まだ、少しどころか。
暖炉は未だに木々を欲しているし、住人達もその想いは同じ。だろう。
外は、寒風が吹き荒れ、時折雨ではなく、振り落ちてくる白い友人。
まだ、雨の方がマシだ、と。衛兵は思いながら、クシャミをする。
雪は、無音だ。ただ、無音のまま訪れる。
雨は濡れて、寒い。その一点においては同じだが、足音がする。
しとしと、ザー。と。
しかし、雪はただ。
無音なまま、ただ。
そう。ただ、降り積もる。
気が付けば、自分がその中に埋もれるまで。
「くそ!」いつものことながら、ここでの警備はそういうものだ。
衛兵は懐中時計を取り出し、交代時間がまだ先だという事実を認識するのを拒否したかった。
「ち!・・・どうなってやがる・・・」
相棒は門を挟んで向こう側。
グチの一つも聞いてもらえない上に、聞いてもらったところで現状は変わらない。
クルザス地方、ホワイトブリムや、ドラゴンヘッドでは日常茶飯事。
そう、一言でいえば楽なのだろう。
「上は」
末端に近い衛兵である自分達は、安いペイ(給料)で突っ立てはいる。でもなあ。
まったくワリに合わない・・・
ただ、あの上司というか・・貴族に名を連ねるオルシュファンは、貴卑ではなく、なんていうか。
「鍛えている」人が好きらしい・・・
同性愛者ではないとは思いたいが、逆に鍛えていれば処遇は悪くない。
「これも、試練、か。」ため息を他人に見せることなく、警らを滞りなく。
「ミンフィリア。聞いて欲しい。」
銀髪の少年。
「改まって・・どうかしたの?アルフィノ?」
金髪の女性は少し驚いた感じで。
「実は・・・」
「!?」
「了解していただきたい。ついては、賢者達を招集してくれ。」
「・・・・・・それは。いいでしょう。ルイゾワ様が・・・望んだ事を貴方が、いえ。貴方々が。」
「僕も・・・こういう結果を望んでいたのか、どうなのか。それはわからない。でも。あえて、問うてみたいんだ。」
「そう・・・。わかった。」
「石の家」と呼ばれる一室で、二人の会話はここで詰まり、沈黙が支配していく・・・。
砂嵐は夜半には過ぎ去ったよう。
「夜の・・この、静けさは素敵。」
「はい。」
石造りのテラスに、ドレスに身を包んだララフェルと、厳しい装備をまとったヒューラン。
「ねえ、ラゥバーン?」
「はい。」
「この・・・書状。どうすべきかしら?」
「ナナモ陛下・・・」
一国を担う、若き女王と、その「剣」たるを自身に刻み込んだ剣の覇者。
「勝手、よね・・」
「それは・・。」
「今更、3国の「エオルゼア同盟」なんて。」
「・・・・お言葉ながら。グランドカンパニーの設立の基本的な条約として、今回の件はあって然るべき、だと。」
「!」書状を床に叩きつける。
「こんな!・・・こんな・・・。自国ですら、あやふやな政治しか・・・私にはできない。」
こぼれ出る悲痛な声。
「いえ。陛下はしっかりとされています。不備は我らの不始末。お心を傷めなきよう・・。」
「ラゥバーン。」
「はい。」
「この・・・。」
もう一枚の書状。
「はい・・」
「暁のもとから、武力派閥が独立を宣言した。コレについての意見を。」
「はい。彼らは、蛮族、及びその崇める神の討伐を中心に行っております。
今回のグランドカンパニーの統一は、先の大戦以降その存在自体が曖昧になってしまい・・・リーダーであるところの、アルフィノ氏は若輩ながら、信念を持った方。
彼がその「道標」となって頂けるなら、我らもうなづくべきかと。」
「・・ふん。所詮。」少女は。編んだ髪を風にまかせようとして、失敗して。
「この国と変わらぬではないか。」
俯き・・
「なにを・・」ハイランダーの偉丈夫が気遣わしげに女王に近づく。
「この国は・・・病んでおる。」
「・・・・」
「そなたの言うところの、新組織。名を・・なんと言ったか?」
「いえ・・まだ、聞いておりません。」
「そうか。では、わらわの知っておる事を言うぞ?」
「・・はい。」
「砂蠍衆から、資金を集めておる、のだろう?」
「・・はい。ですが、私の情報では、汚れたものではなく、全うなものであると。」
「では、誰であるか?」
「・・・名前は・・明かせません。」
「わらわの命であってもか?」
「・・・はい。」
「・・・・」
「申し訳ありません。今、その名を明かすと、かの出資者に不利益になります。」
「お前も・・・そうなのか・・・」
「は?」
「テレジ・アデレジの所業・・・わらわも、見過ごす事はできぬと。手は打ってきた。しかし、彼奴めの金で全てが押し流された。なんのための国家。なんのための王家か。」
悔しすぎて、涙があふれる。
「やつは・・狡猾です・・仕掛けを見つけるには・・・」
「よい。」
溢れる涙を拭わずに。
「わらわは・・・」
どうすればいいのだ?まだ、少女と言ってもいい女王は泣き崩れる前に・・
目の前の偉丈夫の胸に飛び込んだ。
うっ・・う・・・・・・・
陛下・・。剣を相手にすれば、なんとでもこなしてきたが・・こんな少女に泣きつかれては・・どうしようもない。
(後は任せておきなよ。)
風に乗って声が。
(すまん・・・)
(貸、一個追加ね。)
(ああ、安いもんだ。)
「陛下。夜風は体によろしくありません。侍女を呼びますので、少しお待ちを。」
「もう少し・・・」
「はい。」
「んで、色男。この先はどうすんだ?」
「いらんことを。陛下に懸想などするわけないだろう?」
ハイランダーの剣士と、魔女。
「冗談だよ。」
「今の冗談は、貸を一つ返せるな。」真剣に。
「そりゃ、なんでも好きにして。」グレイの髪を軽く振る。流されるひと房の髪がマントようにはためく。
「ふん・・問題は山積み、だ。残念ながらな。」
「あら。あの坊やが「暁」から外れた武装組織を作るんじゃないの?」
「さすが、か。ただ、その一端は上層部しかしらん。本心がどこにあるのかも、な。」
「へー?と言うと?」
「・・・言うと思ったか?」
「こっちは情報流したじゃん?見返りないなら、さっきの貸借りはチャラでいいけど?」
「・・・。魔女・・。いいだろう。」
「ほう。」
「ま、さ。こんな場所だと、誰かに聞かれちゃうかもだし。」
ポケットから笛を取り出し。
ピュ~
「おい!」
魔女は、やってきたアーリマンに「ごめんね。ちょっとこの辺飛んでおいて。」
その後に蒼い光がまとわりついていく。
さらにエーテライトをいくつか経由して。
「なんでここなんだ?」
ラウバーンは、見慣れた街並みに。
「帰るときに楽でしょ?」あっけらかんと魔女。
「意味がわからん。」
「まあ、まあ。」と、不滅隊の本部の前に。
「ココなら、問題なくオシャベリできるでしょ?」
「・・・なら、最初からそうすれば。」
「気にしない。」にこやか。
「まったく。」本当に引っ張り回す、いや、引っ掻き回す、な。
「あ、そこの部屋使うねー!」勝手に隊員を押しのけて、空き部屋(なぜ知ってるのかがわからない)
「さあて。大事なお話しようか。」
これ以上ない、魔女の真顔。
「いいだろう。天魔の魔女。できるならば、迷惑来訪者じゃないことをお願いしとくよ。」
「それはこの街で付いた名前だっけ。あたしも迷惑してるんだ。」
「じゃあ、人災は?」
「そっちはリムサだ。けど、嬉しくないわね。」
「同じアラミゴの出だ。もう少し友好的にしたいね?」
「そうね。あの女もそうだけど。」
「・・・ミンフィリア、か。」
「ええ。帝国の二重スパイあがりが、いいツラしやがってね。」
「もう・・済んだんだろ?それは。」
「・・・まあね。ちょっとくらいは言いたくなるものよ。」
「で?俺にもスパイ容疑を?」
「まさか。女王様はお気に入りだし、一番美味しい立場なのに、貴方は真剣に彼女を護る立場を崩さない。そんな人を疑うほどバカじゃない。」
「じゃあ?」
「この・・組織に、スパイがいる。」
「は?」
「今は、特定できないけど・・身近にいるから。気をつけろ。」
「おい?」
「じゃあ、終わり。深夜のデートがバレたら、旦那が黙ってないから。これにて退散。」
「待て!せめて、理由くらい聞かせろ。」
「・・・陛下の心痛を・・。それと、クルザスでヘンな動きがある。これに連動してるだろう?」
「それは・・(確かに・・)」
「下っ端じゃない、誰かが監視してる。スケアクロウ(カカシ)程度じゃすり抜けられるぞ?」
「どう、すればいい?」
「簡単だ。あの坊やの提案に乗っかれ。そうすれば「居場所」が変わって、うろたえるかもしれないしね。」
「誰が・・怪しい?」
「さあ?こればっかりは、今すぐには答えられない。案外、あの坊やの下で見つけるヤツが出てくるんじゃない?」
「あいかわらず、謎ばっかりだな。」
「それは、お礼だと受け取っておくわ。じゃあね。」ドアを開けるとともに蒼い光に包まれていく。何処に出たことすら秘匿する、いつもの手段。
「かなわねえな。」ラウバーンは、ため息一つ。
「どうでしたか?」副官のエレゼンの女性。彼女もアラミゴ難民の一人で、自分が手塩にかけて育てた片腕。
「いや。いつもの雑談で引っ掻き回して、結局スタート地点だ。」
(とりあえず、今の話は誰にも話すな、って意味だ。よな?)
「そうですか。しばらくはお休みになってください。」と、一言を告げ、彼女は去っていく。
(さて・・どこから洗うべきなんだろうな?)不安の種を植え込んでおいて、本人はどこかに。
ハイランダーの隊長は、ソファで居眠りを決め込んだ。
不安の種を撒いた。あとは収穫されるのを待つ。
「さて。ハーヴェスト(収穫者)は誰だろうね?」グレイの髪を揺らしながら。
案外、身内にいたりしそうで、なんとなく遠方に視線を。
「ま、ないか。」
なんせ、身内は・・・一人を除いて、無害な一般人だ。元(イクス)は全員に近いが・・。
「ターシャには、まだ早いからなあ・・。」一番の危険人物はまだ幼年学校に入ったばかり。
息子は人畜無害だし、娘も結婚してからは一般家庭の主婦。たまに乱闘を起こすが、大したことはない。娘婿も厄介だが、基本は大人しい。
彼の双子の妹はさらに大人しいので、まったく問題はない。
でも。
この国、いや、世界で起こりうる混沌に対処するには、この子達も必要になるのかもしれないが、願わくば、そんな役回りは自分の代で終わりにしたい。
「お師さん。」胸に手をあて、祝福を祈る。
(生まれた意味を知る・・か。深いよ。)
「魔女、ね。まったく。人の名前をなんだとおもってやがんだー!こんにゃろー!」
道端の小石を掴んで、海辺に放り投げる。
「不審者がいると聞いて、見に来ました。たぶん・・だと思いましたんで。」
「ウルスリー。小石投げて不審者ってちょっと失礼じゃないかね?」
「レティさん。数に限度があります。」
「ちゃんと海に投げてるって。他人にあたらないようにさ。」
「ええ。ですが、カルヴァラン氏が、こちらの船に投石をしている者がいると・・・」
「百鬼夜行の船なんてしらないわよ。」
「・・・ちょっとした砲撃クラスの投石って、伺いましたけど・・」
「・・・・たまたま、そのくらいの石があったかもしんない。」
「とりあえず、酒場までいらしてください。」
「・・・あいよ。」
「はあ。やっぱアンタか。」日焼けしたエレゼンの青年がいつもの礼儀正しい姿から、少し脱力。
「カルヴァランさま。非礼はお詫びします。」
「おい、ウルスリ。謝るこたねーぞ。」
エレゼンの女性と、ヒゲのヒューラン。
「で?」
不機嫌なのか、どういう感情を出したものか考えあぐねているのか。
「天魔の魔女」と呼ばれる女性は、酒場「溺れた海豚亭」のカウンターの席に。
片肘をつき、顎をその手の甲に委ねながら。
「呼ばれたから来たんだし。それに・・」エレゼンの男性に目を向け。「そっちの船に迷惑かけたのは謝るわよ。」
「いや、ま・・その。」少しおっかなびっくりな頭領に。「なニ頭下げてンだ?オい!」
威勢のいい女性の声。
「いや、おい。フネラーレ。ちょっと落ち着け。」女性をたしなめるカルヴァランの声。
「おイ!?魔女。決着、今ここデやってやろうカ?」黒髪に、映えるような白い肌の人形のような女性というか、年齢不詳だ。
「あー、悪かったって。ここはあたしのオゴリだ。好きにしろよ。」
「僕はそのくらイで、ゆずらナいからナ!」と言いながら、好き勝手に注文を始めている。
「ただし。カードで勝てたらな?」不敵な魔女。いや、人災か?
結局全て以上に出費がかさんだカルヴァラン。
嵐の去った酒場にて・・・
「なんで、彼女はあんなに荒れてたんだ?」
「さあな。キナ臭い話がこっちにも流れてきてる。」答えるヒゲの店主。
「そうか。やはり、か。おい。リッ・・フネラーレ。帰るぞ。」
そろそろ陽が陰り始めている。
「お気をつけて。」ウルスリが見送りを。
「じゃあな。」
「ああ。また呼ばれにくるよ。その時は石の苦情抜きだ。」
「だな、それ以上に問題が無ければいいんだけどな。」
「言うなよ。」
互いに手を振り、別れる。
厄介事というのは、言の葉に乗せられて、やってくるものなのだ。
そんな事は、経験や迷信じゃなく「体験」で知っている・・・
海賊あがりのメンバー達は、よく理解していて。
「大丈夫・・だといいのですが・・」
森の都に住まいを移したカヌ・エ・センナは、両手を胸の前に合わせて・・・
ただ、祈るしかない自分の無力さを恨めしく・・