらに飛び込んできた昆虫みたいな魔物を振り向きもせずに盾で薙ぎ払い、剣で。
「邪魔だ。」
串刺しにしながら。「エリス?」
「え?な、なにかにゃあ?」
「この仕事が不服か?」
「はえ?そ、そんなことないにゃあ。」
「なぜ訛っている?」
「え?」
あ。
「せ、せねっちが・・剣術スゴイから・・圧倒されたにゃ。」
「ふん、そういう事にしといてやろう。」
剣を振り払い、虫を落とす。汚らわしいモノを斬った、というのか神経質に剣を布でぬぐい、布を放り捨てる。
ワインポートまでの道のりは半日で行ける距離ではなく。
野宿をし。
「ねえ、せねっちー。アレって何かなあ?」と赤い点を夜空に見つけ。
「なに、お前知らないのか?」
「知ッテタラキカナイ。」少しふてくされ。
「たしか・・・アラダブだったかガラダブだったか。なんだかそういうもの、だ。」
「ねえ、アレが落っこちてきたらどうなるのかな?」
落っこちる?ないだろうとは自分でも分かっている。
「さあな。霊災、というものがあるという。もしかすればそういう事になるのかもしれんな。」
「ふうん。じゃあ、おやすみ。」「ああ。おやすみ。」
翌日、ワインポートに贈り物を届け、一人のミコッテの女性と知り合った。
「マルス・ローウェル、という。実は鉱物などを取り扱う会社を立ち上げようと思っている。よければ一緒にどうかな?」
姉は。
「妹と一緒でよろしいでしょうか?」
「いいんじゃない?」
アリティア産業社の開始ではあるが。
懐かしい日々を思い出しながら、ひたすらに走って逃げる。
あの時に話したように、あんなものが落ちてきたら此処では絶対助からない。
今にも落ちそうな天体を振り向きもせず、本能の思うがままに、勘にしたがい敵を極力回避しつつ。
でも解っていた。
あの大きさ。
今更逃げたところで到底間に合わない事くらい。
でも。
生きたい。
その本能が勝った。
エリス・パンテーラは後に述懐する。「死んだかと思ったにゃあ。」
そりゃ、誰でもそう思う。
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相変わらず仕事が(以下略)
ムーン姉妹のお話キター
エリス嬢、ものすごい訛ってますw
Marth Lowell (Durandal) 2013年04月17日 07:10
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>マルスCEO、訛ってますw当社比3割増しw
3割、かしら?wセネリオ嬢に毒が無いのはやはり姉妹だからw
厳しいだけw
というわけで、家名を持つというのはミコッテにとっては名誉、と考えています。「ローウェル家」という家名を拝領したのはとても名誉と言えるでしょう。
今後もにゃあにゃあとエリス嬢には活躍をw
Mayuri Rossana (Hyperion) 2013年04月17日 10:03
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家名とか細かい設定まであるのねぇ。。。w
Fizz Delight (Hyperion) 2013年04月17日 10:49
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>フィズさん、そーなんですw
ショコラとクォ様の家名「ファルベ(色)家」なので、グリューン(緑)とシュバルツ(黒)になっておりますw
Mayuri Rossana (Hyperion) 2013年04月17日 14:14
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>マユリさん
過去に社長の家名を名乗れるのは名誉なことだと書いてありましたねw
Marth Lowell (Durandal) 2013年04月17日 14:50
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>マルスCEO、ですですw
ちゃんと設定はしてあるのですよw
Mayuri Rossana (Hyperion) 2013年04月17日 15:27
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どうしてもパンテーラがパンチーラにみえるな・・・
Bob Dalus (Hyperion) 2013年04月18日 01:13
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パンテノー平原での帝国の戦略は、まさに時間稼ぎだったろうと思います。
帝国の司令官が安全な飛空艇にいたことから
帝国兵は、戦略上捨て駒にされたのだろうと想像しています。
リアル中世の頃、戦の捕虜を奴隷兵にして最前線に配置した例もあるように
あの時、パンテノー平原にいた帝国兵達は、帝国に侵略された他国の奴隷兵なのかも知れません。
3国同盟は、ルイゾワ翁の活躍で難を逃れたけれど
彼らはきっと、、、
戦争のためとは言え、酷い事をするもんですよねσ(^_^;)
Yupa Boleaz (Ragnarok) 2013年04月18日 04:49
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>ぼびー、視力矯正してこいw
なんだっけ、レーザーメスで眼切るやつ。
アレしてこいw
Mayuri Rossana (Hyperion) 2013年04月18日 06:02
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>ユパ様。恐らく、ですが。
中世の奴隷兵の一番の使い道は、使い捨て。
そして2番目に「同情」でしょう。相手に「同情」させることで、その矛先がにぶる。
恐らく督戦隊がいて、逃げたら殺す。みたいな。そしてその尖兵はアラミゴ兵。しかも使い捨て。
エグイ話ですね・・。あの甲冑だと容姿がわかりませんからね。顔つきでわかりそうなのを、あの甲冑で隠してるフシが。
ルイゾワ師の恩恵にあやかれなかった彼らは・・・。
Mayuri Rossana (Hyperion) 2013年04月18日 06:10