969外伝2 かつて・・続き・・

ん・・む・・

目が開く。
朝日が目に眩しい。
「もう・・朝か。」
エレゼンの青年は、頭を振りながら顔を洗いに寝台から身を起こす。
今日の予定はギルドから受けたリーヴと呼ばれる依頼。

「人殺し・・か。」実際に術式を他人に向けたことはあるが、発動はさせたことがない。
昨日、ひょんな事から知り合ったあの傭兵・・ヴォルフとか言ったか。
自分よりもいくつか年上のようだが、そんなことは慣れたようだった・・自分も慣れてしまうのだろうか?
洗面台に備え付けの水瓶から手に貯めた水を見る。これが赤い液体になる・・いや、自分なら消し炭になるのか。
「何はともあれ・・やるだけさ。」顔を洗う。


「おう!ちゃんと寝れたか?」
開口一番、傭兵はその一言と、エールのジョッキで出迎えた。
「朝っぱらから飲んでるんですか?」
お茶を頼むと、席に着く。
「ボウズ、こういうのは景気づけだ。ベロベロに酔う前の練習みたいなモンだ。」
「はあ・・(要するに、絶対に祝杯をあげる、ってことか。)」
「じゃあ、さっさと終わらせよう。今日中にこの続きをするぜ。」立ち上がる傭兵。
「え?まだお茶が・・・」
「冷める前に帰ってくりゃいいだろ?」
「むちゃくちゃだ・・」

チョコボ厩舎まで行き、二頭を用立てるとそのまま跨り駆けていく。
「乗った事はあるよな?」「はい。」
どうにもぎこちなく、チョコボの方がよく知ったもので振り落とさないように段差を選んで駆けていく様を見ながら傭兵が苦笑いを浮かべる。

このあたり、か。先を行く傭兵がチョコボから飛び降り、自分も真似をして派手にこける。
「そんなローブで飛び降りるもんじゃねえ。」大声で笑わないのは、そろそろだからだろうか。
「・・・。」苦虫を噛み潰した表情で真新しい長衣の裾を払う。
「よし。行くぜぇ。向こうに崖っぷちがある。大体そのへんに一人はいやがるが、そいつは無視していい。その代わり、周りの魔物に注意をしとけ。」
「はい。」少し声がこわばる・・・

斧を背負った青年は、チョコボをそのままに堂々と歩いていく。同じく、ゆっくりと周りをきにしつつ、ついて行く。できるだけ距離をあけて。

アルフレートは(大丈夫なのか?あの男・・・)独り言を・・
だが、意に反してというか。遠目に見える傭兵は、おそらくは賊の男と談笑してるようだ。
まさか?あいつの方が自分を騙している賊なのじゃないか?という疑問も持ち上がってくる。
そして、その予感が的中したかのように、傭兵はこちら側を指差し、何か言っているようだ。
そして、賊がこちらに振り向き剣を抜き放つと駆け出してきた。

「なっ!? あの野郎!」構成を練る。
それに気づいたのであろう、賊は腕で身をかばうようにしながら駆けてくる。
どうやら味方もいる上に、術士の若造一人くらいじゃいちいち大声を張り上げることもない、と踏んだようだ。
彼にしてみれば、貧弱なガキ相手に大声を出す様な恥さらしはしたくないのだろう。
だけど。

「いいか!それ以上動くな!」アルフレートが声をあげる。
術式を展開させる。
相手も何らかの術式が組まれているのは理解はしてるだろうが、駆け出しのガキだとタカをくくり、足を止めない。
・・・術式を一旦、放棄して。
「それ以上、動かないほうがいい。」もう一度。
賊の後ろからは「自称傭兵」の青年が斧を振り上げて走ってきている。そして、こちらにウインクしてきた。
「ガキが。死ねやっ!」剣が振り上げられ、斧が振り下ろされる。

次の瞬間、鮮血が巻き上げられ、賊の右腕が宙を舞い、返す刃で首が吹き飛ばされる。
「!?」一瞬の事に、まるで冗談かと思える光景。
頭部と右腕を失った体は惰性に任せてくるりと、人形のように回転すると、ドサリと地面に倒れ、微かに動くが、それだけで動くのを諦めた。

「アンタ・・」
「あ?ああ。さっきのね。交替だってウソついてやっただけや。」
他には見張りがいなかったらしい。ということか。
目の前の死体をできるだけ見ないように、続ける。
「てっきり裏切ったのかと・・」
「あんな連中相手に真正面から、ハイ討伐に来ましたよ、なんて言ってられるかての。不意打ち、だまし討ち、なんでも使うのが傭兵流だ。それに、いい囮役だったぜ?」
「な!そ・・」狼狽し・・
「ああ、狙撃役ってのな。ありゃウソだ。殺めたことのねえヤツにそんなマネができるわきゃねえし。
むしろ、あの場面でしっかり術式を練って、注意を引きつけたのは賞賛モノだ。」
ニッと野性的な笑み。
「・・・度胸・・ですか?」
「殺すのに度胸がいるか?と聞かれたら、いるだろうな。俺も最初の仕事の時はブルっちまって、武器どころか、物陰に隠れて眺めているだけだった。
ただ、そのおかげで依頼人や、仲間にも被害が及んだよ。後は野性的な本能かね?気がついたら自分の手が血まみれだった。
死にたくなかったし、仲間が死ぬのも嫌だった。それだけさ。」
「・・・・」
「冒険者なんて言っても、いつか誰かの死に遭遇する。傭兵は、そっちばかりが先立ってくるからな。」
「何故、傭兵を?」
「俺んとこは寒村でな。銭儲けさ。一番手っ取り早い。まあ、賭博も儲かるが、大抵負ける。最近じゃ見所のあるやつがいるがな。」
「俺も・・慣れた方がいい、のか?」
「好きにしな。初仕事だろ?度胸をつけるには丁度いいが・・ギルドのやつも魔物退治じゃなく、いきなり対人とはね。イヤミの一つも言ってやらんと。」
「それには・・・生きて帰らないと、だよな?」
「ああ。いい面構えになったじゃねえか?」
「そりゃ、目の前であんなのを見せられたらね。」
「じゃあ、もっと手っ取り早くやるぞ。今の奴が戻ってこないと本物の交替が来るかもしれん。なんでも先手必勝だ。」「了解。」

「動かないほうがいい。種は撒いてある。今、動けば灰になるぞ!」
「なんだ?このガキ!」
剣を構えた賊がこちらに駆け出してくる。構成がわからないのだろう、気にした風でもなく。
ボムっ!
炎が吹き上がる。
「なんだ?これ!」言ってるそばから、次々と火柱が連続して巻き起こる。
その賊の首が飛んでいく。
「やるねえ、発火者さんよ!」
「こう見えても、優等生なんだ!」この声を呪にして、炎を立ち上げ、続いて火炎を撒き散らす。
「ひゅう!」口笛と共に「派手好きなんだな。大人しそうに見えて。」
「なんか、吹っ切れたかもしれないな。でも楽しくはない。」
「ま、アレ見ればな。」賊の犠牲者らしい遺体を・・

陽が落ちる前には、賊のあら方を始末できた。
「初陣にしちゃあ、よくできた方だ。大抵のヤツは逃げ出すか、くたばっちまう。まあ、傭兵稼業の話だが。」
「・・・ホメてんのか?」
「ああ。アルフレート、とかいったな。ボンボンかと思ったが、なかなかどうして、いい傭兵になれるな。」「俺は冒険者だ。」

コイツの方が、よほど賊っぽい・・・もし、自分に子供ができたら、こんな不意打ち、だまし討ちなんて無しで、正々堂々と勝負できるように育てたい。
できれば男の子がいいが・・

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