276書き物。黒髪の少女。ディエーチ(10)

「んー。コレにしよっかなあ。」
繁華街にて。
黒髪の少女は、その髪と同じく黒いドレスを手に取る。

リムサ・ロミンサの市場は盛況だ。が。
「お嬢さん、こっちの色がいいんじゃないですかい?」
リテイナーの男が声をかける。
「うーん。」
赤はともかく、どピンクなのはいかなものか?
ピンク海賊。眼帯以上に笑われる事は確実だよ・・・。
軽く首を振りながら、他の店に行く。

「こっちにしとこ・・・。」
白い、だけど襟元が黒。シックな感じだ。
ついでに着替えまで店内でさせてもらう。
胸元が大胆だが、この際いいだろう。
「ふン。」

船に帰ると。

「うおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!!!」となにやら、先ほどのパールでの騒ぎの続きか。
「てめェら、見世物じゃねぇんだよ!」
荷物を置くと、もう一度街の中に。

「どーしたもンかねえ・・。」昼も過ぎ、空腹を訴えるお腹をさすりながら・・。
ビスマルク。
先の酒場よりも下の階層で、テラスのある「調理師ギルド」直営店。
「はーぁ。やっぱココが一番落ち着くね。」
昼下がりの潮風が黒髪をなでる。
「ご注文は?」「おまかせ。お腹が空いてるから。」「かしこまりました。」
さわ・・・っと風が吹いた後・・。
「前は食堂もマトモだったらしいけど。」斧で調理していた、という伝説すらあるマイスターの話。「どうせ、伝説だよネ。」
自身の格好を観る。うん。我ながら、かわいいじゃないか。「ち。ガラでもねェ。か。」
そうこうしてる間に、パスタやら、フライやら、サラダやら。
ついでに向かいにエレゼンの女性。
「何しひひへんた?」サラダを頬張る少女はマトモな発声をあきらめたかのような声。
「先輩からのアドバイス。」
「はン?」
「もう少し素直になるほうがいいんじゃない?」
「んぐ・・。意味が解らねェ。」頬張ったサラダを飲み下し。
「まあ、その時になれば、かなあ?」と自身の事は棚にあげて?視線をそらして顎に指をあてる。
「私は、それができない、というか、できなかったし、というか、したいんだけどね。」
「はぁ?さらに意味が解ンねえぞ?」
「まあ、いいわ。そのうち・・・。あ、ありがと。」女性はオーダーしたジュースを受け取る。
「いいさ。わざわざありがとうな。ええと・・。」
「ウルスリ、よ。覚えておいてね。かわいい弓隊のエースさん。」ジュースのカップを持ちながら、女性は席を立つ。
見送りながら・・。「なんだかなァ。」
残る料理に手をつける。

その日の夜は、宿にて。
船に長く居ると、この手の「揺れない」寝台はかえって落ち着かない。
かといって、酒場に繰り出す気にもなれない。数回行った事はあるが、完全に顔を覚えられてしまった。
正直、行く気がしないし、かといって何をするでもない。
愛用の大弓は磨き終えたし、湯浴みも済ませた。後は寝るだけだ。
その時。

「緊急の案件だ。明日、朝イチで出航する。各員、準備を怠るな。」
パールからの伝達。
それも船長直々。
こういった伝達は、普段は副長がするものだが。よほどの事なのだろう。
「ダッコルド(了解)。」少女はようやっと眠る理由を見つけた。

明けて早朝。
あえて、というかソレしか無かったという理由で、ドレス姿のままの乗船。
コーティとよばれるそのドレスは、かなり刺激的なデザインだが・・・。
「船長!」
「どうした?」
「今晩、寝台にお邪魔してもいいでしょーか?」
「子供の相手をしているヒマは無い。服はなんでも構わんが、今夜の仕事は少しやっかいだ。お前は自分の仕事をしろ。」
「ダッコルド!」
船長室から退席する。
扉の傍らには副長がいる。
「フラれた。」「まあ、そうだろうな。」

そして、その夜はまさに激しい戦闘となる。
護衛。
もともと、攻撃が得意な海賊船に「護衛」なんぞの依頼があること自体がそうそうあることではない。
僚艦のガレー船にしたって、衝角(ラム)による突撃、その後の白兵戦がメインだ。
夜のうちに出航した、というよりは夜にしたかった、と言うべきか。
相手は、海賊船。
とりあえず、その海賊船はカタをつけた。
問題は。
ウルダハまでの、ウルダハ船籍の船の護衛。金払いがいいお客、と言うわけだ。
だが。
「高度な政治的理由」とやらで、帰ってきて欲しくない連中が用意したものは軍艦。
一隻とはいえ、かなりの火力と防御。帆船ながら、要所には鉄板で防御が施されている。
「てめェら!根性入れてかかれよっ!」
黒髪の少女は大弓を構えつつ、部下に叱咤する。
「へいっ!お嬢!」「その呼び方はヤメロつったろーがァ!」
弓隊の隊長となった少女は、その「眼」の力を使い、敵の見張りを撃ち落す。
かなりの遠距離だが、正確な射撃。それも夜中。
歓声があがる。
麦一粒程度の的に、正確な射撃。

「む・・。」全体の指揮を執る副長は、とりあえず様子を観ている。


(副長ってば、心配性・・・。)
黒髪をなびかせながら、少女は次の得物を捜している。
居た。
甲板上に、複数に配置された弓兵。こっちも似たようなものだが、僕が居る。
「ふん。」
複数の敵に「ターゲット」。狙いをつけ・・・。

「あ?アァ?・・・。」

ガラン。

つがえた矢は、すぐ近くの海面に、ぽちょん、と落ちる。
大弓は、少女の足元に。

視界が滲む。

左目が痛む。

狙っていたはずの敵が見えない。

「あ、あれ?僕。え?」気がつけば腰を落としてペタリ、と座りこんでいた。
ジワリとくる激痛。
おもわず顔を押さえる。

「お、お嬢!!」「隊長!!!」「・・・・!」後半は聞こえない・・・。


異変にはすぐ気がついた。というか、予想はしていた。
先の海賊との戦いでも、彼女はその「眼」を酷使していたはずだ。
「まさか、本当に試したんじゃないだろうな・・。」副長、カルヴァラン。

酒場での後。パールを取り出す。
「千里耳(サウザンキーパー)か?カルヴァランだ。」
「あら、色男。どーしたのー?めずらしーわね?」ウルダハでの情報を一手に握るララフェルの女将。
「金色の眼の情報が知りたい。」
「あー、アレね。手に入れたの?けっこういい値段なハズよー?」
「そっちじゃない。効果というか、呪いの効果だ。」
「あ、ソッチ?今までアルダネスに運び込まれた案件としては、2件。結果は両方とも死亡。
「眼」の形状については一件は指輪、もう一件は不明。使用者は二人とも呪術士。
遺体の回収に行った連中は「ひどすぎる」としか言わなかったみたいねー。」
「で?」
「10万ギル。今のでね。」
「もう10万、払う。」
「おーけー!金払いのいいお客さんは助かるわ!」
「いいから、言え。」
「数年前に、その「眼」を手に入れた好事家が襲われた。アンタ達でしょ?で、それはいいとして、「眼」の効果、シャレにならないわよー。」
「続けろ。」
「本当の名前は「イージスの眼」だそうよ。暗視や望遠とか。それどころじゃなくってね。」
「・・・。」
「本当の価値は、ターゲットっていう能力。」
「で?」
「ソレを使って、目標を捕捉しちゃうと、後は念じるだけで魔力の矢が全ての敵に襲い掛かる。必中必殺、らしいけど。」
「!」
「ソレを使って死んじゃったみたいねー。指輪の術者。」
「な?」
「魔力を底抜けに使い果たすみたいね。ぐずぐずの泥みたいな死体だったらしいわよー。
あと、使い終わった指輪は同じく赤黒い、金色とは呼べないような。」
「それは、意図的に使えるのか?」
「さあ?たぶん使える、んじゃない?かな?」
「。。。」
「もちろん、それ以外でも魔力を使い果たすと同じことになるかもー。」
「わかった。礼をいう、モモディ。」
「どういたしましてー。お支払いは今月までにね!」

そして。目の前で倒れこむ少女。座り込み、そのまま。
戦闘指揮は他に任せ・・。


「おい!」
少女の顔を見る。いまだ手で顔を覆っているが、意識があるかわからない。
抱き起こし、手を引き剥がす。
見開かれた両目は、右目の黒と。
赤黒い左目。
金色の瞳は既に無く、赤錆にも似た色。白目の部分も髪の色にも似た暗闇になっている。
「おい!」もう一度声をかけるが、返事は無い。
ただ、口からは荒い息と涎が垂れている。
ポーチから小瓶を取り出し、栓を口で引き抜くと、少女の口にあてがう。中の液体が少女の口の中に注ぎ込まれ・・。

ぶはっ!

痙攣と共に吐き出される。

「ちっ!」
もう一本。
今度は。
自身の口に入れ、少女の口に移す。

再び痙攣と共に噴出しそうになるのを、自身の唇で押し返す。

ようやっと落ち着いたのか、液体が飲み下される。
それが分かると、少女の身体をその場に横たえ、指示を出す。

もう一度少女の眼を見る。今は閉じられていて色合いは分からない。
指で少しだけまぶたを開けてみる。
赤黒い色から、少しだけ元にもどっている。
「間に合ったか・・・。」安堵。
弓隊も、そわそわしながら、ほっと一息。

「イージスの盾と、その対になる矢。見たものは全て薙ぎ払う。攻撃が最強の盾(イージスシステム)、ってヤツなのよー。」
ララフェルの最後のひと言が思い出される。まさか・・。使ったわけでもないだろうに・・。

戦局は膠着しているが、一歩こちらが押している。

「この子を連れて行く。すぐ戻る。」
「はい!副長!お願いします!」

まったく、ムチャをしやがるな・・。
船室に向かいながら、もう一度安堵の息を出す。


----------コメント----------

ついに金色の目の正体が!
そして矢がガンダムのファンネル化しちゃうとは・・・恐ろしいんじゃよ~w
Syakunage Ise (Hyperion) 2012年08月11日 08:26

----------------------------

>しゃくなげさん、いらっしゃい♪
イージスシステムは、海上自衛隊が誇る「こんごう」級イージス艦がモデルですw
このシステム、半径数百キロの圏内に100以上の目標を設定して、一斉にミサイルを発射、マッハ2で飛んでる戦闘機だろうが、どっかの民家のトイレだろうが、ピンポイントでトンで行きますw
お話の中での魔法の矢は、ファンネルというより、マクロスあたりで出てくる、捻じ曲がるビームっぽいかもw
Mayuri Rossana (Hyperion) 2012年08月11日 08:50

<<前の話 目次 次の話>>

マユリさんの元ページ