995外伝2 事態の収拾に引っ掻き回される事になる・・前哨戦。

まだ、少しどころか。
暖炉は未だに木々を欲しているし、住人達もその想いは同じ。だろう。
外は、寒風が吹き荒れ、時折雨ではなく、振り落ちてくる白い友人。
まだ、雨の方がマシだ、と。衛兵は思いながら、クシャミをする。
雪は、無音だ。ただ、無音のまま訪れる。
雨は濡れて、寒い。その一点においては同じだが、足音がする。
しとしと、ザー。と。
しかし、雪はただ。
無音なまま、ただ。
そう。ただ、降り積もる。
気が付けば、自分がその中に埋もれるまで。

「くそ!」いつものことながら、ここでの警備はそういうものだ。
衛兵は懐中時計を取り出し、交代時間がまだ先だという事実を認識するのを拒否したかった。
「ち!・・・どうなってやがる・・・」
相棒は門を挟んで向こう側。
グチの一つも聞いてもらえない上に、聞いてもらったところで現状は変わらない。


クルザス地方、ホワイトブリムや、ドラゴンヘッドでは日常茶飯事。
そう、一言でいえば楽なのだろう。
「上は」
末端に近い衛兵である自分達は、安いペイ(給料)で突っ立てはいる。でもなあ。
まったくワリに合わない・・・

ただ、あの上司というか・・貴族に名を連ねるオルシュファンは、貴卑ではなく、なんていうか。
「鍛えている」人が好きらしい・・・
同性愛者ではないとは思いたいが、逆に鍛えていれば処遇は悪くない。
「これも、試練、か。」ため息を他人に見せることなく、警らを滞りなく。


「ミンフィリア。聞いて欲しい。」
銀髪の少年。
「改まって・・どうかしたの?アルフィノ?」
金髪の女性は少し驚いた感じで。
「実は・・・」
「!?」
「了解していただきたい。ついては、賢者達を招集してくれ。」
「・・・・・・それは。いいでしょう。ルイゾワ様が・・・望んだ事を貴方が、いえ。貴方々が。」
「僕も・・・こういう結果を望んでいたのか、どうなのか。それはわからない。でも。あえて、問うてみたいんだ。」
「そう・・・。わかった。」

「石の家」と呼ばれる一室で、二人の会話はここで詰まり、沈黙が支配していく・・・。



砂嵐は夜半には過ぎ去ったよう。
「夜の・・この、静けさは素敵。」
「はい。」

石造りのテラスに、ドレスに身を包んだララフェルと、厳しい装備をまとったヒューラン。

「ねえ、ラゥバーン?」
「はい。」
「この・・・書状。どうすべきかしら?」
「ナナモ陛下・・・」

一国を担う、若き女王と、その「剣」たるを自身に刻み込んだ剣の覇者。
「勝手、よね・・」
「それは・・。」
「今更、3国の「エオルゼア同盟」なんて。」
「・・・・お言葉ながら。グランドカンパニーの設立の基本的な条約として、今回の件はあって然るべき、だと。」
「!」書状を床に叩きつける。
「こんな!・・・こんな・・・。自国ですら、あやふやな政治しか・・・私にはできない。」
こぼれ出る悲痛な声。
「いえ。陛下はしっかりとされています。不備は我らの不始末。お心を傷めなきよう・・。」
「ラゥバーン。」
「はい。」
「この・・・。」
もう一枚の書状。
「はい・・」
「暁のもとから、武力派閥が独立を宣言した。コレについての意見を。」
「はい。彼らは、蛮族、及びその崇める神の討伐を中心に行っております。
今回のグランドカンパニーの統一は、先の大戦以降その存在自体が曖昧になってしまい・・・リーダーであるところの、アルフィノ氏は若輩ながら、信念を持った方。
彼がその「道標」となって頂けるなら、我らもうなづくべきかと。」
「・・ふん。所詮。」少女は。編んだ髪を風にまかせようとして、失敗して。
「この国と変わらぬではないか。」
俯き・・
「なにを・・」ハイランダーの偉丈夫が気遣わしげに女王に近づく。
「この国は・・・病んでおる。」
「・・・・」
「そなたの言うところの、新組織。名を・・なんと言ったか?」
「いえ・・まだ、聞いておりません。」
「そうか。では、わらわの知っておる事を言うぞ?」
「・・はい。」
「砂蠍衆から、資金を集めておる、のだろう?」
「・・はい。ですが、私の情報では、汚れたものではなく、全うなものであると。」
「では、誰であるか?」
「・・・名前は・・明かせません。」
「わらわの命であってもか?」
「・・・はい。」
「・・・・」
「申し訳ありません。今、その名を明かすと、かの出資者に不利益になります。」
「お前も・・・そうなのか・・・」
「は?」
「テレジ・アデレジの所業・・・わらわも、見過ごす事はできぬと。手は打ってきた。しかし、彼奴めの金で全てが押し流された。なんのための国家。なんのための王家か。」
悔しすぎて、涙があふれる。
「やつは・・狡猾です・・仕掛けを見つけるには・・・」
「よい。」
溢れる涙を拭わずに。
「わらわは・・・」
どうすればいいのだ?まだ、少女と言ってもいい女王は泣き崩れる前に・・
目の前の偉丈夫の胸に飛び込んだ。

うっ・・う・・・・・・・

陛下・・。剣を相手にすれば、なんとでもこなしてきたが・・こんな少女に泣きつかれては・・どうしようもない。

(後は任せておきなよ。)
風に乗って声が。

(すまん・・・)

(貸、一個追加ね。)
(ああ、安いもんだ。)

「陛下。夜風は体によろしくありません。侍女を呼びますので、少しお待ちを。」
「もう少し・・・」
「はい。」


「んで、色男。この先はどうすんだ?」
「いらんことを。陛下に懸想などするわけないだろう?」
ハイランダーの剣士と、魔女。
「冗談だよ。」
「今の冗談は、貸を一つ返せるな。」真剣に。
「そりゃ、なんでも好きにして。」グレイの髪を軽く振る。流されるひと房の髪がマントようにはためく。
「ふん・・問題は山積み、だ。残念ながらな。」
「あら。あの坊やが「暁」から外れた武装組織を作るんじゃないの?」
「さすが、か。ただ、その一端は上層部しかしらん。本心がどこにあるのかも、な。」
「へー?と言うと?」
「・・・言うと思ったか?」
「こっちは情報流したじゃん?見返りないなら、さっきの貸借りはチャラでいいけど?」
「・・・。魔女・・。いいだろう。」
「ほう。」
「ま、さ。こんな場所だと、誰かに聞かれちゃうかもだし。」
ポケットから笛を取り出し。

ピュ~

「おい!」
魔女は、やってきたアーリマンに「ごめんね。ちょっとこの辺飛んでおいて。」
その後に蒼い光がまとわりついていく。

さらにエーテライトをいくつか経由して。
「なんでここなんだ?」
ラウバーンは、見慣れた街並みに。
「帰るときに楽でしょ?」あっけらかんと魔女。
「意味がわからん。」
「まあ、まあ。」と、不滅隊の本部の前に。
「ココなら、問題なくオシャベリできるでしょ?」
「・・・なら、最初からそうすれば。」
「気にしない。」にこやか。
「まったく。」本当に引っ張り回す、いや、引っ掻き回す、な。
「あ、そこの部屋使うねー!」勝手に隊員を押しのけて、空き部屋(なぜ知ってるのかがわからない)


「さあて。大事なお話しようか。」
これ以上ない、魔女の真顔。
「いいだろう。天魔の魔女。できるならば、迷惑来訪者じゃないことをお願いしとくよ。」
「それはこの街で付いた名前だっけ。あたしも迷惑してるんだ。」
「じゃあ、人災は?」
「そっちはリムサだ。けど、嬉しくないわね。」
「同じアラミゴの出だ。もう少し友好的にしたいね?」
「そうね。あの女もそうだけど。」
「・・・ミンフィリア、か。」
「ええ。帝国の二重スパイあがりが、いいツラしやがってね。」
「もう・・済んだんだろ?それは。」
「・・・まあね。ちょっとくらいは言いたくなるものよ。」
「で?俺にもスパイ容疑を?」
「まさか。女王様はお気に入りだし、一番美味しい立場なのに、貴方は真剣に彼女を護る立場を崩さない。そんな人を疑うほどバカじゃない。」
「じゃあ?」
「この・・組織に、スパイがいる。」
「は?」
「今は、特定できないけど・・身近にいるから。気をつけろ。」
「おい?」
「じゃあ、終わり。深夜のデートがバレたら、旦那が黙ってないから。これにて退散。」
「待て!せめて、理由くらい聞かせろ。」
「・・・陛下の心痛を・・。それと、クルザスでヘンな動きがある。これに連動してるだろう?」
「それは・・(確かに・・)」
「下っ端じゃない、誰かが監視してる。スケアクロウ(カカシ)程度じゃすり抜けられるぞ?」
「どう、すればいい?」
「簡単だ。あの坊やの提案に乗っかれ。そうすれば「居場所」が変わって、うろたえるかもしれないしね。」
「誰が・・怪しい?」
「さあ?こればっかりは、今すぐには答えられない。案外、あの坊やの下で見つけるヤツが出てくるんじゃない?」
「あいかわらず、謎ばっかりだな。」
「それは、お礼だと受け取っておくわ。じゃあね。」ドアを開けるとともに蒼い光に包まれていく。何処に出たことすら秘匿する、いつもの手段。

「かなわねえな。」ラウバーンは、ため息一つ。

「どうでしたか?」副官のエレゼンの女性。彼女もアラミゴ難民の一人で、自分が手塩にかけて育てた片腕。
「いや。いつもの雑談で引っ掻き回して、結局スタート地点だ。」
(とりあえず、今の話は誰にも話すな、って意味だ。よな?)
「そうですか。しばらくはお休みになってください。」と、一言を告げ、彼女は去っていく。
(さて・・どこから洗うべきなんだろうな?)不安の種を植え込んでおいて、本人はどこかに。
ハイランダーの隊長は、ソファで居眠りを決め込んだ。


不安の種を撒いた。あとは収穫されるのを待つ。
「さて。ハーヴェスト(収穫者)は誰だろうね?」グレイの髪を揺らしながら。
案外、身内にいたりしそうで、なんとなく遠方に視線を。
「ま、ないか。」
なんせ、身内は・・・一人を除いて、無害な一般人だ。元(イクス)は全員に近いが・・。
「ターシャには、まだ早いからなあ・・。」一番の危険人物はまだ幼年学校に入ったばかり。
息子は人畜無害だし、娘も結婚してからは一般家庭の主婦。たまに乱闘を起こすが、大したことはない。娘婿も厄介だが、基本は大人しい。
彼の双子の妹はさらに大人しいので、まったく問題はない。

でも。

この国、いや、世界で起こりうる混沌に対処するには、この子達も必要になるのかもしれないが、願わくば、そんな役回りは自分の代で終わりにしたい。
「お師さん。」胸に手をあて、祝福を祈る。
(生まれた意味を知る・・か。深いよ。)

「魔女、ね。まったく。人の名前をなんだとおもってやがんだー!こんにゃろー!」
道端の小石を掴んで、海辺に放り投げる。


「不審者がいると聞いて、見に来ました。たぶん・・だと思いましたんで。」
「ウルスリー。小石投げて不審者ってちょっと失礼じゃないかね?」
「レティさん。数に限度があります。」
「ちゃんと海に投げてるって。他人にあたらないようにさ。」
「ええ。ですが、カルヴァラン氏が、こちらの船に投石をしている者がいると・・・」
「百鬼夜行の船なんてしらないわよ。」
「・・・ちょっとした砲撃クラスの投石って、伺いましたけど・・」
「・・・・たまたま、そのくらいの石があったかもしんない。」
「とりあえず、酒場までいらしてください。」
「・・・あいよ。」


「はあ。やっぱアンタか。」日焼けしたエレゼンの青年がいつもの礼儀正しい姿から、少し脱力。
「カルヴァランさま。非礼はお詫びします。」
「おい、ウルスリ。謝るこたねーぞ。」
エレゼンの女性と、ヒゲのヒューラン。
「で?」
不機嫌なのか、どういう感情を出したものか考えあぐねているのか。
「天魔の魔女」と呼ばれる女性は、酒場「溺れた海豚亭」のカウンターの席に。
片肘をつき、顎をその手の甲に委ねながら。
「呼ばれたから来たんだし。それに・・」エレゼンの男性に目を向け。「そっちの船に迷惑かけたのは謝るわよ。」
「いや、ま・・その。」少しおっかなびっくりな頭領に。「なニ頭下げてンだ?オい!」
威勢のいい女性の声。
「いや、おい。フネラーレ。ちょっと落ち着け。」女性をたしなめるカルヴァランの声。
「おイ!?魔女。決着、今ここデやってやろうカ?」黒髪に、映えるような白い肌の人形のような女性というか、年齢不詳だ。
「あー、悪かったって。ここはあたしのオゴリだ。好きにしろよ。」
「僕はそのくらイで、ゆずらナいからナ!」と言いながら、好き勝手に注文を始めている。
「ただし。カードで勝てたらな?」不敵な魔女。いや、人災か?


結局全て以上に出費がかさんだカルヴァラン。
嵐の去った酒場にて・・・
「なんで、彼女はあんなに荒れてたんだ?」
「さあな。キナ臭い話がこっちにも流れてきてる。」答えるヒゲの店主。
「そうか。やはり、か。おい。リッ・・フネラーレ。帰るぞ。」
そろそろ陽が陰り始めている。
「お気をつけて。」ウルスリが見送りを。

「じゃあな。」
「ああ。また呼ばれにくるよ。その時は石の苦情抜きだ。」
「だな、それ以上に問題が無ければいいんだけどな。」
「言うなよ。」
互いに手を振り、別れる。

厄介事というのは、言の葉に乗せられて、やってくるものなのだ。
そんな事は、経験や迷信じゃなく「体験」で知っている・・・
海賊あがりのメンバー達は、よく理解していて。


「大丈夫・・だといいのですが・・」
森の都に住まいを移したカヌ・エ・センナは、両手を胸の前に合わせて・・・
ただ、祈るしかない自分の無力さを恨めしく・・

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