984外伝2 ちょっとした思いつき。

うふふふ、にゃ~ん。

新緑の芽がそろそろ出だしたものの、まだ肌寒い、どころか
ちゃんとした上着を羽織っていないと風邪でもひきそうな。
昼間でもこの寒さだから、夜になるともっと寒い。
そんな街中でも、屋台探しに夢中な彼女はクマの毛皮のコートで完全対策をしている。
そして、その毛皮も茶色ならば、彼女の肌の色も茶色、髪も茶色で、その瞳だけが碧色。
そんなミコッテの名前は「ショコラ」

情報屋として活躍中だが、どちらかといえば本業がこの「屋台探し」になっているとは周りからの評価で、当人としては「フリーランスのなんでも情報屋」を看板にしている。
もっとも、情報のほとんどに近い部分がこの「屋台」なのは間違いないのだ。

ただ、少し「御法度」な情報も扱っているので目立つ事は避けないとダメなのだ・・・けど・・・彼女にはあんまり認識が足りないという・・・。

そんな彼女は、昼過ぎにちょっと見つけた「屋台」に視線を向ける。
「おお!」
なんだか、ちょっとよさげ。
何がいいかと言うと、大げさじゃなく、こじんまりとしていながらも「グっ!」と来る気配を察したから。
経験上、こういう店はハズレが少ない。
しかも、昼過ぎ、という時間帯であるにも関わらず、それなりのお客がいる。
これはかなり期待していいだろう。
昼食は軽めのもので済ませていた(もちろん、美味しい屋台で)ショコラは、ひょい、と覗いてみる。

すると、自分より少し年上の女性が一人で切り盛りしていて・・数席しかないスツールのお客と談笑しながらも、手を休めることなく料理を手際よく出している。
このスパイシーな香りは、ウルダハ風だろうか。

「あれ?」ふわっと金髪の女性は、こちらに目を合わせると「ショコラちゃん!」なんて。
いきなり呼ばれ、一瞬戸惑ったものの相手をよく見れば・・・
「マリーさん?」
「そうだよ!」
金髪の女性は嬉しそうに、今にも飛びついてきそう。

それほど親交があったワケでもないけど・・それでも旧交を温めるくらいには。
「えーと、マリーさんって、ウルダハに住んでるんだよね?」
「そうだよ。でね、あー、コッファー&コフィン、って郊外の酒場って知ってたっけ?」
「うん。行ったことはないけど・・」
「そこでしばらく働いてたんだけど、ちょっと出店してこいよって。最初は戸惑ったけど、マユちゃんから直伝の煮込みを教えてもらったし、腕試しって感じで。」
「へー。じゃあ、一ついただきますにゃ。」
「はいな!うちの主人も大賛成でね。」
「ほへー?」
「ほら、昔にこの街でやりあったでしょ?いろいろ。」
「うわー・・・あれ以来、フネラーレが社長さんをすっごい意識しちゃってさ、不機嫌な時に話題に出すのはNGなんだよ・・」
「そりゃそっか。」 看板には風見鶏。

「お嬢さん。なかなかに興味深いお話ですね?」
髪を桃色に染めたエレゼンの青年。
「は?ナンパならヨソでやってよ。」ショコラは袖にするも。
「まあまあ。こちらは、ジャンドゥレーヌさんて方でね。悪意は全くないから。ちょっと変わった性格だけど。」マリーは困りながらも、料理をミコッテの女性に差し出す。
暖かい湯気と、スパイスの香りが食欲を掻き立てる。
「ええ、レディ。どうぞお見知りおきを。」赤みがかったソースとライスの皿の上に乗り上げそうな感じで挨拶をしてくるエレゼン。
「どうも。でも。知らない方が良かった、って話は一杯あるから。ヤケドしないうちににゃ。」
「ええ!俺は、武器なんて物騒なものとは縁がありませんからね!ただ、貴女のような魅力的な方を見ると自分の創作意欲が掻き立てられるのです!」
「いいから、黙れ。まず、ちゃんと皿をカラにしてから話しかけろ。マリーの料理を台無しにする気か!」
ショコラはおもわず、大声を出してしまったが、マルグリットはニコニコしたまま、行くすえを楽しんでもいるよう。

とりあえず引っ込んだ青年は無視して、スプーンで一口。
「ひゃぁッ!」
つい、スプーンを取り落としそうになるくらいにスパイスの辛味が舌を独占して・・・
か・・からひ・・・
が。
じわり、とした後味の辛さの奥に、煮込まれた肉の旨みが出てくる。
辛い。これは間違いないけど・・
この寒さなのに、汗が出てきそう・・いや、もうすでに。
ただ。
これは、途中でヤメれない。
辛さと、旨みと、この交互にやってくる味覚は、確かにクセになりそうだ。
パラっとしたライスとの絡み具合もちょうどいい。ソースをふんだんに含んだライスはもう一口、と訴えてくる上に、合間合間に、煮込まれた肉と野菜。

確か、マユさんってかの魔女の娘だったはずだが、こんな才能もあるとは。
そういえば、父親が料理屋を営んでいたな・・
ショコラは、かきこむ様に皿を空けると「ごちそうさまにゃ。」
「どういたしまして。」金髪の女性はにこやかに。
「コレ、グリダニアだと・・いや、リムサでもないよね・・」
「ですね。アラミゴでもないんじゃないかしら?マユさんの母君もアラミゴ生まれだそうだけど。」
「みたいね。魔女の生れは諸説あるみたいだけど。」
「ただ、このレシピはマユさんのオリジナルだそうで、わたしだけにコッソリ教えてくれたんです♪」
「へー!」
「セレーノ・・息子は、辛すぎてダメー!っていうけれど。主人は気に入ってくれて。」
「ほうほう。」
「自分なりのアレンジもしてるし、そうする方がいいよって、マユさんからも。」
「なるほどね。オリジナルを、さらにオリジナルにしていくわけだね!」
「そうなんです!で、腕試しってことで・・」
「あ、そっか。お子さんもいるなら、長期はムリですよね。」よくあることだ。ショコラはそのへんの事情はよく知っている。
「今度、知り合い連中連れてくるね。」にんまり。
「ええ。よろしく!」


そろそろ、日も暮れて。
「あのさー?その、ジャンドゥレーヌさん?」
茶色いミコッテは、後ろに付きまとってきたエレゼンの男性に目を向ける。
「いかがしました?レディ?」
「言いたくないんだけどさ。わっちに関わると死ぬよ?」
「それはそれは!とても魅力的な女性ならではのお言葉です。デッド?アライブ?いい響きです。」
「本気で言ってる?」
「もちろん、です。」
「聞いておくよ。なんの商売してるの?」耳がピンと立つ。
「ふふ。俺の仕事は、老若男女を問わずっ!「今の自分を、一度殺し、新たなる自分に生まれ変わらせる」この一言に尽きます。」
「ながー・・・。」
「ざっくり言えば、美容師です。髪型や、メイクなどを専門に・・・」
「ざっくりきたー・・・・。」
「いかがです?」
「お値段は?」
「そうきましたか。いや、確かにそれは必須な条件でしょう。お任せ下さい。
このカリスマ美容師の俺が、たったの2000ギルで、貴女の人生を変えるほどのスタイルを提案しますよ。」
「高ーい。わっち、もう帰るから。ついてきたらマジで暗殺者呼ぶし。」
「ほほう、興味深い!俺の腕前を見ないうちに、暗殺者を呼べるなら、その代金は2000ギルよりも安い、と?」
「・・・・(フネラーレ、2000じゃ動かないよなー・・・絶対・・・)」
「おや?」
「わっちは、忙しいの。もう来るな。」
「おお、レディ。そんな貴女のために、こういう一枚があるのです。」
一枚のチケット。羊皮紙に直筆だろうか?男の名前が記されている。さらに。
「お試しチケット?」
「ええ!俺様の腕前を疑う方も多数おられまして。初回に限りお渡ししているのです。」
「タダ?」
「当然です!しかしながら、一回だけ、ですのでね。気に入って頂ければ、次回からもよろしくお願いしますよ。」
丁寧な礼をしている。

まさか、あのマリーもこいつの・・・いや、子育てもあるなかで、そんなに金額は使えないだろう・・

翻って、自分はといえば「館」に居たときは専属の美容師もいて、髪型や、衣装、装飾品に至るまで、そいつ任せだった。親が選んだ「モノ」に身を包み、飾られていて。
それは、ただの「餌」としての見栄え。
ただの嫁ぎ先をどこの骨だか分からないヤツと結婚させるための。
子供を産むとかじゃなく、ただの血縁だけの。

そんなの、まっぴらごめんと、気がついたのはいつだったか。

・・・「魔女」と初めて逢った時か。記憶力だけはイラナイくらい、鮮明に。
アスタリシア号攻略、と称した笑い話を愉快に語ってくれた、あの後。
まだ幼い自分に「お前の道は、お前が掴め。」と言ってくれた。
兄は楽しそうに聞いていた。
自分は、わたしは、わっちは。
「面白そうなのにゃ。こっちの好みは聞いてくれるのかな?」
「当然、ですよ。長さが足りないなら、それ用のフェイクも用意できますし、髪色も自由です。もちろん、こちらの提案もさせていただきますよ?」
「ふーん。じゃあ、この先の宿にわっちの部屋があるんだよ。いい?」
「おおせのままに。」


椅子に座ったあと、長めのシーツをかけられ、この部屋に二人だけ、という不安はあるものの・・・
「さて。いかがします?」
今の、短めのカットは、そのへんの髪切屋でしてもらっているので、これといった注文がないことに今更ながら。
「ベリーショートで。耳が映えるように。お願いね。」
つい・・「館」に居た時の口調に・・我ながら後悔をするも・・「伝説級の美容師さんにやってもらった事あるんだからね。ちゃんとしないと、本気で怒るから。」
「ええ。問題ないですよ。レディ。おそらく、その美容師は俺の師匠ですから。」
「!?」

シャキン、と音がするように・・いや、聞き間違いかも?

シザーを片付ける彼は、手鏡を差し出す。

「わああ・・。」

最後に。そう、あの美容師に「いっそ、ぶった切って。この館に居るの、もうイヤ。
だから、スッキリ、人生をやり直して、わたしだけの人生が送りたいの。わかってくれて?」

その甘えに。
「はい。お嬢様。仰せのままに。」
そして、お抱え美容師は、丁寧に長い髪を綺麗に。
そう。今までの「お人形」じゃない。
一人の女の子としての、お願いを叶えるように。
短く。
リセットしてくれた。
その時に見せられた記憶が蘇る。

「やるじゃん。」
当時の髪型。

もう、笑うしかない。
いいよ。コレ。スゴイな、こいつ。

「ねえ。もう一人。ちょっと紹介したい子がいるんだよ。」
「おお!」

ショコラは、ご機嫌な表情でパールを出して。
(あ、フネラーレ?ちょっと、時間ある?)
「こっちは、金持ちだから、ふんだくっていいよ。」美容師の青年に。(実際はカツカツらしいけど・・)
(ンだヨ?ショコラ。つまんない用事だったら、ぶっ殺スからナ?)
(フネラーレ~、またカルヴァランにまとわりついてる、あの女に対抗意識出してるッポイ。)
(・・・・・!!!!!そ・・そンな!おい!いいか?よく聞ケ!僕は、そんな事でイチイチ怒ったりしなイ!)
(またまた~)
(殺すゾ?)
(ナイスプランがあるよ?)
(・・・すぐに言エ。)
(今、リムサでしょ?)
(・・・・・)
(グリダニアに来てくれないと、いえないなあ。)
(・・・・わかッタ。)

「その・・ご紹介相手って?」
「うん。裏じゃ有名人だけど。だから、表立って言ったら、次の日にはお墓の下に眠っちゃうよ?」
「なるほど・・(葬儀屋・・か。確かに超の付くスタッバーだったな・・睨まれないようにしないとね)」
「でね。」
「はい?」
「彼女の住処はナイショだからさ。ここで合流。いい?」
「ああ。俺は構わないが。」
「でね、髪型に関しては、わっちの提案通りにして。」
「・・・いいんですか?」
「マンネリな恋人関係にちょっとしたスパイスが要る、って感じ?」
「なるほど。」
「見た目は「お人形」だけど。激しい性格なのと、ある程度こっちがやっちゃうと、おとなしくお人形になっちゃうから!」
「ややこしい人、ですか・・」
「そのぶん、綺麗に仕上げれば、その気になってはしゃいじゃうから。腕の見せどころじゃないのかな?」
「それは。レディ。素敵なご提案です。この、ジャンドゥレーヌ、思う存分に腕をお魅せましょう。」
「いいよね!」


「あー?おイ?ショコラ?グリダニアに来たゾ?」
真っ直ぐな黒髪を背中まで伸ばした、黒装束の女性。
多分に不機嫌そうなのは、やはり巷で「ヴァレンティオン・デー」なるイベントで気が立っているせいだろう。いわゆる「本番」は少し先ながら、先手を打つのは常だ。
(はいはーい。)
ショコラは、今の宿の場所を教え・・・
「家じゃダメなのかヨ・・・」愚痴りながら、指定の宿に。

安宿。
毎度のことながら、流石のチョイスとも言える。
「はぁ。」
ノックを。指定の回数。このあたりは流石というか、ね。

ドアを開け放って出迎えた茶色いミコッテと。
ピンクなエレゼン。

「おい?誰ダ?」腰のダガーを右手でつまみ出して。
「待ったまった!フネラーレ!!待ってよ、ちょっと!ほんと!」
大の字になって、葬儀屋を止めるショコラ。
「君が俺の素材になってくれる女性かな?」
疑惑すら感じさせる台詞のエレゼン。
「ちょっと、お前ら、まてー!」
ショコラが珍しく吠えて。

「なんだヨ、ショコラ。ちゃんと説明しときゃ、僕だっテ。」
もっともだ。
「そうだね。俺は、武器なんて扱えないから安心してくれて結構。扱えるのは、人生を変える、このシザーだけさ。」
これも、もっともかもしれない。

「ああ、ええと。フネラーレ?」
「あン?」
「この人にさ。スタイリングとか、メイクとか。お任せしちゃったら、どう?とか。」
オドオド・・とはしてみた・・・

「ショコラ?その髪。カットしもらったの?」フネラーレから
「あ。うん。なので、紹介したんだよ。」
「ナルホド。確かにそれ、似合ってるヨ。」
「「どうも。」」と二人揃って。
「じゃ、僕もお願いするカ。」
「よろしく。貴女の人生を変えるようなカットをさせていただきましょう!」
「勝手に僕の人生かたるナ!」
「そいつは失礼。ですが・・」

(あのですね、ショコラさん?)
(なに?)
(本当にショコラさんの趣味の髪型でいいんです?)
(もちろん!わっち的には、コレが最強!)
(まあ・・そうですね。流行りといえば、流行りですし・・まあ、アレンジをして、オリジナリティはだしますけど。)
(ならよし!)
(いいんだ・・・)


長い黒髪を後ろで二つに分け、括りあげて、その結び糸もあまり華やか過ぎず、灰色を基調にしながらも、薄紫の花がアクセントに。
前髪は、以前と同じように、左だけ長く伸ばしてはいるものの、緩くウェーブをつけて、さりげなさを演出。

「ショコラ?」
フネラーレは、鏡を見ながら。
「はあい?」
「・・・悪くなイ。」
(うん。悪くない。)
「でしょー?わっちのオススメは、間違いがないんだよ!」
「じゃあ、今晩のメシ。」
「うん、任せて。いいところがあるんだ。スパイシーなお店がね!」
茶色いミコッテは、自信まんまんに。

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