147ZERO書き物。8

「次はわたしがやるっ!」

飛び出してきたのは、栗色の髪を短くした少女。少年と呼んでもわからないくらい。
練習用の槍、それも大人用だ。
刃は付いていないが、振り回すだけでも十分な打撃になるだろう。
しかし、重さも当然ある。
小柄な少女が振り回すには、いささか大きすぎるだろう。

「スウェシーナ!」と隊長。
見た目、それほど年はかわらなそうではあるが・・、やや、格闘家の弟子の娘が上か。
このくらいの年頃だと、確かに1年でも年上の方が何かと体力面では上になる。
しかし。
「父さん!勝つからっ!」と勢いよく出てくる。
他の隊員も制止はするにはしたのだが、この少女の性格と、隊長の娘でもある。それほど強くは止めれなかった。

ブンっ!
自身の身長の倍くらいありそうな槍を、振り回す。
これでも隊には入ってないが、鍛錬では、年上の隊員を負かすこともあるのだ。

レティシアは。
(ああ、これは。)
と相手を見て。
(ら・く・しょ・う)
疲れ果てた顔で眺める。
ここで戦意のある眼を見せてはならない。いかにも疲れました、をアピールしなければ。
そして、まだやるの?と思わせればまず、負けることは無いだろう。
とっくに疲労は回復しているのだから。

爺ちゃんのスタミナアップの走りこみ?も役に立つのね。と内心笑いながら、ヘトヘトを自演する。

「いざ!」


「父さん!わたし悔しい!」二人が帰った後。
「あの師弟はよっぽどだな。お前とそう変わらない年頃だと見えたんだが。」
我が娘ながら自慢どころか、むしろまだまだと甘やかしたつもりは無い。
が、槍の腕前なら、そこらの大人顔負けの技を平然とやってのける。
「今度、あの子が来たら、必ず試合を申し込みます。」と父を見る。
「いいだろう。(が、おそらく・・・。勝てることは出来ないのではないだろうか?なんとも末恐ろしい娘だ。)」


薄暗い木々に囲まれた帰り道。

「レティシア。」と老ララフェル。
「はい?」とグレイの髪の少女。
「実はな?」「師匠?」
「お前を鍛えていたのにはワケがあってだな。」言いにくそうに。
「はぃ?」首をかしげる少女。
「今回のこの勝負、な。お前がこの国にとって、役に立てるかどうかのテストの一つだったのよな。」
「?はぁ?」意味がわかりません師匠、と続く。
「うん、俺もわからんのよな・・。ただ、お前を鍛えてやってくれとな。そういうことでウルダハから来たのよな。」
「そうなんですか!?」少女はびっくりするばかりだ。
「この先、俺が鍛えてやるがな。何時別れるかわからんのでな。」本心。
「そんな!!」うろたえる少女。「いつでもナデナデしますから、ずっと教えてください!」
「それは耐え難い誘惑なのな。」と微笑む。
「それでな。」
「はい。」
この話は、俺とお前だけの話なのよな?


しばらく歩くと、灯りも濃さを増してくる。

「いかがですかー?こちら、カーラインカフェでーす。ご夕食とか、いかがですかー?」元気な少女の声が聞こえてくる。

「お腹すきましたね。師匠。」「そうだな。」
カフェの前、少し薄い闇だが元気な少女が声を張り上げている。
歳は・・「あたしよか年下?こんな時間まで大丈夫なのかな?」
「お前なら大丈夫だな。」「ええ、妖怪が横にいますから。」
少し色白、というか暗い目の肌のエレゼンの少女は、この闇に消えてしまいそうではあったが。
「どうぞー!」と元気よく呼び込んできた。
「お、かわいいね、俺のヨメにならんかな?」
「師匠・・。」一応、裏拳を放ってみたが、お辞儀の動作でかわされた。
「あの・・。」とエレゼンの少女。
「カフェはどこだったかな?」と言いながら、裏拳を放った体勢のままの少女の足をはらいつつ、トンと押す。
「師匠・・。」としりもちをついた少女は涙声。

「いらっしゃいませ!カーラインカフェにようこそ!」とカフェに案内するとまた少女は出て行ってしまった。(この時間大丈夫かなあ?)

適当な席に着き、適当にオーダーする。
「なんか、あれですよね?師匠。」「ん?」「師匠って、あたしぐらいの年齢が好きなんですか?」
「うん、からかうのにもっとも楽しい年齢だからな。」
「どう返したらいいんですか?」「うん、気にしたらだめだな。」
「そうですか。」「うん、この先もお前はいろいろ気にするな。」真剣な眼。
「はい・・?」

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