309書き物。幻術師の・・。気まぐれ。

(くらーーーーい。)

銀色の髪。
そして、同じく銀色の髪に彩られた耳。

ミコッテの少女。

瞑想窟なる幻術士のギルドの総本山である。

そして。

(暗すぎ。)
活発な少女としては、正直勘弁して欲しいところである。
姉のローブを借り、フードにかこつけて寝ていても、しっかり注意が来る。

あいつら、わたしの事、監視しすぎ。気持ち悪いっての。

「お姉ちゃん、早く戻ってこないかなあ・・。」


姉である、シ・ヴェテックトは、このギルドの構成員であり、修行中でもある。
歳も少し離れているせいか、どうしても自分の面倒をみてくれる。
とはいえ、その姉もまだ恋人の一人や二人くらい居てもおかしくない年頃なのだが。

「お姉ちゃんだと・・カレシはできそうにないなあ・・。」と、先日言ったら殴られた。

自分だと・・・。さて?
とりとめもないコトを考えていたら、また師に叱られた。

「なんでわかるのー?」
口を尖らせ、師に食って掛かる。

「ヴィント。お前が何を考えていたか、までは分からない。」
「だったら、なんで叱るの?」
「少なくとも、此処での考えではあるまい?」
「そうだけどさー。」
「まあ、種明かしをしようか。」
「うんうん!」耳が跳ね上がる。
「まずは、お前は基本的に此処での修練をおろそかにすることに悪意がない。」
「そんなこと、ないよ。」尻尾がペタン、と動かなくなる。
「それにだ。」
「うん?」
「サ・ヴィント。お前、自分の耳や尻尾がどう動いてるか、ちゃんと分かって言っているんだろうな?」師は、もはや呆れ顔。

師はヒューランの男性。もちろん耳は動かないし、尻尾すらない。

「あ!え?そうでしたか?」耳はピンと上向きのまま。尻尾は所在なさげに、
先端だけがそわそわと動いている。座っているだけに特に動きが目立つ。
(叱られている時の、言い訳モードだな。)師はため息。

「あの、ザフィーア師。その、女の子のそういうところ、こまめに見てるんですか?」
「・・・。」顔には苛立ちがうかがえる。
(ふむ。なるほど。こういう表情をわたしは尻尾であらわしているんだ。)
「あの?」
「とっとと帰れっ!」
「はぃいいい!」


姉に連れられ、はや数ヶ月。
精霊との対話のチカラを認められ、幻術士としてもそれなりになってきた。
それでも。

「つまんない・・。」と、家に帰ればこぼす日々。

とりあえず、言葉使いだけはマシになったとは、姉の弁。

さて・・。
昼過ぎ。昼食は食べたし(姉のお弁当。自分では作れない)、お小遣いも心もとない。
小さな泉のある公園で、子供達が遊んでるのを横目に見ながら、ぼーっとする。
あの子達は、自分みたいに精霊の声が聴けたり、見えたりするのだろうか?
そして、それはいいことなのだろうか?


「なーにしてるの?」
不意に声がかかる。

「あ、ミューヌ。今から?」
「うん。」

褐色のエレゼンの少女。近頃カフェで働き出した幼馴染。
まだまだ背も低く、妹分だと思っている。年の頃も姉と同じくらい離れているみたいだし・・。
そういう意味で、妹ができた気がして嬉しくて、ついつい。

「がんばるんだぜー?」
「もちろん。ヴィントおねえちゃんは、なにしてるの?」
「んー。わたしは。いろいろと難しいコトをしているのさ。」
「そうなんだ?あ。そうだ。いまから一緒に行って、なにかつくってもらったら?」
「へ?」
「わたしがいえば、おねえちゃんにも一杯くらい、ごちそうできるよ。」
「よく言った、わが妹よっ!」抱きしめる。

「ちょっとー!」



カーラインカフェ。
昼下がりの静かな時間帯。
一杯の香茶を、じっくり時間をかけて飲み干した少女は尻尾をぶらぶらさせながら。
「ふう。」
銀髪の耳も、ぺたんとなったまま。
気だるい午後を満喫している。

ゴツ。

「何をしている。」
後ろからのいきなりの拳。

振り返ると、姉がいた。

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