175書き物。海賊船の8

甲板から扉を開け船内に。

ここは海賊船アスタリシア号。
密命をおびて侵入した少女は慎重に進むが。
「ウルスリっ!」ひと言だけ声高に。

が、返事は無い。(やっぱり気のせいかな?)
今のところ船員達は出てこないが、いささかやりすぎだったかもしれない。
はやる気持ちがつい、そうさせてしまった。
このまま誰とも出会わずに行ければ良いんだけど。心の中ではムリだろーなー・・




「おう、大将。生きてるか?」

甲板の上で大の字に寝ている坊主頭の斧使いに無精ヒゲの青年が声をかける。
傍らの少女は心配そうに見ているが、声をかけにくそうだ。

「なんとかな。」
起き上がれないが、体は動く。
「で、てめえ。なんで出てきやがった?あれほど言っただろ?」
「大将・・。」
「てめえが出てこなかったら、負けなかったんだぜ?」
「大将。見てなかったんですかい?」
「何をだ?」
「あの娘の杖。」
「ん?」
「あれは高位の術者しか使えないヤツってことですよ。」
「あん?」
「あのまま時間が経てば、あの娘は間合いをわざと開けて、魔法で攻撃するほうに切り替えたでしょう。
そうすれば大将。アンタ死んでたよ?」
「む・・・。」
「騒ぎを大きくすれば、人が増えますからね。だから格闘で締めたかったんでしょ。だが、大将が予想外に強かった。
でも時間が無い。そこで仕方なく魔法を使おうと杖に持ち替えようとしたから声かけたんですぜ?」
「そうか。それはすまん。」
「で?」
「で?」
「ホレたんですか?」
「ホレたあっ!」
「アンタ、あほか?ウルスリ、水もってこい。このあほにぶっかけてやる。後、俺にはワインだ。」「はい。」



船長室は最後尾、だが。
そこに行くまでに、誰とも会わなかった。
「コレはラッキーじゃないよね?」と少女。
どう考えてもありえない。
「ご招待、かな?」グレイの髪の少女はつぶやく。
ドアをノックする。

ゴスっ!

ドア越しに剣が刺さる。

喉元近くに切っ先が。

「入れ。」

ドアを開ける。

「カピタン(船長)フィルフルだ。」
船長は椅子に座ったまま。他には誰もいない。

「失礼いたします。レティシア・ノース・ヴィルトカッツェです。」
一礼。

「招待した覚えはないがな。乗船の許可をやろう。」
「ありがとうございます。」
この威圧感、かなりすごい・・・。内心、臍を噛む。
「で、我が艦に何用かな?」
「単刀直入に申します。グリダニアからの民間船に、海賊行為をしましたか?そして、その結果、乗員はどうなりましたか?」
「レティシア嬢、それはこういう行為をしてまで聞きたかったことかね?」
「・・・。はい。」
「そうか。ならば答えよう。ロクな航路も知らないまま座礁した船の救助はした。
乗員全員が救えたわけではないが、数人は救えた。保護と、望むならば乗員として雇いもした。これでいいかね?」
「あ。はい。ありがとうございます。」
「で?」
「あ、あの、もう一つだけ。エレゼンの少女でウルスリっていう子はいませんでしたか?」
「さあな?新入りの名前までいちいち覚えてないな。」
「新入り?」
「さて、ここからだ。」
船長は立ち上がると、剣を抜く。
「こちらはここまで支払った。お前は何を支払う?レティシア嬢。」
「あ、やっぱり。」
「相応の対価が要るはずだ。」


向き合う。

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