緑が映える、おだやかな都市。
グリダニアの朝は、ゆるやかに始まる。
「ちょっ!お姉ちゃん!」ミコッテの少女の絶叫。
一部をのぞいて。
朝食の支度はすでにできており、二人分の食器も用意されている。
ただし、一方は使い終わり、朝食の方も半分片付いている。
「なに?」
ローブを纏った銀髪の少女。
長い尻尾はふさふさとして。
銀髪の中から出ている耳はピンと跳ねている。
ドアをはね開けた少女は、同じく銀髪だが髪と同様、耳はへなっと倒れている。
もちろん表情もだ。
身づくろいも、昨日着ていたチュニックのままだ。
「せめて、顔ぐらい洗って来い。」姉は静かに。
だが、確かにそこには苛立ちが感じられる。
「は、はい!」
尻尾をピンと垂直に伸ばし、敬礼。
そしてドタバタと音が聞こえる。
「まったく・・。」
姉のシ・ヴェテックトは、こめかみを押さえつつ、本当にこの妹を幻術士として紹介していいものか?と考える。
親は・・・。
自分達を残して、どこかに「冒険」に行ってしまった。
そのことを恨んではいない。
もともと、そういう性なのだ。ミコッテというのは。
そういう意味では、自分はある意味特別なのかもしれない。
妹を、誰かを、見守ることに喜びすら感じる。
「おねえちゃーん!」
服を着替え・・というか。
「ヴィント。家の中だが、服くらい着ろ。」
「いいじゃなーい。誰も見てないって。」
「私が見ている。」
「えー。」
どたばた。
「誰に似たんだろうな・・。」
少しだけ親に腹が立つ。
冷めた朝食を見ながら。(これでも「おいしい!さすがお姉ちゃん!」とか言うんだろうな。)
「まったく・・。」(今日何度目か?)
美味しい朝食を頂いたヴィントは、姉に連れ添って大きい樹の下まで行く。
「お姉ちゃん?」
「どうした?」
「コレって、樹だよね?」
「そうだな。」
「なんで、デカイ石が埋まってるの?」
「それは、私の答えだけでは納得できまい。導師の話に耳を傾け、真実にたどり着け。」
「無理。」
即答。
すぱこーん。
派手な音。そして、ソレっぽい(姉の)外套を着ていた少女は、そのフードが外れる勢いの平手打ちを側頭部に頂戴していた。
「な、何するにゃ?」
ミコッテ特有の訛り。
「もう一度、ハタこうか?」姉の視線はとても冷たい。
「いやいやいやいや、むりむりむりむり。」
「黙ってついて来い。」銀髪のミコッテ、シ・ヴェテックトは少し諦めがちだが。
「あ、あど。よろすくお願いします。」
(やっちまった・・・・。)
「妹のサ・ヴィント、です。少し至らない所はありますが、精霊との対話には長けています。
見所があるとは思いますので、是非ともご指導の程、よろしくお願いします。導師。」
頭を下げる姉に習い、自分も頭を下げる。
「いいでしょう。頭を上げてください。ヴェテックト。」
「はい。師。」
ヒューランの男性の幻術士は、奥へと案内する。
(しっかし、暗いなー、ココ。いいもん食ってるのかなあ?)
「ヴィント!」姉の一声。
「あ、はい・・・。」注意が戻る。
広いとはいえないかもしれないが、狭くもなく。
丸いホール状の場所。
あの樹の中心だろうか?
「今日からここで、毎日。精霊と語る練習をしなさい。」
「え。ええええ?」
「いいからしなさい。」
姉の声には容赦が無い。
「はい・・。」
しょんぼりと、耳もうなだれてしまっている少女は、反論すら思いつかない。