1006外伝2 バルゼレッタ(小話)

そよぐ海風が、なんだか和む。
空には陽がそろそろ中天に差し掛かろうかというところか。
こんな日には、何かいい事があってもいい。
いや、あるだろう・・・。


ユパはひょんなことから、三人の女性と行動を共にしている。
(まさかの展開だなあ・・・)

理由といえば、リムサ・ロミンサの街で迷子の女の子と出会ってしまったからだ。
路上でいきなり服の裾を掴まれて、振り返ってみればヒューランの女の子が涙目でこちらを見上げている。
年の頃は・・10かそこらか?まだ、子供らしさが抜けないところから、おそらくそうだろう。
実際、他種族の年齢は量るのが難しいが、かつて一人のヒューランの少女と共に旅をしながら鍛えた事がある。
「どうかしたのかい?」とりあえず「元剣聖」は、できるだけ優しく。
「エールポート・・・」ぽそりと。
「ええと。」今からその辺の露天で昼食を、と思っていたのだが・・。
とりあえずは、この少女の話を聞いて、迷子なら親を探すなり・・・考えたくは無いが「置き去り」にされたのかも、とも。
どちらにしろ、この海賊の街で一人で放り出すのは気が引ける。
実際、子供達のギャング団とでもいうべき「チルドレン」と呼ばれる少年少女達のグループが複数あることだし。
「とりあえず、お腹は空いてないかい?」優しく尋ね、黙って首を縦に振る少女。

着いた露天店には、先客が二人。
共にミコッテの女性のようだ。
ただ・・・思った以上に今の自分達の組み合わせは、いかにもなんじゃないかな・・?なんて思いながらも、少し離れた席に陣取る。
まずは名前から聞いた方がいいだろう。そして、この経緯もだ。
「お嬢さん、お名前は言えるかい?」店員に簡単に出せる(子供受けする)ようなものを注文。
しばしの沈黙。
「・・・ロセッタ。」赤毛の髪の少女は、少し俯きながら・・・
「そうか。まあ、まずはご飯にしよう。」言ったそばから、サラダと、揚げた魚の酢漬けが出てくる。
「おいらは、ユパ。ユパ・ボレーズ。良ければ、なんでおいらに付いて来たのか教えてほしいな。」
「・・・・・おうちに帰りたい。から。」少女は出されたオレンジジュースに口をつけながら。
「そうか。わかった。おいらで良ければなんでもしよう。」サラダと魚を小皿に取り分けて、少女に。
やっぱり、捨て子なのか・・・かの大戦以前から、田舎の方だと街中に連れてきて、迷子を装って子供を捨てていく事があると。
聞いていたし、知っても。そして、その子達が「チルドレン」を組織して、やがては海賊になっていくとも。
(コレは、責任重大、だなあ。)

「ねえ?」黒髪の女性は、傍らの女性に。
「なに?エグ。いや、ダメ船長サマ?」答えた茶色の髪の女性。二人揃ってミコッテ。
普段着なのだろう、質素ながら品の良さはセンスがいいのか、お金持ちということか。
「あのさ~。ヘコムからヤメて~」倦怠感溢れる言葉だが、視線は珍妙な二人組に。
「もしかして、今のカップル?」フェリセッタは「ああいう趣味って、本当にあるもんだねえ。」
「え?まさか、アレ、カップル?」
「親子じゃ無いっしょ。」
「私は、てっきり誘拐かとホンキで信じてるんですけど。」
「ああ!なるほど。そういう発想!・・・・・短絡的過ぎて、大声あげて笑ってもいい?」
「えー!?なんでそーなる?」
「どう見ても、アレは保護してるでしょ。」
確かに、小皿に料理を取り分けたり、子供向けのジュースを注文してるあたり、そうにも見えるが、誘拐した後の懐柔策に見えるエグニール。そして、そのことを・・
「ダメ船長殿。そんなの、こんな目立つ露天でやってる方がオカシイ。それに、あのルガディンは「二つ名」持ちだよ。
それに、カップルって言い方は、別に恋人じゃなくて二人いれば成立だしね。」フェリセッタはにべもない。

「じゃあ、いっちょ話しかけてみる?」「そうね。ちなみに、記憶が正しければ、彼は「剣聖」よ。今は称号を譲ってるんだけど。」「げ!?」

かような経緯で、遅めの朝食を摂った4人は、徒歩でエールポートを目指して。
いい風が過ぎていく・・・



そよぐ海風が、なんだか和む。
空には陽がそろそろ中天に差し掛かろうかというところか。
こんな日には、何かいい事があってもいい。
いや、あるだろう・・・。

「おい、ラス!」ララフェルの青年はオレンジのゴーグルを額の上に上げ、黒髪(先は紫色に染め上げている)を風に任せている。
「どうしたんだい?ルジェ。」呑気な銀髪のミコッテの青年は、草原に大の字になって寝転がっている。
「いや。なんとなくなんだが。」
「ああ?」
「のんびりし過ぎじゃないか?」ルジェが物足りないような表情を。
横目で見返しながら「先のお仕事で貰った報酬でバカンスを楽しむ。いいことじゃないか。」
確かにもっともだ。ろくな賃金も出ないような「お使い」の仕事を一日に何件もこなすより、ああいったハデで、儲かる仕事はそうそうあるものでもない。
例えば、どこぞの迷宮に潜り込む、なんて話があれば別だが、それはそれで疲れる。やはり、休息は必要なのだ。
「そうかもだけどな・・・」
が。
「そうも言ってられない。」
キン。
乾いた金属音が鳴る。
「いい日、だ。」ルジェは、抜いた小刀を斜に構えつつ、近くの岩を眺める。
足元には・・・苦無。


そよぐ海風が、なんだか和む。
空には陽がそろそろ中天に差し掛かろうかというところか。
こんな日には、何かいい事があってもいい。
いや、あるだろう・・・。

ブルーム・ベルは、なんとなく港町であるリムサ・ロミンサをぶらついていた。
まだ、朝食を終えた(遅めの)ばかりで、少し運動の一つでもしようか。と、郊外から街の外に。
そこで思わぬ人影を見た。
「あいつ・・」
焦げ茶色の髪のミコッテの女性は、なんとなく。ではなく。ちょっとした好奇心と、挑戦をしたい。と考え。
ミコッテと、ララフェルの青年の後を少しばかり見ながら。
懐から苦無を取り出す。
利き腕の右手に2本、左手に1本。

目の前には小ぶりだが、なんとか身が隠せそうな岩。
ついでに、師いわく。「目立つな」が教えだったので、黒衣森や、夜でもない今は「白い」方が目立たない。
ヘンに草原の緑に溶け込むのはムリがあるし、そうであれば、日光を反射する白い装束がいい。
できるだけ耳を隠さないようにバンダナを締め直し(結構難しい。)
ささっと、岩陰に。
そして、ちょっとだけ思う。
(あの、船内ではケリは着けれなかったけど・・・もうちょっと、たのしんでもいいだろ?)
わかりやすい気配を抜きにして、昼寝?をしているミコッテの青年に苦無を投げつける。
もちろん、中らないように。

それを。
キン。

澄んだ金属音を響かせて、ララフェルの忍術使いが小刀を使い、器用に弾く。
さすがだ。
オレ的には、黒衣森あたり、深夜でやりあいたかったが。これはこれで「いいものだ。」
「楽しませてくれない!?」
忍びにはあるまじき宣戦布告と共に岩陰から躍り出る。
東方由来の忍刀を抜きつつ。

うん。相手は二人。
多分、楽しませてくれるだろう。
「良い日。」



そよぐ海風が、なんだか和む。
空には陽がそろそろ中天に差し掛かろうかというところか。
こんな日には、何かいい事があってもいい。
いや、あるだろう・・・。

ユキネは、陽が中天に差し掛かるまえに、早めの昼食を。
つい先日。初にして、異例の大抜擢の仕事を終え社内評価は上がった、と思っていて。
そして、それは自己評価だけでなく。
「今回の事に、だ。その、非常に高評価を得たワケだ。」
上司、ファットチョコボこと、バルバ氏。豊満な腹部を持つルガディンは、彼女に。
「スポンサーが、ぜひ君と茶会をしたいと申し出ている。光栄なことだろう?」
(ああ・・コイツは、自分をダシにして、さらに「スポンサー」に取り入るつもりか・・)
「はい・・ですが、私なのでいいのですか?」
「ああ。君は十分以上に役割をこなしてくれた。クライアントも満足していたし、スポンサーまでもが評価しているんだ。こんな部下を持って、僕は幸せだよ。」と、
抱きつきそうになって迫ってきた上司を軽くかわし。
「せっかくのティータイム、お呼ばれさせていただきます。」営業スマイルで。
(まあ、スポンサーって言っても、あの豪華客船はクライアント側で用意したもんだし・・どれほどのものかしら?)少し冷めた感じで、渡された住所を見て、顔が引きつる。
「え?まぢ?」
記されていたのは・・・


「やあ。いらっしゃい。」
豪華な館、そこに普段着で入るのはさすがにムリなので、一番豪華な(手持ちで)服で迎えられる。
「はい。今回は、お招きに預かりまして、誠にありがとう御座います。クォ・シュバルツ氏。」
もうガチガチ。最高級のラウンジに、給仕娘達が控えていて、席に案内される。
「おい、アドルフォ。」黒いミコッテは、初老のヒューランに目配せをして、退出させる。
・・・・・緊張で尻尾がどうにかなりそうな中、かろうじて席に着き、ユキネはかろうじて。
「あの・・なぜ?私なんですか?」
「ああ。君の臨機応変な対処を見ていた人が居てね。ぜひ、人となりが知りたかった。それだけだと不満かい?」金色の瞳は、怪しげで、艶やかだ。
「いえ・・その・・・」答えに困る。
「まあ、お茶に誘ったのだから、まずは喉を潤さなくては。失礼した。」
その一言で、お茶のセットが運ばれ、カップに注がれていく。
(うう・・・こういう時の作法、ちゃんと勉強しとくんだった・・・)が、いまさらである。
「ああ。気にしなくていい。」先を読んだような言葉に、もう動けない。
「こうすればいい。」
言って、漆黒の当主は、無作法にカップを取り上げると、ぐいっと一飲みし、音がするほどの動作でソーサーにカップを置く。おそらくは、カップだけで相当な値段だろう。
「え~っと・・」我ながら、マヌケな対応だったが、真似るわけでもなく、普段の香茶の飲み方を。
「いい。こんなものは、見かけであって、実力ではない。君の実力を評価した上で、ここに呼んだのだからね?」
「へ?」
「俺の下で働かないか?」
「え!?」
「今の会社には、そのまま勤務してくれていい。が、そこに俺からの「仕事」があった時に。」
「ええええ!!!!」
「いやなら、それは残念だ。今の話は無しにしよう。もちろん、だからといって君に危害が加えられる事は決してない。コレは約束しよう。」
「少し・・その・・」
「ああ。返事は三日後でいい。この」パールを、ころんとテーブルに。「一言。するか、しないか。だけだ。良い返事を待ってるよ。」


館を後にして・・・
(なにこの、最上と最悪の天秤。良いことと悪いことって、ホント・・紙一重、ってやつ?)
とりあえずは、夕食を何にするかだけれど・・
「明日、どのツラで職場に行けばいいんでしょーかね?」
独り言を呟きながら、そろそろ夕暮の街を歩いて行く・・・

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