275書き物。黒髪の少女。ノーヴェ(9)

リムサ・ロミンサ。

ラノシア地方の海岸線、それも崖っぷちに造られた街。

その半分は海に面し、陸路に行くには大きな橋を渡る。
大小さまざまな尖塔が建ち並び、その中でもひときわ大きい塔のような、その一角。

酒場「溺れた海豚亭」

まだ昼前だというのに、酒場はそれなりに盛況だ。
ほとんどが、海賊ないしは「元」がつく船乗り。
その酒場のカウンターにて。

「よーう、ひさしぶりじゃないか。カルヴァラン。まあ、飲めよ。」
「ああ、久しぶりだな。バデロン。」
「お久しぶりです。カルヴァランさん。今日はどうかしましたか?」
「まあ、たいした用でもないんだが。ウルスリも元気そうでなにより。」

旧交を温めあう最中に。
(副長・・。少し話があるンだ。今ドコです?)
とパールからの声。
(酒場だ。どうした?子供でもできたのか?)
(そンな話じゃないって!)ムキになった返事がかわいい。
(なんだって!お嬢に子供だと!)(だれのだ!?)(誰かあの要塞を突破できたのか?)
(アイツがあやしい!)(いや、それ以上に俺のフネラーレちゃんになんてことを!)
(誰がおめえの、だよ!)(みんなのフネラーレだ!)(あ、こいつ、呼び捨てにしやがった!)(・・・・!)(!!!)(・・・・・っ!!)
(ルっせぇッ!僕はまだ処女だ!奪いたければいつでもキやがれっ!反対に串刺しにするけどなァ!)
(オオオオオォォォォォ!!!!!)どよめくクルー達。

アスタリシア号のクルーのほとんどを巻き込んだパールでのやり取り。
(はァ。今いらねえコト抜かしやがったヤツ、帰ったらまとめて的にしてやる。)
(俺もか?)(そうだよっ!副長!アンタが最初だろーが!)
パールでの通信が切れる。

「どうかしたか?」とヒゲのマスター。
「ああ、船のアイドルさ。もうすぐ来る。たしか逢ったことは無いんじゃなかったか?」
「どんな子だ?」興味深々のマスターだが、「いてっ」と顔をしかめる。
横にはすました顔のウルスリ。

「お前らも相変わらずだな。」とラムをあおる。
その時。
カウンターに一本の矢が刺さる。
副長カルヴァランは、ソコに付け加えてある紙を広げ「テーブルでいいか?」と汚い字をなんとか読む。
振り返るが、誰もというか、少女は居ない。
「カウンターの傷の分は気にしなくっていいぜ。」とマスター。
「そうか。あちら側のテーブルを借りるぞ。」
「ああ。後で紹介してくれよ!そんでチャラだ!って痛てっ!」

席に着くと、そこだけ夜の空気を切り取ったかのような少女が続いて席に腰をかける。
「で?どうした?子供が欲しくなったのか?」
「副長、らしくねェ冗談はさておいて、だ。」
「わざわざ呼びつけるお前の方こそらしくない、が。」
「この、「眼」だ。」
「ふむ。」
「この「眼」モトはどっから来たかわかるか?」
少女は左目にはめ込まれた、金色の瞳を持つ「眼」を親指で指す。
「さてな?「戦利品」の中の一つで、貿易船ではなく好事家の船だったか。昔なので、いまいち覚えていないが。それで?」
「さっき、得体の知れない呪術士に会って、呪いの品、だなんて言われたんだ。」
「ヒマな奴だな。そんな鑑定をしてもらっていたのか?お前。」
「違うッ!ソイツの方から来やがったンだ。」
「本題はなんだ?」
「この「眼」を使い続けると死ぬンだそうだ。」
「根拠は?」
「魔力ってやつを喰い続けてるらしい。それが本当かどうかは、試せば分かるけどナ。」
「自殺か、それも悪くないが。船長の私物だしな。お前。勝手に死なれたら困るといえば、困る。」
「あー、ハイハイ。そーですよ。そーです。いつでも寝台にお呼ばれいたしますとも!」
「お前の器量では、船長は呼ばないだろう。」
そう言って、少女の胸元を見る。
「サラリと気にしてるコトを言うね。副長。」
「そんなに抱かれたいのか?なら自分で行けばいい。」
「だっ!誰がそんなことッ!」真っ白い頬が赤く染まる。
「まあ、話しを戻そうか。その「眼」に要る魔力は、お前の限界に近いのか?」
「ソレがわからねェ。」
「なるほどな。」
「で、とりあえず、視力を使わないようにしろって、サ。後・・。」
「ん?」
「こういうものを買ってみた・・。」少女はカバンからごそごそと・・。
アイパッチ。
「似合うか?」少し照れくさそうだ。
「・・・・。ここまで眼帯が似合わない海賊も、よくも居たものだ。」
含み笑いが、普通の笑いに、さらに大笑いになる。
少女は恥ずかしさのあまり、席を立ち、眼帯をむしりとるとカウンターに向かう。
「なァおっさん!」ヒゲのマスターに。
「あ?なんだい?お嬢チャン。」
いきなり現れた、というかやって来た黒髪の少女。控えめにみても美人だろう。
ただし、言葉使いがアレだが。バデロンはさて?と首を傾げる。
この真ん中で分けて、長めの前髪がかかるようになっている左目。
金色。
「僕って、コレ似合わない?」といって、おもむろに眼帯をつける。
「・・・・・。」沈黙のバデロン。「あの、似合わない、ってことは無いけれど・・。
どっちかと言えばつけない方が、かわいいわ。」とウルスリ。

「おい!カルヴァラン!この子かい?件のアイドルってのは!?」
「ヲィ?なんだ?そりゃァ?」眼帯を外し、背の大弓に手をかける。
「やめとけ、大バカ。」カルヴァランが止める。
「ふん、もういいよ。」と足早に店から出て行く。


「困ったアイドルだな?」
「かもな。それと、エーテルを何本かくれ。」
「お前、魔法使うのか?いや、そりゃ使うことくらいあるだろうが。」
「あるに越したことは無い、ってことだ。」
「そっかぁ。んじゃコレ6本しかねえが。」「ああ、すまん。」




「全く失礼な話だョ。本当。」繁華街を歩きながら、振り返る男連中を無視しながら歩き続ける。
「んー。コレいくらだィ?」ドレスを手に取る。


----------コメント----------

こっそりエーテルを用意しているとは・・・。
なかなか気のきく優男じゃよ~w
Syakunage Ise (Hyperion) 2012年08月09日 14:50

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>しゃくなげさん、いらっしゃいw
出来る男性はちがいますw
Mayuri Rossana (Hyperion) 2012年08月10日 07:50

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