144ZERO書き物。5

古い木に添えたような。
森の一角の小屋。
そこから一人の少女が出てくるのを見て。

赤いローブのミコッテの幻術士はつぶやく。
「短かったが。」
眼からは、一滴。
「楽しかった。」
そして、堪えきれない、雫が。あふれて。
「後はお前の活躍を聞いて、楽しむとしよう。」
淡い光に包まれて。なお、その姿を見ながら。消える。



身体を動かすのは気持ちいい。
朝のグリダニアだと、空気も最高。
走って帰りながら、釣った魚をどうしようかと考えて、手っ取り早く焼くことにした。
小屋に戻ると、炭に火をいれ・・。
火が熾るまで、丁寧に煽る。誰に習ったのか覚えていないが、やり方は知っている。
適当に塩を振って、焼きあがったらほおばる。
「あー、師匠、怒るかなあ?」
もう、陽は中天に差し掛かる。
炭はつぼの中に戻し、火が消えたことを確認したら、街に赴く。
(あれ、あたし街に住んでたよね?たしか。)
「ま。いっか。」
今の暮らしも嫌いじゃない。むしろ、何か暖かい気がする。誰かに見守ってもらってるような。

街の広場に行くと。
「レティシア!」と声をかけてくる少年。
いや、師匠。

銀髪のララフェル。髪を後ろにしばり、飄々とした態度。
「師匠!遅れました!」とまっすぐなグレイの髪を腰の辺りまで伸ばした少女。

「とりあえず、一周な。」と師匠。
「え、お叱りはナシですか?」と、毎度の質問。
毎度の答え。
「叱って、何か伸びるのなら叱るのよな。」と。
「はい・・。」うなだれて、いつものコースを走っていく少女。

グリダニアの街は複雑に入り組んでいる。
森と共生するため、自然と調和するため、人の住処がそもそもその邪魔にならないようになっている。ゆえに。
入り組んだ地理ではあるのだが。
ぐるっと一周できるところも、もちろんある。街としては機能的でないといけない部分もあるからだ。

水車四辻から、北に。劇場を過ぎ、幻術士ギルドの前を越えて、南に。
エーテライトといわれる魔法石を過ぎて、道なりにぐるっといけば、最初の場所にたどり着く。
いつものコースだ。

「レティシア。お前、ほんとに足速いな。」
「はい!師匠。かけっこは負けたことがありません!」少女は真っ直ぐの髪を揺らしながら。
自慢げに言う。
年のころは13かそこらか。そろそろ女性とよんでもいいだろう。
「将来が楽しみだな。」
「え?」
「いやな。」
「はい?」
「お前、将来な。美人確定だなあーとだな。」
「はぁ?」
「俺のヨメになるか?」
目の前の小さい?師匠を見つめ、「師匠。おいくつでしたっけ?」と尋ねる。
「うん、今年で。。、、、・・・60かな?」
「妖怪・・。」少女はにべも無い。
「うん、よく言われるな。」どうやら銀髪は年齢によるものみたいだ。

そういえば。
師匠と個人的な会話はこの時が最初かも。

普段は「アレをしろ」「これをやれ」と。

1年以上も師事すれば、あれ、そろそろ2年だっけか?
とりあえず、私語が出来たのだ。
少女からすれば、大きな一歩かもしれない。

「ようし。今度は競争しよう、かな。」と師匠。
「本気ですか?」と聞いてみる。
「負けたら、とかは、後にしてやろうかな。」自慢げな師匠。
(もういい年なのに・・)と思って。
「行くぞ。」


結果は圧倒的な師匠の勝ち。
「まだまだ、だな。」
「はい。」でも?
「何故、負けたか判るかな?」
「師匠が妖怪だからです!」強気な言い訳。
「はは、俺が、あやかし、もののけの類なら、お前はとっくに喰われておるな。」
「じゃあ、その、なんなんです?」といぶかしげな少女。
「まずはコレよな。」と自慢げに魔法の靴を見せる。「エルメスの靴」履けば、走る速さは並大抵ではない。
「そしてな。」「はい。」
「お前から見えなくなった時にエーテライトにデジョンをしたのな。」
「へ?」
「そこからは楽勝なのな。」
意味がわからない。駆けっこの勝負に魔法の靴や、デジョン?どういうこと?
「はぁ?」ありえない結果、その後の種明かし。
「意味がわかりません。駆けっこ勝負じゃないですか?」と。くってかかる。
「その時点で、お前は負けたのだよな。」
いまだ、納得しかねる弟子。
「俺は、競争しよう、と言ったのよな。」
「そうですね。」
「誰も「駆けっこ」で競争しようなんぞ言っとらんのよな?」
「でも、あの場では・・。」と食い下がる少女。
「なので、お前は負けた。のよな。意味がわかるかな?」見つめてくる師匠。
分かるような、分からないような。
「教えてください。」頭を垂れる。
「あたしでは・・。」

(ふむ。いい生徒なのな。教え甲斐もあるというものよな。)



(あの男について来た価値はあったな。だが、まあ。あの男は・・。)

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