419書き物。悪運 6

はぐはぐ、もぐもぐ。

「なア、ショコラ。ごくん。」
「ごく。なあんですかあ?」
二人は屋台の名物の丸い玉を食べ終えたところで。

「さっきの質問だけドさァ。アイツ、何もんダ?」
「ベッキィねー。ええと、いまから5年ほど前に屋敷に雇われた、というか、拾われたというかあ・・。」
「それデ、あの戦闘を買われタのか?」
「いいえー、その、兄様が連れて来られて。」
「なニ!お前、兄妹いたのカ?」
「ええ・・。まあ。」

驚愕の事実、とばかりに、黒髪の少女フネラーレは硬直している。
「なんでも、いざこざがあって、行き場を無くしたようなので、ウチで預かってやろうと思うんだ。幸い、妹の世話役が欲しかったからな。」
「とか言われちゃいまして。」
「ほうほウ。」
「わっちより、確か5、6、は年上だとは思うんですけどね。」
「ふん。」
「正直大丈夫かなー、なんて。」
「そりゃ、そうダ。本人いわく、ドジばっかりだったそうじゃないカ。」くくく。
「でも、指示とかはすごい的確だったんですよー。なので婦長にまで。ただ・・。個人的な技量が追いつかず・・。残念な人に・・。」
「その割には、えらく頑丈そうに出来てるネ。」
「ああ、それは・・。本人から・・。」


しばらくして。いきなり乱闘から一方的な殲滅へ。


自分の身長よりも高い青年を肩に担ぎ上げて戻ってきたベッキィ。
「お嬢様。お連れいたしました。」と、ごろんと転がす。
「うううううううううううう・・・・。」と銀髪の青年は「ひどいよお・・・。」
とボコボコにされ、あちこちアザだらけ、腫れ上がりまくりの顔で抗議する。

うわあ。キーさんがとんでもないことになってる・・・・。

「ヲイ、キーファー。なに遊んでるんダ?ショコラは見つけタぜ?」
「治癒術式(ケアル)、ください・・・。」

「僕は魔法術式なンて使えないの知ってるダろ?」
「わっちも、荒事はさっぱりですしー。」
「ワタクシめも、残念ながら。」
「うう・・・・ひどいよ・・痛いよ・・・。」さめざめ・・・。
「まあ、いいカ。キーファーだシ。」「そうですよねー。」「はいお嬢様。」

んじゃ。

「何かお土産というか、部屋で食べれるようなもの、適当に買って帰ろうか。」
「オマエの部屋でか?」
「お嬢様に対して、オマエなどとは・・。」「はいはい、ベッキィ。この人ヘンだけど、命の恩人でもあるからね。静かにねー。」「はい。お嬢様。」
「ヘンかヨ。」
「・・・いたひ・・・。」
「いいサ。僕の家で食べよう。どうせ皆知ってルんだ。このボンクラしか来れないハズなんだけどネ。」と笑う。
「えー、いいんですかー?わっち、後からキーさんに何かされませんかねー?」
「お嬢様。ご安心を。万全の警護に当たらせていただきます。」
「・・・・・。しませ・・ん・・。」


家に着き、狭いながらもテーブルのあるリビングで3人。一人は顔に濡らしたタオルをかけて、寝転がせてある。
もちろん床に。このままタオルで窒息すればいいのに、とはそのときの3人の軽いジョークだ。

屋台で買った、先ほどの玉や、魚の串焼き、パンの生地の中に野菜を練りこみ、
その場で焼き上げる平たいパン、はては、果物をアメでくるんだものまで。

あれよこれよと平らげながら。

「で、ヨ。ベリキート。」
「はい。」
「なんで、こんな娘の世話役なんカ、やってンだ?」
「フュ・グリューンお嬢様のお兄様にお助けいただきまして。その際に、妹君であるお嬢様のお世話を申し付かりました。」

「その話、詳しくきいても?」
「はい。お嬢様のおっしゃるままに。」
「実は、ワタクシ、リムサ・ロミンサのスラム街の出自です。そして両親も知らずに育ち、
いつのまにか、そこらの子供たちのリーダーになるくらいには、腕を上げていました。」
「なるほどナ・・。」
「調子に乗って、いろいろやっているうちに、下の子達が海賊達に目を付けられてしまい。」
「ふーむー。」
「ある日、待ち伏せされ、その子を助けるために身を出しました。それが罠だとも気がつかずに。
囲まれ、そこに倒れているボンクラさん以上にひどい目に合わされ、後は売り物にされるか、殺されるか、という時にです。」
「おお!もりあがってきたナ。」「ちゃかさないでくださいよー。」
「お嬢様のお兄様がたまたま、通りがかられて。後から聞いた話では、海賊が私刑をやろうとしているの聞きつけたそうですが。」
「おう、カッコイイな、ショコラ、オマエの兄ちゃん。」
「てへ。」
「剣術では、かなりの腕を誇るお兄様が、海賊を追い散らし、ワタクシを助けてくださったのです。しかし、アジトにしていた場所にはもう誰もいなくて・・。
負けたヤツは頭にはなれない。これがスラムのルールです。行き場の無いワタクシに、妹の世話をして欲しいと。これで全部です。」

「なるほどナー。けっこうシビアな人生だネ。」
「あなたにわかるのですか?」
「僕は。」
左眼を見せる。
「家族の仇を取るために、自分でこの眼をえぐり、復讐の証としタ。
でも、勝手にこの呪われた眼を埋め込まれ、その後も船長と矢一本で決闘までしてのけたサ。負けたけドね。」
「それは・・。お気の毒に。」
「哀れんで欲しくはないネ。」
「フネラーレ(葬儀屋)の名前はその時からなのっているよー。」
「イランこというナ、ショコラっ!」
「だってー。」
「そういう事ダ。ちなみに僕の最初の仕事は、そこに転がってル、ボンクラの嫁の始末だったヨ。
泣きながら依頼してきタのを覚えてル。皆、心に闇を持っているのガ、この家に入れる資格があるンだ。」
「わかりました。フネラーレ。よろしくお願いします。」
「よろしくねー。」 オマエはここには入れネーだロ。

「あア、よろしくナ。ベッキィ。」
「ええ。どうぞよろしく。」

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