308書き物。幻術師の・・。

緑が映える、おだやかな都市。

グリダニアの朝は、ゆるやかに始まる。

「ちょっ!お姉ちゃん!」ミコッテの少女の絶叫。

一部をのぞいて。


朝食の支度はすでにできており、二人分の食器も用意されている。
ただし、一方は使い終わり、朝食の方も半分片付いている。

「なに?」
ローブを纏った銀髪の少女。
長い尻尾はふさふさとして。
銀髪の中から出ている耳はピンと跳ねている。

ドアをはね開けた少女は、同じく銀髪だが髪と同様、耳はへなっと倒れている。
もちろん表情もだ。
身づくろいも、昨日着ていたチュニックのままだ。

「せめて、顔ぐらい洗って来い。」姉は静かに。
だが、確かにそこには苛立ちが感じられる。

「は、はい!」
尻尾をピンと垂直に伸ばし、敬礼。
そしてドタバタと音が聞こえる。

「まったく・・。」
姉のシ・ヴェテックトは、こめかみを押さえつつ、本当にこの妹を幻術士として紹介していいものか?と考える。

親は・・・。
自分達を残して、どこかに「冒険」に行ってしまった。
そのことを恨んではいない。
もともと、そういう性なのだ。ミコッテというのは。

そういう意味では、自分はある意味特別なのかもしれない。
妹を、誰かを、見守ることに喜びすら感じる。

「おねえちゃーん!」
服を着替え・・というか。
「ヴィント。家の中だが、服くらい着ろ。」
「いいじゃなーい。誰も見てないって。」
「私が見ている。」
「えー。」

どたばた。

「誰に似たんだろうな・・。」
少しだけ親に腹が立つ。

冷めた朝食を見ながら。(これでも「おいしい!さすがお姉ちゃん!」とか言うんだろうな。)

「まったく・・。」(今日何度目か?)



美味しい朝食を頂いたヴィントは、姉に連れ添って大きい樹の下まで行く。
「お姉ちゃん?」
「どうした?」
「コレって、樹だよね?」
「そうだな。」
「なんで、デカイ石が埋まってるの?」
「それは、私の答えだけでは納得できまい。導師の話に耳を傾け、真実にたどり着け。」
「無理。」
即答。

すぱこーん。

派手な音。そして、ソレっぽい(姉の)外套を着ていた少女は、そのフードが外れる勢いの平手打ちを側頭部に頂戴していた。



「な、何するにゃ?」
ミコッテ特有の訛り。

「もう一度、ハタこうか?」姉の視線はとても冷たい。
「いやいやいやいや、むりむりむりむり。」

「黙ってついて来い。」銀髪のミコッテ、シ・ヴェテックトは少し諦めがちだが。



「あ、あど。よろすくお願いします。」
(やっちまった・・・・。)
「妹のサ・ヴィント、です。少し至らない所はありますが、精霊との対話には長けています。
見所があるとは思いますので、是非ともご指導の程、よろしくお願いします。導師。」

頭を下げる姉に習い、自分も頭を下げる。

「いいでしょう。頭を上げてください。ヴェテックト。」
「はい。師。」

ヒューランの男性の幻術士は、奥へと案内する。


(しっかし、暗いなー、ココ。いいもん食ってるのかなあ?)

「ヴィント!」姉の一声。

「あ、はい・・・。」注意が戻る。

広いとはいえないかもしれないが、狭くもなく。
丸いホール状の場所。
あの樹の中心だろうか?

「今日からここで、毎日。精霊と語る練習をしなさい。」

「え。ええええ?」

「いいからしなさい。」
姉の声には容赦が無い。

「はい・・。」

しょんぼりと、耳もうなだれてしまっている少女は、反論すら思いつかない。

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