なんとも苦い。
自分のツバがこれだけ苦かったのか。
もしくは言われた事が苦かったのか。
新参のマリーにとっても、彼女の親友たる少女にとっても。
苦い味が口に残る。
リンクシェル風見鶏のリーダー、シュナーベルは頭をかきながら。
今、まさにちょっとした祝勝会みたいにパーティーをしているだろう。
自分で提案しておきながら遅刻して。
さらに、あんまり嬉しくない話しか土産が無いとは。
「まいったね・・。」
頭をかく。
もうすぐカーライン・カフェだ。
そして、カフェが見えるとさらに口の中の苦味が増す。
とうとう着いてしまったか・・・。
覚悟を決め、ドアを開けてメンバーを探し。
「いらっしゃいませー!」とミコッテの馴染みの少女から案内される。
正直、この明るい声は嫌いではないが、今の自分からすれば明る過ぎる。
「あ、ベルが来たにゃ!」銀髪のミコッテの少女が明るく。
同じく、この明るすぎる声も今は痛い。
このミコッテの少女が自分に恋心みたいな事を言ってくるが、今はそれが痛い。
こげ茶色の髪の青年ファーネは、なんとなく事情を察したのだろう。
「どうかしたのか?」と。彼はやはり勘がいい。
それに応じ、「ああ、いい話と悪い話がある。」
自分の声がこんなに重いとは知らなかった。
内容を伝え・・・。
他言無用、と言われたことも親族ゆえ、それもたった一人の。
伝えた時の金髪の少女の表情は忘れられない、と思った。
空虚、という言葉は今まさに存在するんだな、と。
彼女はパールを着け、兄に伝心して・・・・・・・
愕然とした表情に。
そして。
彼女は先ほどの元気な表情から一転、シュナーベルよりも沈痛な表情で。
「ベル。ごめんなさい。わたし、参戦できなくなっちゃった・・・。」とだけ。
ああ、それがいい。まさにそのために伝えたのだから。
「そうか。気にするなよ。もともと俺だけが参戦するはずだったんだ。」
苦い味は・・・・・
やはり苦いが、この少女だけは・・・。
そこで銀髪の少女が。
「じゃあ、私は参戦するにゃ。ベルの横に居たいのにゃ。」
これも・・。
苦味が増す。
だが、彼女の生い立ちなど知ってしまっては、ここで無下にはできないかもしれない。
なにより、自分を慕ってくれている。それは分かる。
分かるのだが、どう応えていいのかがまったくわからない。
相棒のグリュックは・・・・まあ、そうだろう、とはおもっていた。
コイツとは腐れ縁だ。風見鶏の立役者でもある。
しかし。
ルーまで巻き込んでも・・・。いや、彼女も風見鶏の一員として覚悟を決めたのだろう。それを否定する権利は自分にはない。
「そうか。ありがとうルー。」かろうじてそれだけが言えた。
そして、ファーネは辞退を申し出た。
これもありがたい。一人悲痛な少女を残すのも心が痛む。
「よろしく頼む。」
金髪の少女に顔を向ける。
もともと二人だけだろう、と。後の3人は残って戦乱なんかに行って欲しくはなかったのだが。
時間をかけて考えてくれ。そう言ったのに皆が即答してしまって。
俺は仲間に恵まれているな・・・・。
「それでは、今日をもってリンクシェル・ウェッターハーンはしばらく休業する!」
また逢おう!
「再会の時まで各自、自分を磨いておいてくれ。」
なんとか言えた。
こうなると、再会するのは当然の約束だ。奮戦するしかない。
やってやるか!悪ガキ根性が出てくる。おそらくグリュックもそうだろう。
「じゃあ今日はこれにて解散、だな。」
全員で拳を合わせ合う。
「風見鶏、再会を!」
「おう。」「にゃ!」「ああ!」「はい・・。」