「なあ?ロイ?」
黒髪(元)の青年は、甲冑に身を包み片割れの青年をみやる。
「どうかした?クロノ。」
淡い茶色の髪をざっくりとした青年が、砂埃の風に少々苦虫を噛み潰した表情で応える。
「いや、さ。 その・・・」
言葉が詰まるのを・・・耐えながらも、絞り出す。
「ここは、バス・・じゃないんだよな。」
応える青年。
「そうだよ。ゼロが言ってただろう?」
今更だ。
そう、わかってはいたが。
彼らの故郷は、ここよりも遥かに遠い場所にあり・・
そして、この街はにたような空気がある。
つい、郷愁に耽ってしまうのも仕方ないところだ。
「じゃあ、急ごう。」茶色い髪の青年、ロイが歩き出す。
「ああ。」
「でね!うちの調べだとさ。ぜろたんみたいな事は言えないんだけど!」
ララフェルの少女?は、丸いテーブルに据付けのイスに立ち上がりながら弁舌を振るう。
その先には、ほうほう?とうなづく同じくララフェルの少女?
この二人は、ツインテールにレッドブラウンの髪という、極めて似ている髪型に加えて、
「ララフェルの女性は、年齢がわからない」という共通点で、姉妹、というか、双子にしか見えない。
もちろん、血の繋がりもなく知り合いくらいしか見分けが付かないだろう。もちろん、親族が見れば分かるのだろうが・・
「で・・くろのたんは、いつくらいにくるの?」控えめだった方のっラフェル。
「うちの予想じゃ、もう少しかかるはず!あいつ、食いっ気満々だし、絶対寄り道してる!」
「あゆたん?パールは?」穏やかながら、少し言い聞かせるような口調。
「あー・・・「月」のパールは「コッチ」じゃ使えないんだよねー。」
「つかえねー」
「なにか言った?」
「ううん、デザート追加しるかー!」「おう!」
二人の冒険者らしいお客に、ララフェルの女将、モモディは(見ない顔・・・)とか思いながら。
「おや、お客さん。ワケアリ顔だね。あたしは、モモディ。このクイックサンドじゃ、お仕事の斡旋、面倒事の始末、各種紹介できるよ!
それに、恋愛相談ならキッチリ面倒みるよ?」
赤に近い桃色の髪のララフェルはニンマリと二人を見る。
あっけにとられながら・・・二人は・・・
「なあ?ロイ?」
「なんだよ、クロノ。」
二人は剣幕に近い女将の台詞で出鼻をくじかれ。
似たような背格好で、黙って立っていれば兄弟に見られそうだが、大人しそうな方なクロノと言われた青年は、
いかにも、な感じで甲冑に身を包み、「元」黒髪なのがバレバレな金髪。
モモディの感想で言えば、染めた後に伸ばしすぎて、地毛が黒いのが伸びて「逆さプディング」みたいと、後ほど笑われたようだ。
片割れの青年は、物静かで鎧などではなく普段着に近い布鎧で、職業がよくわからないが鍛えられた身体は冒険者のそれだろう。
「で?」先を促す女将。
「いや、その。人探しを。だな。だね、ああ。だよ?でいいのか?ロイ?」
クロノと呼ばれた青年は、詰まりながら。
「まずは、名乗りからだろ?クロノ・・ 失礼、僕はロイ。彼は親友のクロノ。」胸に手を当て、華麗に一礼。
「おまえ・・・」
「実は、人探しをお願いしたいんです。」ロイ、と名乗った青年は真摯な表情に少しばかり・・
「ロイ!いいところ持っていくなよ!って。あ。すみません。クロノです。」改めて礼を。
(おもしろいコンビだわー・・・でも・・私の耳には届いてないわね・・・この二人。)
「千里耳」の異名を持つ情報屋の彼女でも(在野には銘品は眠っているものね)と言わしめそうだ。
「はい。そのことなんですが、その・・・」
「あら?どうかしまして?」
ロイ、と名乗った青年にイタズラのような表情を浮かべる女将。
「あ、いや・・実は・・・」言い詰まる青年をどかせ、もう一人の青年。
「女性なんですよ!それも!」
「クロノ!少し落ち着け。彼女達はそこだよ!」
奥まったテーブルで、デザートを吟味する二人を指差すことなく、視線で伝え、かつ両手で親友の頭をワシ掴みにして振り向かせる。
ごき。
っていう音がしたかも知れない。
関節に異常を来たしたのか、180度近く首を振り向かされた青年はしばらく黙って立っている。頑丈な彼のことだ。問題はないだろう。
「ああ・・あの子達は、店に入った時からわかってたんで・・。申し訳ないです。」
「いいわよ。面白いものが見れたし。」
「それで、本題なんですが。」
「どうぞ?でも・・・お代は頂くし、ルールも説明しとかないとダメなんじゃない?」
「ルール?」
「ええ。見たところこういう場所には不慣れでしょう?」
「ああ・・・」確かに。バストゥークでは、ここまであからさまなやり取りはしていない。
商業都市としては、資源をいかに有効利用するか?がモットーで、ここまでシビアな街では無かった。
少しの戸惑いと、期待を含め、ロイは切り出す。
「正直、故郷とはかなりやり方が違うようだし。できるだけわかりやすくお願いできますか?」
「そうね。情報は有料。これは、買う方も売る方も当然だけど「貴方達が「この情報」を売り買いした」のも、商品になるのよ。
口止め料も払うなら当然黙っているけど、それ以上の額を言われたら売るからね。買われたくないなら、口止め料も大盤振る舞いにしとけば大丈夫じゃないかしら?」
「なるほど。思った以上にシビアなんですね。」
「まあね。商売だから。」
茶色い髪の青年と、女将の交渉、いや、腹の探り合いは続く。
「それで・・いまのやり取りのお値段は?」青年。
「あら、いやだ。初見さんにはサービスよ?」にっこりと女将。
(なるほど。初見ながら、こちらの見た目だけで「腕の立つ、初見」と見切った上での、ボーナス提示ですか。やりますねー・・・)
(この子、交渉術は長けてそうねー。萌えるわー!)
「おい。クロノ。」半分以上人形化した甲冑装備の親友をテーブルにつかそうとすると、なにかしらのスイッチが入ったかのように。
「おーい!アユナ!ゆいっこ!」
ララフェルの二人の元に走っていく。
(まあ、いいか・・・。)
ロイはそのまま交渉を続ける。
「ここに。」
革袋をカウンターに載せる。ずしりとした重さは硬貨が入ってる証でもある。
「このお値段で、今から伺う情報と、交渉の特秘ってどうです?」
「あら?ずいぶんと太っ腹ですのね?」
「それだけの情報が得られる、と思いましてね。」
「情報量と秘匿が一緒に入ってる、んですの?」
「まさか。割合をこれから交渉するんじゃないですか。」
「まあ。面白いご提案ですわね。」
「実は、ね。とりあえずは、中身のご検分をどうぞ。」すまし顔の青年。
内心は、ビクビクと・・・しかしLsの軍師は「いいじゃろ」とお墨付きをくれた。
「ギル硬貨で・・まあ、無粋はナシ、ね?」
「では、交渉といきましょう。」
「ええ。」
「手持ちの情報をお互いに出し合う、ランクを上げつつ、見合わないと思えたところでストップ。これでいいんですよね?」
「ええ。楽しみよ。」
暗い酒場の一角で、ゲームめいたやり取りが始まる。
そのやりとりは、最初は「ルール」を紙に書いて確認しながら、符丁があれば、ドリンクの種類で優先度を決め、飲めなければ、そのまま「飲めない」になる。
それほど酒の強いわけでもない青年にとって、かなりハードな設定だが、ディーラーがいつも強く設定されているのは常の通り。
今更、引き下がるわけにもいかない。彼女達のためにも。
こういう交渉事には、親友の自称「聖騎士」には向かない・・・どちらかといえば、もう一人の親友が向いている、
とは思うが・・彼もまた、放浪の身でそうそう都合よくはいかない。
ロイはできるだけ、情報を出し惜しみしつつ、を演出しつつ。もっとも、出し惜しみをしすぎれば、有力な情報も入ってこない。
ただ。
いきなりのチェックメイトを指されるとは、思いもよらなかったので・・・しばらく返答に詰まったのだけど、その沈黙が、良かったのか、悪かったのか、確かめる間もなく。
「そう。」
とだけ。
「あ・・え?」声を出すのさえ難しかったが・・・とりあえず、聞き返すことができた。
「どういう・・・ことです?」
「・・・来訪者探し・・・。よね?」
「・・・・。」
「そして、貴方たちも。」
「・・・・・・・・・・」
「彼の地は、確かに在る、と言われていたけれど。実際のところわからない事ばっかり。
でも、あっちこっちからの「来訪者」が原因で、ゴーレム騒ぎや、謎の女戦士とか。
こちらの世界じゃ、世界がひっくり返る度に、文明や文化が一々変わることもあるし。今更驚かないわ。」
「それはどうも。」はにかみながら・・・
「ああ、あゆちゃん?そのケーキ美味しそう。俺にもくれよ。」
「ないとうには、やらん!」
「なんだそれ?」
「くろのたん?女子の聖域に踏み込んでくる?」
「ゆいっこ!俺はだな!万が一にもがあったらだと!」
「ないとう。それは、前言の「美味しそう」がなければ良かったんだけどね・・」
「ああっ!それは気のせいだ!」
「言っちゃった」
「ゆいっこ?ソコ、ふぉろー!フォロー!てか、ないとう扱いはヤメろ!」
「ないとう」とは、ナイトに憧れるあまり、藤の枝を編んで鎖鎧のマネをしたりして遊んでる子供達のことだ・・・それに、
サーコート(鎖鎧の上に羽織る外套)までマネすると、かなり「イタイ」と表現される・・・
実際、彼の鎧はハイレベルな騎士のものだし、佩剣にしてもダンジョンを踏破した実績なくしては得られないハイクラスなのだ。
が。
いかんせん、性格が明るいせいか、はたまた、お伽草子に出てくる騎士に憧れていたせいか、その性格と、装備にかなりのギャップがあり、常にいじられている。
でも・・
(マユリさん、リンちゃん・・)
突如欠けた、彼女達の行方は知れない。
物憂げに、アユナのケーキからヒョイぱく。と一口を食べて。
その時に。
「おや?お困りのようですな?この。」
黒いスーツ、赤い花を胸につけたハイランダーの紳士?が声を。
「お困り、のようですな?」
念を押してきた。
「はぁ?」クロノは戸惑い顔で。
「この。」
「はあーい!あ、私は助手のナシュです!」ピンクの上着にグレイの髪のミコッテ。
「ふふ。事件屋こと、ヒルディブランド。」ヒゲの紳士は額に指をあて、屈むような姿勢で。
「この私に解けない謎などありえません!さあ!どうぞ。お悩みを言ってください!」
姿勢は、盛り上がった筋肉を披露するようなポーズになり、シャツやスーツを弾けさせそうな勢いであり・・・
(マズイな・・。ヘンなのが・・)
「あー!ホルディだ!」「あゆちゃん、ヒルディ。」「なんでもいいや!」「いいのか!」「ファンです!」「なら、名前くらい覚えとけ。」「なんでもいいいよ!」「開き直った!」
ララフェルの少女?二人が筋肉質な「事件屋」にまとわりつき、戯れながら・・・
このカオスに・・・・クロノはお手上げ・・・といったところか。
本当を言えば、猫の手も借りたい厄介事だが・・・それだけに、問題も出てくるから、できるだけ控えろ。とは、軍師たるタルタル・・いや、ララフェルからの言伝だ。
彼自身は、今はどこにいるのかが把握ができていない。
思わず・・・
「どこにあるやら、次元の狭間」ね。
彼の口癖だったが、いざソレを見つけてしまった彼は。
満足だったのか、どうなのか。
彼が望んだわけでもない「次元の狭間」に飲まれた二人を探してここまで来たはいいが。
余りにも、手がかりが少なすぎて。
バラバラに着いてしまい。
ゆい、と呼ばれる子は自分達と同時期に狭間に入ったはずだが、はぐれてしまい。
つい最近に合流できた、というわけだ。
そして、かつての「月」のリーダーから「絆」へと、移譲されたリーダーと、その姉妹分の二人が未だ見つからない。
焦っても仕方がないが・・しばらくは、様子見か。
クロノは、目の前の珍劇を笑いをこらえながら見つつ。
親友を見やる。
そこに。
「クロノ。」
茶髪の青年。
「ああ。」
甲冑の青年が応える。
「有力、かどうかはわからない。ただ、北方のクルザスという地方で、黒髪の女性二人が街に入ったらしい。」
「それは・・」
「ああ・・。多分、だけど「あの二人」かもしれない、けど・・」
「歯切れが悪いな?」
「多分・・一人は、リンちゃんだ。多分、というのは、もう一人は格闘家らしい。」
「・・・・・マユリさんは・・・銃使いだったな・・。」
「という情報は得られたよ。」
「ご苦労、ロイ。」
「いや。ただ・・」
「ただ?」
「この情報を得たのと、口止めで、旅費のほとんど全部が飛んだ。」
「あ?」
「あと、安宿で2,3泊、2食パンと水だけで過ごした後、ぼくらはこの街では生活できなくなる。」
「・・・・は?」
「なので、彼女達のデザートフルコースみたいなのをなんとか止めてくれると嬉しいね・・・」
パタリ、と体力よりも、精神的に疲れた青年が倒れて・・・
「あ、ああ・・ロイ?」
クロノの視線の向こうでは、自称事件屋二人と、タルタル二人がケーキの食べ比べ選手権を開いており、その負けた時の自腹ゴチが・・・
「まったまったあああ!」
参戦するクロノ。
そこじゃないだろう・・・・・・
倒れたロイは、ツッコミを入れたかったが・・・もう、諦めた。