「君がレティシアか。」
仄かに薄暗い、ランタンなどではなくロウソクだけを燈した部屋。
まだ昼前だというのに、夜半ではないかと錯覚する。
窓が無いため、ではあるが。
では、何故窓がないのだろう?
答えは。
(知られたくない話をしたいからだ。)少女はそう決め付けた。
今朝方に、家の玄関に封書があった。
「こちらに来られたし。」そして地図。
最後に、「他言無用。」と。
それを見た少女は。あっちゃー。師匠、やってくれたわね。なーにが「ツテ」なのよ。あのクソジジイ!と毒を吐く。
半日前にキスをくれてやったというのに、なんだ、この仕打ちは。
腹の立つ!こんないかがわしいところが勤め先ですか!と。
ふと見ると。
封書に使われている紐に見覚えがある。
「これ。」
老ララフェルが髪をしばっていた紐だ。間違いない。
「あ・・。」
封書の字が滲んでいく・・。
雨は?降っていない。
なら?
眼が熱い。
もっと奥も熱い。
どうしてかな?止まらない。地図はもう覚えてある。ならもうこの紙は要らない。
なら。
遠慮は要らないじゃないか。
存分に濡らしてやろう。手に握り締めた「紐」と、どうでもいい紙と。日が昇り、しばらくするまで動けなかった。
そして、地図の通りに行き、目の前の鬱陶しい男とご対面と相成り。
男の冷たい声に、
「はい。」同じく冷たい返事を返す。
少女は長いグレイの髪を後ろでくくり、一つにまとめている。
男が「家名すら持たない君が、この場に来れた栄光を噛み締めたまえ。」
尊大な口調だが、自信にも溢れている。
少女は。
「改めて、名乗りをさせていただきます。」
ほう。
「レティシア・ノース・ヴィルトカッツェです。」
「山猫、だと?」いぶかしげな男。
「報告では、君はアラミゴの出だろう?それも難民だ。なぜグリダニアの家名を名乗る?」
少女は真っ向から向かい
「こちらに来たときに母を亡くしました。恩人も。ですが、この家名をくださった方がいます。
残念ながら記憶が曖昧で覚えてはいないのですが。それでも、誇りを持って名乗っています。」
毅然と言い返す。
「ふん。まあいい。」男は特に感銘を受けたわけではなさそうだ。
「君の仕事は偵察だ。イシュガルドに行って来い。」
「はい・・。」
「できるなら、アラミゴもだ。」
「はい・・・・・・・。」
「報酬は、その都度渡す。嫌ならいつでもやめるがいい。」
「はい。」
「それとな、帝国の情報が最優先だ。」
「帝国というと、ガレマール・・・。」
「イシュガルドのゼーメル要塞に侵攻する情報が出てきた。それもこまめに偵察して来い。」
(ガレマール帝国・・。両親を、それと・・。これはやりがいのある仕事じゃないか。師匠。あたし。やります。)
髪をくくる紐をもう一度、締めなおす。
「わかりました。」
決意は揺るがない。