ちょ!
なんだってこんな事態に!!
あたしは、なにはともあれ、脱兎のごとく逃げ出した。
薄暗い森の中。苔むした道をひた走る。
黒衣森。古代からの木々は見上げてもその梢さえ見えない高みにあり、陽光すら緑に映える。
が、それすらまた日中に限られてしまう。
その、木漏れ陽なんて、悠長なコトを楽しむ間もなく。
「待てー!」という怒声と共にやってくる足音に、ひたすら逃げ回る。
オカシイだろ!と内心、毒づきながら。
数日前。
「ねえ、マユ。ちょっとばっかし小遣い欲しくない?」
「ほしい!」
「いい子ね。こんな仕事あるんだけど。」
「え・・・?母さん、それって超マズくない?」
「あたしの若い頃には、普通にこなしてたわよ?できないの?」
「マジで?だったらやるわ!」これが発端・・・。
グリダニアの誇る自警団、鬼哭隊の襲撃。
もちろん単に襲撃じゃなく、不意打ちを前提にした訓練の襲撃役。
ただ。
実戦仕様。いわゆるなんでもアリで。ここまではよかった。まだ。うん、まだいい。
しかしながら、この襲撃イベントが全くもって、鬼哭隊に伝わっていなかったコト。
完全に賊にされてしまったあたしはひたすら逃げる。
走りながら「母さん!ちょっと!話がオカシクない!?」
「ごめん、いまから洗濯するから。」
「いっぺんしねー!」半泣き所か、号泣寸前で前が見えない・・・。
パールを握り潰しそうになりながらひた走る。
「あの子も、まだまだねー・・。」暢気にお茶を飲みながら、洗濯前の衣類の山を眺めてつぶやく。
「洗濯って、けっこう手間なのよね。」あんなの相手のほうがどれだけ楽だか・・。
洗濯物を干し終えて。
夕日を見ながら、「鬼ごっこはどうなったかしらね?」と、独り言。
すると。普段は首にかけているパールが光りだす。
あら?意外と早かったかな?
「ねぇ。」
スウェシーナ。鬼哭隊の副隊長を務める、幼馴染。
「どうしたの?」と、すっとぼけてみる。おそらく我が娘の敗退か。
「いや、いろいろと困ってるんだけどさぁ?あんたの差し金でしょ?コレ。」
けっこう鋭いが、根拠を出せない辺りがイマイチかしら?
「なんのコトかしら?」あえて知らないフリ。
ここに来て、ついにキレた。
「レティ!絶対!間違いなく!!アンタの仕業!!!」
相変わらずマジメでおもしろいなぁ、スゥは。
「はて?」とさらにトボけてみる。
「もーーーう!アンタの娘をとっ捕まえたんだけどっ!」と耳鳴りがするくらいの怒声がやってくる。
あーあ。まあ仕方ない。娘よ、精進せよ。
「え?なんで?そんなトコで捕まるようならあたしの娘じゃない。」
パールのやり取りが聞こえたのか、抗議の声が聞こえてきたが無視。
「というわけなんだけど?」と、どこか疲れた感じのスゥ。
「あ。そうそう。昔あたしがやってたじゃない?ホラ、スゥに頼まれてキャンプ襲うやつ。
アレを修行がてらにやってみたら?って、この前言ってたのwwwマジで実行しちゃったのねw」
とまあ、建前は。どっちも完全抜き打ち、というのをしてみた、ってんだけど・・。
さすがにマユにはまだ早すぎたかしら?とか思ってるところに。
「レティ・・・・・。」ん?
ため息をはさんで質問が。
「そんでね。まあ、それは不問にするとして、もう一人いるんだけど。こっちも知り合いなの?」
?????誰だ?まさか旦那?いやいや・・んー?