1007外伝2 バルゼレッタ(小話)その続き・・・

・・・

そよぐ海風が、なんだか和む。
空には陽がそろそろ中天に差し掛かろうかというところか。
こんな日には、何かいい事があってもいい。
いや、あるだろう・・・。

「なあ?」
褐色の肌の青年は、いつものジャケットではなく、海の男らしく胸元をはだけたシャツ。
「どうした?」
初老の海賊は、白髪混じりの髭をいじりながら。こちらはパリっとしたジャケット。

「なあ、親父。」
「カピタンと呼べ。」

実の親子でもないが、親しい仲には、親兄弟と呼び習わすのが船乗りの慣習だ。
何ヶ月も、場合によっては何十年と「船」を「家」として過ごすのだ。船員全てが家族とも言える。

そこで「船長と呼べ。」とは、やはり「家族」から離れてしまった感じは否めない。

カルヴァランは、潮風の吹く中で、フィルフルと横に並んで座っていて。
ウミネコ達が鳴いている、この状況で何が言いたいのか、ちょっと分からずに。
ただ、誘ったのはこっちだ。
しかし、素直に来るとは思っていなかった。
「なんでだ?」
「何がだ?」
疑問に質問で答える。海賊だと常套句。
相手の知りたいことを引きずり出すのに、一番手っ取り早く、素人が一番引っかかる。
「俺の事を・・まだまだ、と言いたいのか?」
「そうだな。」ラムの瓶をそのまま口に運ぶ。
「なめられたものだ。」その瓶を奪い、口をつける。

「ソコだ。」と瓶を指さす、カピタン・フィルフル。
「え?」カルヴァランは、飲み込んだ酒を吐くわけにもいかず・・
「もし、その酒に毒を仕込んで、飲んだふりをした俺からひったくって、飲んでいたら、お前は死んでいたな。」
「!?」
「だから、あの小娘すら手懐けられん。返してもらおうかね?」
「!」
「冗談だ。本当にガキのままだ。」奪い返したラムを、ぐびり。
「だから・・」
本心が読めないカルヴァランに
「まあ、老兵は死なず、ただ、消え去るのみ・・・誰の言葉だったかな?」
「親父!」
「心配するな。そうそうすぐに消えるものでもないさ。」
「あの砲撃は・・」
「ああ、アレな。祝砲だ。甘ちゃんの坊主が立派になれるように、ってな。」
「・・・・クソ親父め・・。」
「褒め言葉だな。」

二人は、護岸で陽が昇りつめ、落ち始めるまで眺めながら、ラムを飲み交わし。
「いい風だ。」「ああ、いい陽だ。」



そよぐ海風が、なんだか和む。
空には陽がそろそろ中天に差し掛かろうかというところか。
こんな日には、何かいい事があってもいい。
いや、あるだろう・・・。そして、あった。

キン。
乾いた金属音その後に聞こえてくる音は・・
(天の印!はっはー!ヤル気マンマンじゃないか!雷遁かよっ!)
ルジェは、もう片方の小刀を抜く前に、こちらも「印」を結ぶ。
「いい日、だ。」
同じく、天の印。

この「印」だと、お互いの手の内をどう読むか?が鍵だ。
ルジェは、問答無用で仕掛けてきた相手は、単体攻撃特化の「雷遁」と踏んで、自身は相手の攻撃範囲を狭めるべく「氷遁」を仕掛けるべく。

後は、「地の印」か、「人の印」かで、結果が変わる。お互いの読み合いが忍術同士での「結果」だ。
「いいぜ!かかってこいよっ!」
一瞬の隙間を作って、あえて相手に一歩を譲って、その間に走りこむ。

「推して参る。」
涼やかな声が波風と共に。

やはり、「地の印」かとおもいきや、「人の印」
ん?ルジェは、さっきの余裕を効かせたセリフがまずかったかと、とっさに「地の印」に切り替えて、(雷遁。)
二刀に、紫電がほとばしり、相手の懐に入るときに見えたのは、もう一つの「印」
(まじい!)一旦引く・・が、完全にはそうも行かなくて。
左足が何か引きつったような痛みを訴えている。
「ち。」

地面には。

忍術に使用する「文字」がサッと浮かんで消えていく。
「土遁かよ・・。」
動きが鈍いのがわかる。この術式は、相手の動作を鈍くする。
頭の中でも、認識が鈍い。これじゃあ、いくら攻撃を特化する雷遁じゃなんともならない。
(やっぱ、氷遁で相手を止めとくべきだったか。)
読み合いに負けた時点で、勝負もほぼ確定なのだが・・・

「やあ。1対1もいいんだけど。僕もいるのに仕掛けた、って事は、2対1でもいいんだよね?」
魔導書を広げる彼は、妖精を呼び出し。「引いてくれれば、そこまでヒドイ事はしないよ。」
ニコニコとした笑顔だが、目が笑っていない。

「ラス!」「まったく。君はいつもトラブルを持ってくる。」
「・・・。」

「ああ。君。仕切り直しでやるなら、僕も気にしない事にするけど?」銀髪の青年は優しく。
「てんめえ。もうちょい俺の出番をふやせっ!」
目の前の忍術使いを全く気にせず、身内で口喧嘩が始まり・・・


ん?
見ると、もうあの忍術使いはいなくなっていた。
そよぐ海風が、なんだか和む。
空には陽がそろそろ中天に差し掛かろうかというところか。
こんな日には、何かいい事があってもいい。
いや、あるだろう・・・。たぶん。


そよぐ海風はなんだか和む。

目の前のララフェルは・・自分の投げた苦無を全て叩き落とし、当然のようにこちらに視線を向けてきている。
無駄とは思いながら、隠れてからの即歩術。ここで「印」を組むべく手印を組み込んでいく。
いわゆる、「術士」が「構成」を「編み」、「展開」させて、「呪」で魔力を乗せる事を、動作と、組み合わせでこなすのが「忍術」の奥義。
ただし、以上の条件故に、「相手に直接」とは行かない。
自分の強化や、自分中心での「展開」が限界。
しかも、組み合わせ次第で引き出したい「効果」が変わるために、相手に察知されたら対抗手段をすぐに用意されるのが欠点といえる。
が、そこは「読み合い」だ。途中までの「印」で、相手が勘違いしてくれるように「場」を作る。
ただの魔物相手だと、そこまで深読みするような連中はまず居ないから、なんでもいけるのだから、おざなりの組み合わせをする事もあると、師が嘆いていた。

ベルは、その点でも十分理解して、相手を落とし穴に入れて見せた。
が。
(しまった!)
そもそも、相手が二人で、片方は(海賊襲撃でも)なにも出来ないと、決め込んでいた。
青年が魔導書を片手に、妖精を召喚した時点で、自分に勝ち目はゼロ。
(くそ!)
足早にその場を駆け出し、
「あー。こんな日には良いことくらいあってもいいんじゃない?」と。ぼやいてみる。


そよぐ海風が、なんだか和む。
空には陽がそろそろ中天に差し掛かろうかというところか。もう少し過ぎたかもしれないが。
こんな日には、何かいい事があってもいい。
いや、あるだろう・・・。

ユパは、少女に構うこともなく、というか。
残りのといえば失礼かも知れないが、やはり女同士なのか。
こう、同じ空気の結界に入り込めない。
銀灰色の髪に、赤銅色の肌。そして、厳しい顔(望んだわけではないが、否定もする気もない)に、どうしても大きい体格。
これでは、ヒューランの少女や、ミコッテの女性からすれば、十分以上に「イカツい」
だったらなんで、おいらに?となるが、纏っている空気が柔らかい、とか、頼りがいになる体?と、「なんとなく」で説明がついてしまって。

これまた、困った依頼というか、放っておけないのだけれど。
女性陣二人が「変質者~」とか「女の子同士、楽しくいこうね。」なんて。
絡んでこられたら、もうどうしようもなく。
まあ、言ってしまえば、この二人に彼女を任せてしまってもいいのかもしれないが・・
ただ。
少し気がかりもある。
ユパは、まずこの二人を知らない。ということで、いきなり丸投げするのは無い。
そして・・・もしかすると・・。
いや、まだ、確認はしていないし、するには「彼女の尊厳」を確認しなければ。

「とにかく、進もう。」女性陣は、花を見つけると少女に見せつけては、輪っかにして首飾りや、頭に飾り付けて楽しんでいる。

こんな少女と一緒だと、チョコボや、移動術式も使えない。
そういう意味では、白魔道士と竜騎士のコンビは頼もしい。

ただ。

「剣聖、ユパ殿とお見受けいたしました。是非、お手合わせをしていただきたい。」
と、竜騎士から今晩の「デュエル」を申し込まれたことだ。
今は「剣聖」の看板は降ろし、「見つけるもの(シーカー)」として、あちこちを巡る旅路であって。が、彼女にも何かの目標はあるのだろう。
ここで引いては、「シーカー」ではなくなる。
「ああ。おいらで良ければ。」

夕食を終え、少女をあやす?のか、なにやら怪しい事を吹き込んでいる相棒に目配せをした竜騎士。

「おいおい。もう?」
「はい。」
「じゃあ、もう少しあっちで頼む。」
正直、女の子(といえば、怒るだろう。軽んじるな!)と、やり合うのは気が引けなくもない。
が、それも試練の一つ。だろう。


少し離れた場所で。


「では。」くだけた感じでユパは、右手に剣。左手にソードブレイカー。
「お願いします。」フェリセッタは、一礼をし、跳躍のための腰だめを。

初手は、跳躍からのランスの一撃。
が、見た目通りの攻撃なので難なくかわす。
「挨拶代わりです。」この後、足払いからの槍の連打。
「やるね。」足払いは軽いステップでかわし、連打はソードブレイカーを使って一撃の威力をそぎ落としながら、同時に連打の速度も落としている。
ノコギリ状になった峰は、普通ならば相手の刃を受け、違う方向に力を向けることで「刃を折る(ソードブレイカー)」だ。今回は、その溝を使って摩擦を引き起こし、速度を殺しながら。
こちらからの攻撃をどこから突きこむのか?そこに。

誘いの一撃が突きこまれて。
乗るものか。
が。
実は本命の一撃。
それを

「やるじゃないか?」
「いえいえ。さすが、剣聖。」

長短二本の剣で受けきり、ユパは正直な感想を。

「じゃあ、そろそろおいらも。」
・・・
「体が温まってきたんでな。悪くおもうなよ?」
「是非。」



そろそろ、星が見え始め、フェリセッタは大の字に寝転んで。
「星空もいいものだね・・。」




そよぐ海風が、なんだか和む。
空には月がそろそろ中天に差し掛かろうかというところか。
こんな日には、何かいい事があってもいい。
いや、あるだろう・・・。


「あ。ステラさん!」
エフェメラは、リムサ・ロミンサに行く定期便の船町に。

フェリードック、今はベスパーベイ。
ここにオススメの露天店があると連絡をして(以前に連絡先は聞いていた)

「へー。ザナラーンにこんなトコあったんですね。」と金髪の彼女は周りをキョロキョロ。
「ま、ね。ここはね・・(実は、かの魔女の家族が経営、というか、シェフが旦那さんなんです。)」
「ええええっっ!!!!!」
(声、大きすぎます・・・)
(あ、ごめんなさい・・。でも、本当なんですか?)
「うん。これまた知り合いの社長さんが石像なんて届けたってんで、有名になったんです。」
「へ~。」言葉も無い。
「まあ、その石像はさすがに店頭にはありませんけどね・・。」(噂では、即日で店頭から撤去された(破壊?)らしいが・・)
でもまあ。

「あの?」
「うん。」
「海戦料理、ってありますけど?海鮮の間違いですよね?」ステラはそういう意味で看板に目が行ったよう。
「ああ・・・合ってるよ。ソレ。」
「え?」
「いや、旦那さん、海賊船アスタリシア号でコックしてたんだってさ。」ニカっと笑う。
「ソレって・・」
「なかなか、いいジョークでしょ?」
「確かに。」

二人は、「海賊つながり」な料理を楽しみながら、潮騒と、月明かりで乾杯を。

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