966外伝2 黒剣

鈍い色彩。
灰色と、黒と、影と、紅と、白と、青黒い・・血の色。

はぁ・・はぁ・・・

息が荒いのが自分でも分かる。
そして、何故息が荒くなっているのか。
それは理解もできるし、現状をみれば、例え通りすがりの第三者であっても容易に推測できるだろう。

彼女は、荒い息遣いを地面に突き刺した大剣に委ね、膝をついていた。


雪の峡谷。
イシュガルドの庭とも呼べる地、クルザス地方にて。

ほつれた長めの黒髪を、無造作に後ろに束ねたヒューランの女性は、通りすがりの女性に視線を移す。

「あんた、ほんまムチャしよるな。うちが通り過ぎひんかったら、今頃は雪のしたやで?」
黒髪を雑に伸ばした女性が声をかける。
防寒着だろうか?それとも長衣(ローブ)だろうか?
出で立ちはともかく、呆れ顔に言葉遣いは、術士らしくない、といえば失礼かもしれない。
「まあ、ええわ。行きがけの駄賃やおもたら、人助けもええもんや。次からは無茶しなや?」
チョコボを引き連れた女性は、そのまま何処かに遠ざかる。

「あ、その・・」
声を出すのが躊躇うが、ここは・・
「ありがとうございました。」
お辞儀を。
「気にせんとき。こういうのは、お互い様や。今度、うちがエライ目に遭うとったら助けてや。そんだけや。」
「あの・・」
遠慮がちに。
「その・・お名前を聞いてもいいでしょうか?あ、その!ご迷惑でなければ・・・」後半は消え入りそうな声音

「うちか。エレディタ、や。ほんでな、あんたはなんて言うんや?」少し、はすっぱな言い方に思いつき・・
「あ。申し訳ないです。あたしは・・アイリーン、です。お助け頂いてありがとうございました。」
「ほうか。ほな、な。」踵を返す彼女に
「その・・厚かましくもお願いがあります。」
「なんや?」足を止め。
「この近くに街は無いでしょうか?」
「・・・」あんまりといえば、それまでだが・・この雪原に、街の場所を問うのは仕方ないとしても、街の有無を聞く、なんてのは、ありえない話。
なぜなら、知らないと凍え死ぬか、魔物の餌食になるか、その二択しかない。
女性の表情は、とても真面目で、騙したり、冗談とも思えない。
「・・・近くに、ドラゴンヘッドいうトコがあるわ。」
「その・・繰り返し、厚かましいお願いですが、案内していただけますでしょうか?」
「ふん。」すがるような目で見られてしまうと、断れない性格なエレディタは
「しょうがあらへんな。ついてき。」歩みを始める。

「その・・ええっと。あたしは・・」
身の上話、か。悲劇に見舞われたというなら、それこそ自分を含め、いろいろ見てきたが。
これほど稀有な「悲劇」もないだろう、という感じだった。
「と、いうわけなんです。」

彼女いわく、気がついたらこの雪原に放り出され、以前の記憶もまばらな上に、名前と装備くらいしか持っていない、
しかも運悪く魔物に出会ってしまい、なんとか立ち回れたものの、結局は行きすがりの回復術式で事なきを得た、という話。
まゆつばものだが、異世界から来たのかも・・と、口走っていたが・・
実際、異世界からの来訪者は居なかったワケでもない。
とんでもない術士がゴーレムを召喚し、3国で大騒ぎになったり、美貌の剣士が突如現れたり、など。
どれも信憑性に欠ける、と言う方が「おかしい」というくらいにリアリティに溢れる話だった。
それから考えると、異邦人が現れても不思議ではないのかもしれない。

「まあ、少し遠いけど・・その装備やと、雪道はしんどいやろ?チョコボに乗っとき。」
「あ、ありがとうございます・・」
彼女の装備はといえば・・
暗褐色の胸当てに、各所を板金を使った鎧。女性らしい曲線を描いてはいるものの・・
間違っても、一人で雪原を渡る装備じゃない。極めつけは、片手で振るうには大きすぎる剣。
こんな重装備で、一人雪原を彷徨うとなれば、もはや自殺志願者しかいない。

「で、やな?何故こんなトコにおるんか、わからへん。でええにゃな?」数度目の確認を。
「・・はい・・。たしか・・あたしには、パートナーと呼べる、妹分がいたのです・・年齢はあたしより少し下でしたが、あたしよりしっかりしてて、むしろ姉のような存在で。」
「ほうか。ほんで、そのパートナーとは別れたんやな?」
「いえ・・一緒にいたはずなんです。でも・・・意識が途切れ、この雪原で意識が戻り・・後はご覧のとおりなのです。」
「ほうか。とりあえず、街に着いたらゆっくりしいや。うちもヒマやさかい、しばらくは面倒みたげる。」
「・・すみません。」
「ええって。そんなに謝られたら、うちが悪いことしたみたいやないか。な?」
「ありがとうございます。」やっと微笑みを
「じゃあ、宿まで行く道すがら、分かる範囲でええ。話を聞かせてや。しんどかったら、無理はせんといてな。うちも、おもろい話あるさかい、笑わせたるわ!」
「ありがとう。」

二人は、ドラゴンヘッドに歩んでいく・・・

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