鈍い色彩。
灰色と、黒と、影と、紅と、白と、青黒い・・血の色。
はぁ・・はぁ・・・
息が荒いのが自分でも分かる。
そして、何故息が荒くなっているのか。
それは理解もできるし、現状をみれば、例え通りすがりの第三者であっても容易に推測できるだろう。
彼女は、荒い息遣いを地面に突き刺した大剣に委ね、膝をついていた。
雪の峡谷。
イシュガルドの庭とも呼べる地、クルザス地方にて。
ほつれた長めの黒髪を、無造作に後ろに束ねたヒューランの女性は、通りすがりの女性に視線を移す。
「あんた、ほんまムチャしよるな。うちが通り過ぎひんかったら、今頃は雪のしたやで?」
黒髪を雑に伸ばした女性が声をかける。
防寒着だろうか?それとも長衣(ローブ)だろうか?
出で立ちはともかく、呆れ顔に言葉遣いは、術士らしくない、といえば失礼かもしれない。
「まあ、ええわ。行きがけの駄賃やおもたら、人助けもええもんや。次からは無茶しなや?」
チョコボを引き連れた女性は、そのまま何処かに遠ざかる。
「あ、その・・」
声を出すのが躊躇うが、ここは・・
「ありがとうございました。」
お辞儀を。
「気にせんとき。こういうのは、お互い様や。今度、うちがエライ目に遭うとったら助けてや。そんだけや。」
「あの・・」
遠慮がちに。
「その・・お名前を聞いてもいいでしょうか?あ、その!ご迷惑でなければ・・・」後半は消え入りそうな声音
「うちか。エレディタ、や。ほんでな、あんたはなんて言うんや?」少し、はすっぱな言い方に思いつき・・
「あ。申し訳ないです。あたしは・・アイリーン、です。お助け頂いてありがとうございました。」
「ほうか。ほな、な。」踵を返す彼女に
「その・・厚かましくもお願いがあります。」
「なんや?」足を止め。
「この近くに街は無いでしょうか?」
「・・・」あんまりといえば、それまでだが・・この雪原に、街の場所を問うのは仕方ないとしても、街の有無を聞く、なんてのは、ありえない話。
なぜなら、知らないと凍え死ぬか、魔物の餌食になるか、その二択しかない。
女性の表情は、とても真面目で、騙したり、冗談とも思えない。
「・・・近くに、ドラゴンヘッドいうトコがあるわ。」
「その・・繰り返し、厚かましいお願いですが、案内していただけますでしょうか?」
「ふん。」すがるような目で見られてしまうと、断れない性格なエレディタは
「しょうがあらへんな。ついてき。」歩みを始める。
「その・・ええっと。あたしは・・」
身の上話、か。悲劇に見舞われたというなら、それこそ自分を含め、いろいろ見てきたが。
これほど稀有な「悲劇」もないだろう、という感じだった。
「と、いうわけなんです。」
彼女いわく、気がついたらこの雪原に放り出され、以前の記憶もまばらな上に、名前と装備くらいしか持っていない、
しかも運悪く魔物に出会ってしまい、なんとか立ち回れたものの、結局は行きすがりの回復術式で事なきを得た、という話。
まゆつばものだが、異世界から来たのかも・・と、口走っていたが・・
実際、異世界からの来訪者は居なかったワケでもない。
とんでもない術士がゴーレムを召喚し、3国で大騒ぎになったり、美貌の剣士が突如現れたり、など。
どれも信憑性に欠ける、と言う方が「おかしい」というくらいにリアリティに溢れる話だった。
それから考えると、異邦人が現れても不思議ではないのかもしれない。
「まあ、少し遠いけど・・その装備やと、雪道はしんどいやろ?チョコボに乗っとき。」
「あ、ありがとうございます・・」
彼女の装備はといえば・・
暗褐色の胸当てに、各所を板金を使った鎧。女性らしい曲線を描いてはいるものの・・
間違っても、一人で雪原を渡る装備じゃない。極めつけは、片手で振るうには大きすぎる剣。
こんな重装備で、一人雪原を彷徨うとなれば、もはや自殺志願者しかいない。
「で、やな?何故こんなトコにおるんか、わからへん。でええにゃな?」数度目の確認を。
「・・はい・・。たしか・・あたしには、パートナーと呼べる、妹分がいたのです・・年齢はあたしより少し下でしたが、あたしよりしっかりしてて、むしろ姉のような存在で。」
「ほうか。ほんで、そのパートナーとは別れたんやな?」
「いえ・・一緒にいたはずなんです。でも・・・意識が途切れ、この雪原で意識が戻り・・後はご覧のとおりなのです。」
「ほうか。とりあえず、街に着いたらゆっくりしいや。うちもヒマやさかい、しばらくは面倒みたげる。」
「・・すみません。」
「ええって。そんなに謝られたら、うちが悪いことしたみたいやないか。な?」
「ありがとうございます。」やっと微笑みを
「じゃあ、宿まで行く道すがら、分かる範囲でええ。話を聞かせてや。しんどかったら、無理はせんといてな。うちも、おもろい話あるさかい、笑わせたるわ!」
「ありがとう。」
二人は、ドラゴンヘッドに歩んでいく・・・